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『ハン・ソロ』やマーベル作品にも参加 VFXアーティスト渡辺潤が語る「ハリウッドの現場」

2018年12月01日 13:12  リアルサウンド

リアルサウンド

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 CGやデジタル合成などの特殊視覚効果を指すVFX。特撮映画やアニメ、CMなどそのグラフィック技術は多岐に渡り用いられ、現代では使用されていることが当たり前のようになっているのが実情だ。


 そんな映画史において欠かすことのできないVFXを手がける日本人エフェクト・アーティストの渡辺潤が、10月25日に東京・デジタルハリウッド大学にて開催された「VFXメイキングセミナー」に登壇した。渡辺はロサンゼルスを拠点に、これまで『ベイマックス』『ジュラシック・ワールド』『アントマン&ワスプ』『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』など、数多くのハリウッド作品のエフェクトに携わった人物だ。


 『ハン・ソロ』のジャケットを着用した渡辺を迎え、セミナーがスタート。スクリーンに彼が担当した『ハン・ソロ』『アントマン&ワスプ』の映像を流し、どのようにそれらのショットを作成していったかが明かされた。ハリウッドの現場はアニメーションチームが全体のアニメを作り、モデリングチームがモデルを作っていくといった分業制。渡辺が所属するエフェクトチームが『ハン・ソロ』で担当するのは、霧や爆発、破片といった細かい映像効果だ。


 ハン・ソロの愛機、ミレニアム・ファルコン号が霧のトンネルに突入し旋回するショットでは、一時停止するのもままならないほどの一瞬のシーンにも、大勢のスタッフが数日、数ケ月にも渡り関わっていることを熱く力説。「映画観てて、ポップコーンに手突っ込んでたら終わってますからね。悲しいですけど、私たちの仕事って大体そういうものなんです。短いショットでも全力で作業をする」と語った。また、ミレニアム・ファルコン号に隠れてしまっているが、巨大戦艦スター・デストロイヤーが実際にはCGで描かれているという見えない努力には驚かされた。


 この日はVFXをはじめとした映像技術を専攻している生徒を相手にしているということで、3DCGツール「Houdini」、プログラミングにおいて複数の処理を用いる「プロシージャ」、動いている対象をカメラで撮影した際に生じるぶれ「モーションブラー」など、多くの専門用語を渡辺が口にしており、そのVFXの世界の専門性、奥深さを感じさせた。


 最後に、渡辺は「ストーリーテリングが大事。私たちの仕事は、ストーリーを味付けするのがポジションで、カレーライスに塩とか福神漬けを足すようなもの」「私たちは何かを表現するパフォーマーで、デベロップするために、日々の生活の中でインプットするのも大事」とCG・VFXアーティストを目指す生徒たちに言葉を送った。


 セミナー終了後、リアルサウンドでは渡辺にインタビューを行ない、VFXに携わるきっかけになった原体験や日本におけるVFXアーティストのレベル、今後のビジョンについて聞いた。この記事を機に、『スター・ウォーズ』や『マーベル・スタジオ』など、多くの作品で使用されている“スパイス”ことVFXに目を向けてみて欲しい。


ーーまずは、VFXの仕事に就こうと思ったきっかけから教えて下さい。


渡辺潤(以下、渡辺):高校生の時に観たハリウッド映画の影響はすごく大きいと思います。日本の映画とはスケール感が全く違って、VFXや画質、視覚効果に興味を持っていたので、どうやったらそういった映画ができるんだろうと感じていました。


ーー渡辺さんにとって原体験となった映画は?


渡辺:子供の頃に観た『スター・ウォーズ』シリーズや『バック・トゥ・ザ・フューチャー』です。『スター・ウォーズ』はミニチュア模型を撮影しているということを本で読んでいて、戦艦とか動き回っていたり、どうやってあんなことができるんだというのに興味が湧いていました。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を観てからは、(スティーヴン・)スピルバーグの映画がたくさん発表されるようになり、ユニバーサル(スタジオ)の作品をたくさん観たりして、将来そういった世界に進みたいなと、漠然に考えるようになりましたね。相当刺激を受けました。


ーーそこから映画の道を目指して行ったと。


渡辺:でも、その時は趣味というか憧れで、すぐにその道に進みたいというわけではなかったんですよね。好きが高じて高校の文化祭で、生徒会長がエスパーで手から光線を出して学校を乗っ取ろうとする敵を倒す、みたいな映画を撮ったりして。やっぱり映画は面白いなと思いつつも、進路を選ぶ時に、トランペットプレイヤーになるか、レコーディングエンジニアになるか、それともCGの仕事を選ぶか。その頃、段々とCGが出てきた時期で、東京工学院専門学校のCG科(現在の現CGクリエーター科)に1期生という形で入学して、なんとか今日までやってこれたという感じですね。


ーーいろんな選択肢があった中で、CGを選んだんですね。例えば、『スター・ウォーズ』の旧三部作(エピソード4・5・6)と続三部作(エピソード7・8・9)を比べても、グラフィックの進化は歴然ですが、昨今の映画グラフィックの進化について渡辺さんはどう感じていますか?


