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『真っ赤な星』桜井ユキ×井樫彩監督対談 「私の中から生まれてくるものを出し切った」

2018年12月01日 13:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 井樫彩監督の初長編映画となる『真っ赤な星』が本日12月1日より公開となる。井樫監督は、前作『溶ける』が第70回カンヌ国際映画祭シネフォンダシオンに正式出品されるなど、国内外で注目を集めている新鋭。本作では、学校にも家にも居場所がない14歳の少女・陽と、体を売って生計を立てる27歳の元看護師の女性・弥生の、交わることのない愛の日々が描かれる。


参考:<a href=”http://www.realsound.jp/movie/2018/12/post-286601.html”>動画はこちら</a>


 リアルサウンド映画部では、本作で日本人史上最年少でのレインダンス映画祭のコンペティション部門出品も果たした井樫監督と、弥生を演じた桜井ユキにインタビュー。本作製作のきっかけから、「映画が完成しないかもしれない」とまで思ったという撮影での苦労、今後の展望まで話を聞いた。


ーー撮影を終えてみて、上映が近づくいまの心境はいかがですか?


井樫彩(以下、井樫):今まで自分の映画が上映されることについて、「見てくれたら嬉しい」くらいの気持ちだったんですけど、今回は必死です(笑)。


桜井ユキ(以下、桜井):撮影ではいろんなことがあって。映画って撮影がスタートしたら、撮り終わるものという前提で取り組みますが、「完成しないかもしれない」ということが本当に起こった時、弥生という役を生き抜きたいという思いが強く湧きました。だから、完成してこうして皆さんの元に届けられることは奇跡だなと思って、本当に感慨深いです。


ーー井樫監督が初長編となる本作の製作に取り組むきっかけは?


井樫:当時、多分今となっては好きだったんだろうなと思う子がいて、その子と岩井俊二監督の『リップヴァンウィンクルの花嫁』の話をしたんです。作品の主人公である2人が、この人のためなら死ねる、お互い唯一の存在であるという関係なんですけど、そういう関係は、現実世界にもあり得るのかという話をして。その話をしている時点で、「あり得ない」という前提が2人の間にあって、その子のことを好きだと思っていたけど、根本的に深いところでは全然繋がっていなかったんだと気付きました。この気持ちを映画にしようと考えていた時に、私が小学生の頃、入院した時に憧れの看護師さんがいて、その看護師さんに泣かれたことをふと思い出したんです。だから最初のシーンはリアルに体験したようなことなんですよね。その幼い頃の自分の体験と、大人になって感じた気持ちという2つの要素を合わせて映画にするために、小さい頃の自分を陽、大人の自分を弥生として作り始めました。


ーー桜井さんは、そういった井樫監督のエピソードをオーディションを受ける段階で聞いていたんですか?


桜井:いえ。オーディションを受ける時は、役柄が書いてあるプロットを渡されただけでした。なので、脚本を読ませていただいたのは決まってからなんです。


ーー最初、脚本を読んだ時の感想は?


桜井:まず、プロットを読んだ段階で深みと奥行きのあるストーリーになるんだろうなとは思っていたんですけど、できあがった脚本を読んだら、予想していたものをはるかに超えていて。最初に台本を読んだ時って、生身の人間がいるわけじゃないので、漠然と感じることが多いんですけど、『真っ赤な星』は台本の段階で血が通っている感じがすごく新鮮でしたし、そこで一気にスイッチが入りました。


ーー井樫監督から、弥生を演じるにあたってアドバイスはありましたか?


桜井:アドバイスではないですけど、コミュニケーションはすごく密にとってくださいました。弥生という役をどう演じるかというよりも、私の人生を絡めて、話を進めてくれたというか。もともと私は役作りというのがよくわからないんですけど、そういう意味でも今回の弥生を演じるにあたって、事前に監督といろんな話ができたのは大きかったですね。


ーー井樫監督は、そういったやり方を意識的に行っていたんですか?


井樫:基本的には自由にやってもらいたいと思っていました。話をしていく中で、言葉の端々や表情にその人が出てくるので、桜井さんと話してみて、何も言わなくても私の意図を汲み取ってくれるだろうと感じていました。


ーーオーディションで、桜井さんを選んだ理由は?


