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なぜP.A.WORKSのオリジナルアニメは心に響くのか? 代表・堀川憲司が明かす制作の心得【インタビュー】

2018年11月29日 19:53  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

なぜP.A.WORKSのオリジナルアニメは心に響くのか? 代表・堀川憲司が明かす制作の心得【インタビュー】
アニメサイト連合企画
「世界が注目するアニメ制作スタジオが切り開く未来」
Vol.6 P.A.WORKS


世界からの注目が今まで以上に高まっている日本アニメ。実際に制作しているアニメスタジオに、制作へ懸ける思いやアニメ制作の裏話を含めたインタビューを敢行しました。アニメ情報サイト「アニメ!アニメ!」、Facebook2,000万人登録「Tokyo Otaku Mode」、中国語圏大手の「Bahamut」など、世界中のアニメニュースサイトが連携した大型企画になります。


P.A.WORKS 代表作:色づく世界の明日から、さよならの朝に約束の花をかざろう、有頂天家族、サクラクエスト、SHIROBAKO、花咲くいろは、Another、Angel Beats!、凪のあすから、true tears

あなたはP.A.WORKSという会社をご存知だろうか。東京から遠く離れた富山県南砺市という人口5万人に満たない地方に居を構えながら、ファンに根強く支持されるアニメを作り続ける日本を代表するアニメスタジオだ。

富山にスタジオを設立して18年。アニメ制作の拠点として、またアニメーター育成事業や、アニメと深く結びついた地域の活性化に取り組むP.A.WORKSの取り組みについて、代表である堀川憲司氏にロングインタビューを行った。
[取材・構成=Tokyo Otaku Mode]

P.A.WORKS最寄りの鉄道駅。
駅からスタジオまでの道のりは物語の中に出てくるような牧歌的な風景が広がる。

アニメ『サクラクエスト』の舞台となった桜ヶ池の湖面が眩しく光る。
P.A.WORKSの本社スタジオ。


スタジオ内は木造づくりの暖かく落ち着きを感じる空間。
今回お話を伺ったP.A.WORKS創設者で代表の堀川憲司氏
徐々に、大きく。

――まずは、P.A.WORKSの成り立ちについて教えてください。

堀川
僕がアニメの仕事をしたいなと思ってこの業界に就職したのは1990年になります。その頃は地方でアニメを作れるというような環境もなかった。セルアニメの時代ですね。10年間東京でアニメ制作をしました。
富山に戻ってくるという約束で就職したこともあり、再就職と言いますか、どんな仕事をしようと考えた時にアニメの仕事を続けてやりたいなと。ちょうどデジタル化の流れで、地方でもアニメーションが作れるように徐々になってきたので、2000年にこの場所でスタジオを設立しました。

最初はふたりで始めたんですが、こんな田舎ですから。人を募集しても来ないなというところから始めて、少しずつP.A.WORKSという名前が知られるようになって、人が集まるようになり、徐々に人が育っていきました。

非常に小さな会社で、家族的に始めたところから大きくなると、会社としての形が組織として変わってきます。人数に合わせて、依頼に合わせて、業界の流れに合わせて変わっていき、今年で18年経つというのがざっとした歴史になります。

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作品を導く「問い」

――P.A.WORKSはオリジナル作品を多く手がけ、どれも成功させている稀有な会社だと思います。成功の要因はどこにあるのでしょうか?

堀川
わからないですね。今までだとオリジナルの企画だった時に、こういうものを作りたいという話をするんですが、それはストーリーというよりもテーマなんですね。
こういうテーマであって欲しいという話を監督とシリーズ構成の方とはしていました。

テーマといっても、一番大切なのは愛なんだよとか、友情なんだよとか、そういう作品の作り方ではないんですね。
そういうものよりも、現代社会や日常の中で感じていること、それについて深く考えてみたいなという好奇心がまずあってですね。で、その答えはなんだろうというのが始まりなんですね。

――問いの方が先ですね。

堀川
そうです。僕らはこの問いの答えを求めて作品を作っていこうと。だから、うまくいかない場合は最終回までに答えが出ない怖さはあるけれども、興味のあることを問い続けながら、作品を作るということは非常に面白いなと思っています。

その問いがあると、じゃあキャラクターがどういう方向に何を考えて動くかとか、どういう事件があったほうがいいだろうだとか、そういうものも考えやすくなるというか。
全体としてはこっちの方向でその問いに対する答えを導く方向に流れができていきます。

作品の企画は、今年に入ってから若いプロデューサーにも任せている部分があるんですが、オリジナルを作るときには、「これは君たちが何を問う物語なのか」ということは頭に入れておいてくれという話をしています。

どうしてもオリジナル作品を企画から立ち上げて3年ぐらいかかるんですよ。で、3年間ずっと考えながらものを作るときに、一過性のもので終わるというのは見る側はいいんですけど、作る側はそれだと物足りないというか、自分の情熱や時間を3年間かけた分の手応えのある何かが返ってきてほしいというものもありますね。

何のためにアニメを作るのか

――きっかけとなった具体的な作品があるんでしょうか?