渡辺:昔は一画面に乗るデータの数が決まっていたんですが、コンピューターの処理速度、メモリの量もどんどん増えていって、『アベンジャーズ』シリーズではものすごい人数が一画面で戦っている。昔の『スター・ウォーズ』は、ミニチュアを撮るのにスタジオの照明を最大限に調節して、立体感を出しているんです。自分が関わった『ハン・ソロ』では、ミレニアム・ファルコンがCGで動いているシーンを観て、ミニチュアのシーンを今撮影してもかっこいいんじゃないかなと思うことがありました。コンピューターでは、微妙な光の明暗や影、ディテールを後付けで調節して作るんですけど、ミニチュアの場合それが自然に出て、時にすごいものが出来ることがあるんですよね。ミニチュアの素晴らしさと、コンピューターの技術とで、今戦わせたらどうなるんだろうと思ったりします。今でもハリウッドでは巨大な建物を破壊したりする場合などに、ミニチュアが使われることはあるんですけれども、ミニチュアの良さが見直されることがあるのかなと思いながら『ハン・ソロ』に参加していました。


ーー渡辺さんは海外を拠点に活動していらっしゃいますが、制作現場の雰囲気ではアメリカと日本ではどのように違いますか?


渡辺:文化、考え方も違うし、オフィスも、業界全体で見た時にとにかく全てが違いますね。


ーー個々のレベルではどうでしょう?


渡辺:アーティスト個々のレベルでは、日米そんなに変わらないかもしれません。日本でゲームやCMを作りたいという人もいますよね。日本の仕事が好きな人は日本でやる方がいいと思うし、海外でハリウッドの映画をやりたいという人は海外に行くといい。海外にいるから優秀ということはなくて、日本でも世界で通用する人材がたくさんいます。


ーー渡辺さんは1996年に渡米してから、様々な作品に参加してきましたが、これまでで最も印象的だった作品はなんですか?


渡辺:自分でも挑戦ができて面白かったのは、『スピード・レーサー』です。いろいろな仕掛けを作らせてもらって、それをほかのアーティストに使っていただけたり、ものすごい大変なプロジェクトだったんですけども、面白かったです。また、『ベイマックス』の時は、ディズニー・アニメーション・スタジオで働ける上に、『アナと雪の女王』がヒットした次の年だったので、担当したみなさんと一緒に作業をしながら、『アナ雪』の話を聞けたりしました。アカデミー賞が開催されるドルビー・シアターで完成披露試写会が開かれたのですが、自分の名前が最後に出てきた時は嬉しかったですね。あとは、今回の『ハン・ソロ』です。『スター・ウォーズ』の作品にいつかは関わりたいという願いはあったので、配属されると聞いた時は嬉しかったです。ただ、過去に会社がなくなったりと、大変な思いもしてきたので、本当に働ける日が来るまでは、あまり喜ばないようにしていたんです。前日になって、急に中止とか、断られることもアメリカではしばしばで。現場に入ると喜ぶどころか緊張で、目の前には有名なスーパーバイザーが歩いてますし、ストームトルーパーとかC-3POのフィギュアが置いてあったりしました。今回はスピンオフでしたので、来年の『エピソード9』で、メインの『スター・ウォーズ』にもぜひ参加したいと願っています。


ーー30本以上の作品に参加してきた渡辺さんが、今だから思うVFX制作の魅力は?


渡辺:一つは実在しないものを作ることができること。作業を始める前まではグリーンスクリーンに俳優さんだけだったりして、最終的にVFXのチームが背景を埋めて画を作っていくわけです。画が完成した時は、感慨深いですよね。先ほどセミナーの中で「ストーリーテリングが大事」と話しましたが、ストーリーが成り立って、進んでいくのをヘルプする。それが面白いところですよね。日本でテレビコマーシャルの仕事をしていた時は、“CGをやっている”という意識があった。海外に行って、映画を担当するようになり、チームで映画を作っているという意識に変わったのは自分でも興味深い点だと思います。


ーー最後に渡辺さんの今後のビジョン、目標を聞かせてください。


渡辺:当初の目標は、映画のスクリーンに名前が出たら死んでもいいと思ってたんですけど、本当に出たら死ねなくなっちゃいまして(笑)。次はディズニーとかI.L.M(インダストリアル・ライト&マジック)で働けたら死んでもいいと思っていたら、幸いそれも達成されて、また死ねなくなっちゃいまして(笑)。次は、自分のスキルを上げて、ご縁とタイミングを大事にしながら、さらにいろいろな作品に携わっていければとは思ってます。
(取材・文・写真=渡辺彰浩)