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わたなべちひろ、イマジンスタジオに響かせた“ピュアな感性に溢れる歌声” 初ソロライブを見た

2018年11月30日 17:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 14才の盲目の女性シンガー わたなべちひろが11月23日、東京・有楽町のニッポン放送 イマジンスタジオで初めてのソロライブを開催した。本人曰く「みなさんとつながるきっかけをくれました」という「Imagine」(ジョン・レノン)のカバーから、彼女にとって初の日本語詞によるオリジナル曲「君」など10曲を披露した。


参考:12歳のシンガー・わたなべちひろは、新たな“和製スティーヴィー・ワンダー”となるか?


 ライブは「Sunrise」(ノラ・ジョーンズ)からスタート。一瞬ブレスが聴こえた後、静かに歌い始めた彼女は、楽曲が進むにつれて豊かな倍音、心地良いグルーヴを響かせ、観客を一気に魅了していく。エレピの弾き語りを中心に、アコースティックギター、パーカッションを加えたオーガニックなアレンジも、彼女の歌の魅力をしっかりと支えていた。


 「こんにちは、わたなべちひろです!! 初めてのイマジンスタジオでのライブで緊張していますが、心を込めて歌います。最後までどうぞよろしくお願いします!」というハキハキとした挨拶の後は、「So Far Away」(キャロル・キング)、さらにバイオリンが加わり「You raise me up」(Secret Garden)。楽曲を重ねるごとに緊張が解け、本来の生き生きとしたボーカルが広がる。ふくよかな低音から伸びのある高音まで幅広い音域を活かし、原曲の良さを引き出す表現力も素晴らしい。


 2歳のときに野外ライブで聴いたBank Bandの「to U」をキーボードの音を探しながら弾いたことをきっかけに、音楽に興味を持ったという彼女。未熟児網膜症のため視覚障害になってからもピアノと歌に向き合い、徐々に才能を開花させた。2013年にヘレン・ケラー記念音楽コンクール「ピアノ低学年の部」で優勝。2016年には第13回『ゴールドコンサート』に出演し、音楽評論家の湯川れい子氏に激賞された。さらに昨年10月にはニューヨーク・アポロシアターの『アマチュアナイト』に出演。今年3月にはNHK総合のドキュメンタリー『イマジン そこに「境界」はない』が放送されるなど、大きな注目を集めている。この日のライブでも、シンガーとしての実力を存分に発揮。単なる話題性ではなく、アーティストとしてのポテンシャルの高さを改めて証明してみせた。


 この日はオリジナル楽曲も披露した。まずはバラードナンバー「You will always be the one」。1960年代~1970年代のアメリカンポップス、ミュージカルを想起させる、美しい憂いを帯びたメロディライン、“あなたはいつだって、私にとってたった一人の人”という思いを込めた歌詞、そして、切実な思いを込めたボーカル。筆者は初めてこの曲を聴いたのだが、(まるでずっと前から知っているような)スタンダードナンバーのような雰囲気が伝わってきた。


 さらに「みなさんの前で初めて演奏する日本語のオリジナル曲。とても大好きな曲です」と紹介された「君」。


 ノスタルジックな風景が浮かんでくるような旋律ともに描かれるのは、かけがえのない〈君〉に対する真っ直ぐな思い。〈いま、君の切なそうな顔が頭に浮かぶよ〉そして、〈君が好き〉といったフレーズを丁寧に届けるボーカルによって、会場は大きな感動で包まれる。どこまでもピュアな感情を、決して大仰にならず、そのままの形でまっすぐに表現し、普遍的な歌に導く。「君」からは、彼女のソングライティングの豊かな可能性がしっかりと感じられた。


 本編の最後は「Sing a Song」。「さあ、みなさん。最後の曲となりました。よかったら手拍子をお願いします」という声に導かれ、観客もハンドクラップで参加。ゴスペルのテイストを感じさせるポジティブな解放感が広がり、心地よい一体感が生まれた。


 アンコールでは、まずオリジナル曲「When Every Star is Shining」をロマンティックに歌い上げる。ライブのエンディングを飾ったのは、ジョン・レノンの「Imagine」。


「この曲は私にとって、とってもとっても大切な曲で、数えきれないくらい歌わせていただきました。こうしてみなさんの前で歌うきっかけをくれた曲、私とみなさんをつなげてくれた曲でもあります。こうして“イマジンスタジオ”でこの曲を歌えることをとても感謝しています」


 そんな言葉に導かれた「Imagine」は、まさに圧巻だった。原曲に対するリスペクトを強く込めると同時に、ソウルミュージック、R&Bのニュアンスをナチュラルに散りばめることで、“わたなべちひろの歌”として表現していたのだ。そのパフォーマンスは、彼女の溢れんばかりの才能を確かに示していた。


 ライブ終了後、観客から花束を受け取った彼女は「緊張でいっぱいだったんですけど、無事終えられてホッとしています。後半になってノッてきて、楽しくなってきました」と笑顔に。ステージの後ろの壁に刻まれた、ジョン・レノン直筆の「imagine」の文字に手で触れていたのも印象的だった。


 この日のライブは12月9日のニッポン放送『有楽町コネクテッドラボ』内で編成される特別番組内で放送。さらに2019年4月5日には東京・shibuya eggmanで初のワンマンライブ『「Chihiro Watanabe Concert 2019 ~旅立ちの春~」』が開催されることも決定した。オーセンティックな音楽性、ピュアな感性に溢れたわたなべちひろの歌を、この機会にぜひ体感してほしい。(森朋之)