堀川
最初は『花咲くいろは』だったんです。若い子たちが仕事を始めた時はどんなことで悩んで、それをどう乗り越えてきたかとか、そういうのを記録しておきたいという気持ちで。
僕らもここで若手を育ててきたので、クリエイターが同じようなテーマでぶつかったり、色んなことにつまずいたり、悩んだりということがあったんですね。

『SHIROBAKO』だったら、僕ら楽しんでアニメーションを作ってるんですけれども、業界自体の評判や「大変だ大変だ」って悲鳴なんかが聞こえてくる中で、60年前に日本でも商業アニメーションが始まって、僕らが受け継いできたものや、これから先に渡さないといけないことってなんなんだろうと。
大きく言ってしまえば、「何のためにアニメーションを作っているんだろう」という問いですね。

『SHIROBAKO』も答えが最初にあったわけではなくて、各話毎に「こういうことってよくあるよね」という現場のトラブルとかを話し合いながら、それに対してひとつひとつ、答えはこうじゃないかこうじゃないか、と確認をしながら作っていったんですね。

最終的に僕らはこういうものを受け継いできて、なんのためにアニメーションを作っているんだというのは、人それぞれなんだけれども、僕自身の答えとしては、主人公の最後の打ち上げのセリフの中に出来るだけ入れたつもりです。


――そのような作り方を経験したチームはもっと凄いものが作れそうです。

堀川
物を作る人間って好奇心とかね、探究心がすごく大切だと思うので、世の中に対してクリエイティブな仕事をする人っていうのは、なにか問題があったときに誰かがよく言ってるような答えを出さないんです。
「本当にそうなんだろうか」って疑ってみて別の視点から自分たちの答えを出そうっていうところがクリエイティブな部分だと思うですよね。

若いクリエイターにはそんなことを考えながら作って欲しいなと思います。でも一方で、その考え方自体が今はもう昭和くさいって面もあると思います。

例えば物語で、人間関係においてこういう問題が提示された。これまでの王道でいけば、それを探求していくとこういう物語になるんだろうなっていう感覚が僕の中にはあったとしても、若いクリエイターは「そこまでは踏み込みません」「そこまでは表現しません」と意図的に止めたりします。「なるほどね」って思います。

それは人間関係を築くことができなかったという失敗ではなくて、意図してそこにいかないという判断。それが今の世代の考え方としてあるんだなと。
いまの視聴者の年齢層と近い感覚でものを作るということを、僕はそういうふうに見ています。

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10年、20年と残る作品を作る

――今のお話につながりますが、P.A.WORKSの作品にもチームにも、違った価値観を受け入れるダイバーシティを感じます。

堀川
『サクラクエスト』でのテーマのひとつはその異文化共生というものなんですよね。継承する文化とか、新しい知恵、別の良い考えを咀嚼してどんどん吸収していくという考え方です。

だから先程の若いクリエイターの違う考えの話のように、吸収できるものや面白いものがないだろうかということは考えるべきだと思いますよね。特にものを作る人間っていうのはそういう目でみるべきだと思います。

随分前に読んだ本で『一万年の旅路』という本があるんです。アメリカの先住民のイロコイ族が、わずかな人数で世界を流浪しながらどういう生活をしてきたかという何千年、何万年にもわたる口承史の物語です。その本を読んだ時に、非常に刺激を受けたんですね。

その一族の中に語り部がいます。自分たちが得てきた生きる知恵や体験っていうのを、ストーリーにすることでずっと語られるものにするんです。ものすごく面白く語れると、みんながその物語に興味を持っていくんですね。

これはアニメーションでもそうだし、小説でもそうだし、起こったことをそのまま伝えるではなくて、形を変えたとしても異化したとしてもその中に大切なことが含まれていれば、本当に本質をついたものであればずっと残っていくでしょう。