井樫:もともと作品を見ていたので桜井さんのことは知っていたんです。最初に桜井さんが入ってきた瞬間に決めました。だいたいみんなそうやって言うでしょ? 言わない?(笑)。


桜井:言う。


井樫:言うよね。入った瞬間に決まるんです。桜井さんだけずっと外を見ていたり、渡された脚本にずっと目を通したりしていて、外界をシャットアウトしているんですよ。弥生にピッタリじゃん! と思って(笑)。こちらが聞いたことに対しても、他の模範回答を言うような人とは違う答えでいいなあと思って、1シーンだけ芝居してもらったんですけど「見るまでもないよね! 決まり!」って感じです(笑)。


ーー桜井さんは今の井樫監督の言葉を聞いていかがですか?


桜井:多分、私は周りにあまり興味がないんでしょうね。模範回答って監督がおっしゃっていましたけど、その人がベストな答えを選んで喋っているのって分かるじゃないですか? オーディションだし、この役だからこう答えた方がいいみたいな。そういう答えが出てきた途端に、余計興味がなくなるんです。監督は、オーディションでは聞きにくいような深い質問をしてくださって、素敵な質問をされる監督だな、面白いなと思っていました。


ーー今までのやりとりを見ていても、お二人はすごく気が合ったんだなと思います。


桜井:それはあると思います。持っている温度感が一緒だなと思います。


ーー井樫監督は、小松未来さんをキャスティングされた時はまた桜井さんとは違うやり取りだったんですか?


井樫:出来るだけ桜井さんと精神年齢の差がある子が良くて、10代後半の方を探していたんですけど、なかなか見つからなかったんです。そんな時に竹内里紗監督の『みつこと宇宙こぶ』の主演は、私が探しているような子だと言われて、見にいったんです。惹かれるものがあったので、オーディションに来てもらって最終的に小松さんになりました。


ーー桜井さんは、小松さんとのやり取りはいかがでしたか?


桜井:小松ちゃんがどうこうというより、正直、結構悲惨なスタートでしたね。悲惨でしたよね?


井樫:悲惨だった。


桜井:小松ちゃんは見た目の素朴さよりも大人っぽい子なんですが、陽にはそうあって欲しくなくて。弥生もそうですけど、陽はとても難しい役なんです。私と小松ちゃんの関係性も含めて。映画を作っていく上で、私に感情を抱いてもらわなければいけないし、最初は「え、これ大丈夫かな……」みたいな空気が漂ってましたね。


井樫:「これはどうしたら……」みたいな(笑)。


桜井:監督からも私からも小松ちゃんに色々話したので、本人も知っていることですが、だいぶ雲行きの怪しいスタートだったと思います。


ーー一番大変だった撮影のシーンは?


井樫:結局、一番大変だったのは初日かもしれない。


桜井:そうですね。


井樫:初日が病院の冒頭のシーンだったのですが、カット割りも複雑だったんです。感情の部分に関しても、小松さんが陽という役に入り込めていなくて。陽ちゃんの言葉を受けて、弥生が泣くシーンで、現場は「どうしよう……」みたいな。あのシーンは結構桜井さんが無理した場面ですね。


桜井:2人のシーンの初日で、お互い役を掴みきれていない中での撮影でもあったし、すごく繊細なシーンでズレが許されなかったので、確かに難しくはあったんです。でも、その撮影で、現場全体が陽と弥生の気持ちのやり取りの難しさと大切さを認識して「ちょっと気合い入れないと」という空気が漂ったので、今思うとよかったのかなと思います。


ーーお2人とも様々な苦労を経て公開にたどり着いた今、今後の展望はありますか?


井樫:『真っ赤な星』では、私の中から生まれてくるものを出し切ったと思っています。しばらくインプットしないと、これくらいの熱量のものはできないと思っているので、焦らずやります。とりあえず今まで生きてきた人生をほぼ詰め込んだので、このくらいのものはポンポン出せないです(笑)。


ーー桜井さんはいかがでしょう? ドラマや映画出演など多岐に活動が渡っています。


桜井:最近は一つの役にかける時間が長く、密度の濃い役をやらせていただく機会が増えてきていてすごく嬉しいです。30代に入って、今までとはまた違う役ができる年かなと思っています。私はまだ結婚もしていないし、子どももいないので、役を通して自分が経験していないことができるだろうし、これからがすごく楽しみですね。


(取材・文・写真=島田怜於)