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King Gnuはバンド界の新たな“王”となるーー高らかな宣誓果たしたワンマンライブを見て

2018年12月01日 10:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 11月20日、東京・マイナビBLITZ赤坂で開催された『King Gnu One-Man Live 2018AW』。1stアルバム『Tokyo Rendez-Vous』以降、加速度的に人気も認知も拡大してきたKing Gnuが、その“勢い”を見せつける以上に、自分たちが何を示し何を刷新するバンドなのかを明確に示したライブだった。


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 開演数分前から、場内に流れる不穏な低音が徐々に大きくなっていく。そこに信号音とノイズと鍵盤が挿さり、ジリジリと迫るような音像がピークに達した瞬間に暗転すると、ステージにかかった紗幕に常田大希(Gt/Vo)と井口理(Vo/Key)のシルエットが浮かび上がった。紗幕が落とされた瞬間にまず驚いたのは、ギターを抱えずフリー拡声器でステージ前面へと躍り出た常田のパフォーマンスである。アジテーションとでも呼びたくなるような常田のボーカルパフォーマンスとシンガロング、シンセストリングスが折り重なって聴く人の覚醒を促していく「Slumberland」。このオープニングからして、明確に“宣誓”の意志が込められたライブになるのだろうという予感と高揚が会場中に充満する。では何を宣誓するライブなのか? その答えは早速、立て続けにプレイされた「Flash!!!」で提示されていた。


 EDMをベースにした楽曲でありながら、EDMにはあり得ないサビメロを搭載し一気に突き抜ける爽快感。そしてこちらの予想の遥か上を飛翔するように、Aメロがダイナミックな大サビに変貌する楽曲構造ーー2010年代の日本のロックバンドがリズムのアッパーさに重心を置いて鳴らしてきた所謂“アゲる”楽曲とは一線を画した形で、なおかつ現行の海外のポップミュージックにおいて重要な要素を占めるようになったEDMを食った上で日本的なメロディを羽ばたかせ、明らかに異形であるからこそ未知のポップネスを響かせた「Flash!!!」。これまで何度も披露されてきた楽曲ではあるものの、さあ行こうと拡声と覚醒を響かせたオープニングから立て続けに披露されると、やはりKing Gnuは日本のポップミュージックのフォーマット自体を更新する意志を宣誓し、その旗を振るバンドなのだと改めて実感した。何より、その異形の楽曲に4人自身が興奮し一気にバーストしていく瞬間の、熱の伝播力が凄まじい。


 音楽以外のクリエイティブもすべて己で手がける常田の才気と知性と批評性がベースになっているのは間違いないが、決してアートに終始することなく、ロックバンドの生身感からしか生まれ得ないカタルシスを信じた上で音を鳴らしていることも強烈に伝わってくるのがKing Gnuの面白いところだ。その“肉体感”の大部分を担っているのは間違いなくリズム隊の強靭な足腰であり、それをポップな体感にまとめ上げるのが井口の歌心である。このメンバーが揃ったからこそ自分たちが“王”になれるのだとSrv.Vinciから改名した遍歴を考えても、バンドに対するロマンを大事に包んで走り続けているのがKing Gnuだ。その上で、バンド音楽の範疇を明らかに逸脱している。何度観ても類い稀なるバランス感覚を持っているバンドである。


 たとえばトラックだけを聴けばHIP HOP色が濃い「Vinyl」にしろ、シアトリカルな構成の「破裂」にしろ、通常なら「このトラックにこれが載るはずがない」と思われる歌謡的なメロディで乗りこなしていく井口のボーカルスキルを改めて痛感するライブでもあった。冒頭からかつてなくアグレッシブに煽り攻めていくライブだったからこそ(常田と新井和輝(Ba)が同時にステージ前面へ躍り出る一幕も)、歌の熱自体で人を巻き込んでいけるボーカリストとしての井口の存在感がより一層際立つ。抑制と情熱を自在に行き来しながら一気に破裂する「破裂」は特に圧巻で、盤石のアンサンブルの上でより一層自由に羽ばたくようになっていく歌の凄まじい進化を見た。クラシック、HIP HOP、R&B、ビートミュージック、ブルース、J-POPーーあらゆる音楽を食い尽くし撹拌したオルタナティブな楽曲を、どれだけ熱くポップなものへと昇華できるのか? そんな実験的なソングライティングも、このまっすぐな歌への信頼があってこそなのだろう。日本的な歌の力、普遍的なバンドロマン、バンドだからこそ果たせる革新。そのすべてを信じて示し続けるのがKing Gnuなのだと提示し続ける、曲調云々ではない勢いを感じるアクトだった。


 そして、この日は新曲も多く披露された。アンコールでメジャーデビューアルバム『Sympa』のリリースが発表されたが、その後オフィシャルサイトなどで公開されたアルバムのトラックリストとこの日のセットリストを見比べればわかる通り、実質的な“アルバムお披露目ライブ”でもあったわけだ。ほぼストリングスとフィンガースナップだけで構成された「Don’t Stop the Clocks」、小気味いいギターカッティングがKing Gnuとして目新しい疾走感を生む「Sorrows」、先行してMVを公開していた「It’s a small world」など、多彩で自在なのは相変わらず、どの楽曲でも弦の響きがフックとなって楽曲のキレを生んでいるのが印象的だった。この進化はHIP HOPを過去最高にポップなメロディと融合させた「Prayer X」以降とも言えるだろうし、潜っていく深さにせよ歌心にせよ、そのどちらも振り切れたアルバムになるであろうことが各新曲から伝わってきた。


 バンドミュージックとしてことごとくオルタナティブ、だけど抗えぬポップネスと生身の強さも持ち合わせる新たな王者は俺たちなのだと宣言するようなライブ。そしてその証明を世間に対して果たすためのアルバムは、年が明けてすぐの1月16日にリリース。〈それでも主役は誰だ?〉ーーその答えは、すぐに出る。


■矢島大地
編集者、ライター。芸能事務所にて音楽アーティストのマネジメントを経験し、2012年より音楽誌『MUSICA』編集部に在籍。副編集長を担当した後、2018年秋よりフリーランスに転身。