僕らが10年、20年とね、残る作品を作りたいっていうのはそういうところにあるんです。色んな知恵とか文化とか作品に記録したものをエンターテイメントにすることによって、論文を読むよりも興味を持ってもらって、広がっていく。そういう面白さがあると思うんですね。

継承する伝統を形に

――P.A.WORKSでは東京から離れた場所であるからこそ、アニメーターの教育と育成にとても力を入れている印象があります。

堀川
アニメーションにはそれぞれに好きなスタイルがあります。ただ基本的なことに関するきちんとしたカリキュラムがあって、それを教えていこうというものが、この業界には無さ過ぎるんだと思います。

もうすぐP.A.WORKSのカリキュラムが形になるんですね。「P.A.WORKSの作画としてはこれを継承していくんだ」「演出はこうするんだ」っていう会社としての伝統ができる。それを毎年、毎年更新していく。こうしようああしようって。

他のスタジオに行ったら変わるかもしれないけど、P.A.WORKSではこれを大切にしていくんだっていうものです。こうしたカリキュラムが各会社で確立していくと、今よりも人を育てるってことに関しては良くなるんじゃないかと思いますね。

今年は春から養成所も始まり、毎日どういうことを教えていこうかとか、実践で役立つのはこの技術じゃないだろうかとか検討しながら教えているので、この取り組みが数年でどうなるか、花開くのかってのは楽しみでもあります。

→次のページ:地方とクリエイターを繋ぐ物語

地方とクリエイターを繋ぐ物語
(C)SAKURAGAIKE QUEST

――最近、刺激を受けた作品やプロジェクトはありますか?

堀川
僕自身も関わっているんですが、『サクラクエスト』から派生した、「桜ヶ池クエスト」(※)です。アニメとリアルを繋げるということで、どうやったらこの地方の人たちを巻き込んで意味のある面白いことができるんだろうということをやっています。

※P.A.WORKS制作『サクラクエスト』の舞台は、P.A.WORKS本社がある富山県南砺市がモデルとなっている。南砺市の「桜ヶ池」は、桜の名所だが、最近は枯れた木や、痛んだ木が目立つ様になってきている。桜の木を整備し蘇らせる地元の活動を、サクラクエストのファンたちにも手伝ってもらいながら進めていく新しい地域振興の取り組みだ。

この南砺市にも技術と情熱をもっている若いクリエイターがたくさんいます。
ビジネスというのとは違いますけど、田舎でも生計をちゃんと立ててやって行けるようにするためには僕らはどうしたらいいだろう。バラバラのクリエイターが1つのテーマに向かって何か一緒にできないかということを考えるんですよね。

新潟では村全体がアートになる「大地の芸術祭」が2000年から続いています。世界的に有名なアーティストたちが関わり、何十万人の参加者がいるんですね。
南砺市でも地元の人達やクリエイターを繋いで、僕らの視点でこの地域を切り取って、僕らが最も得意とする「物語にする」っていうことを核にして、クリエイティブなことが出来ないかっていうのが今の僕のもうひとつの興味ですね。

アニメーションという形態は世界に対してすごく発信力があると思うんです。日本のクリエイターや職人たちが、何を考えて何を探求してものづくりをしているのか。そういう話を聞きながら記録し、エンターテイメントにすることで世界でも多くの人が見てくれるんじゃないかと思います。

作品の中で見つけたものを大切にして欲しい

――最後に、世界のアニメファンにメッセージをいただけますか。

堀川
僕は海外のファンの感想をすごく楽しみにしているんです。日本でもファンの感想をよく見るんですけど、日本ではまわりの意見と違うことを不安に思ったり、好きな作品であっても見ている人が少ないことを気にしてしまったりすることが多いように思うんですね。

だけど海外ではひとつの作品を好きになったら、それを愛して何年間でも応援していくような「俺はこう思う」ってことを掘り下げていく点が魅力だと思うんです。

作品の中に何を見つけるかっていうのは、その人が今抱えているテーマとか、自らの体験によって全然違うものが見えてくるのでまわりに合わせる必要ないと思うんです。そういうものを大切にして欲しいなと思います。

P.A.WORKSの作品は割と地味かもしれないけど、テーマを掘り下げて「こういうものなんじゃないだろうか」っていうものを問いながら作っています。それに対して自分が考えたこととか、気づいたこととか、他人の意見じゃなくて自分はこう楽しんだという踏み込んだ感想を届けてもらえるととても嬉しいです。

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アニメ!アニメ!もパートナーの1社で参画しているコミュニティ通貨「オタクコイン」内の企画で、この秋ローンチを予定のアプリと連動して行います。


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