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D&G、PR動画と“侮辱的発言”で上海ショー中止&品物が中国全土から消えた その背景事情を探る

2018年11月29日 15:32  リアルサウンド

リアルサウンド

 11月21日、ドルチェ&ガッバーナが上海で開催予定であったファッションショー「THE GRATE SHOW」の延期を当日発表し、その後文旅部(中国国家機関)より正式に中止するとアナウンスした。


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 事の発端は、18日に公開されたショーに関する中国向けのPR動画であった。自社のインスタグラムに投稿された動画は、赤のドレスを身にまとったアジア系女性が箸で食事をするもの。映像は第3弾まであり、タイトルは「お箸で食べよう」。


 第1弾は箸でピザを食べようとしたところ、「この小さな棒状の食器をどのように使って」「私たちの偉大なるマルゲリータピザを食べるのか」などの字幕が入り、モデルの女性はぎこちない手つきでピザを食べていく。わざわざ箸を「棒」と表現し、アジア文化を冒涜するかのように受け取れなくもない映像だ。


 第2弾はスパゲッティ、第3弾はカンノーロ(リコッタチーズやチョコレートなどを刻んでパイ生地に包み筒状にしてカリカリに焼いたシチリアの伝統菓子)を箸で食べるのだが、第3弾の伝統菓子に至っては「箸で挟む」「君たちにとっては大きいんじゃない」と字幕が入り、モデルの女性が菓子をひとくち口に入れると「これでイタリアにいる気分」「いや、君がいるのは中国だ」といった具合なのだ。


 この動画を見たあるネットユーザーが、D&GのデザイナーであるStefano Gabbana氏のインスタグラムへ抗議の投稿をした。するとStefano Gabbana氏は「今後、世界のどこへ行っても中国は汚物だと言うことにするよ」と、英文中のChinaの5文字を汚物のイラストで表現した。さらに「ははは(笑)君は僕が炎上を恐れていると思っているのかい」と怒りの火に油を注ぐ発言をしたのだ。


 このやりとりが載ったスクリーンショットはすぐさま中国のSNS「微博(Weibo)」で拡散。転送件数は16,000件に達し、「消え失せろ!」と、ネットユーザーたちの怒りを込めた5,000を超えるコメントが寄せられた。


 そして、D&GのデザイナーStefano Gabbana氏はネットの反響を受けてか、インスタ上で「アカウントが乗っ取られた。現在弁護士が対応中だ。私は中国と中国文化を愛している。このようなことが起き、非常に残念だ」というコメントとともに「Not Me」と書かれた画像をアップした。


 しかし謝罪は手遅れだったようだ。ファッションショー当日21日の正午過ぎから、出演予定だったチャン・ツィイーなど多くの有名人が「微博」でショーへの不参加を続々と表明し、中国のモデル事務所などもこぞってショーへの参加を見送ると発表したのだ。


 イタリアのメディア「Pambianco News」によると、2017年度のDolce&Gabbanaの売上高は前年度比9.6%増の12億9,600万ユーロ、純利益は8,000万ユーロであった。イタリア国内市場における売上高は、全体の24%を占めており、その他のヨーロッパ地域の売上高は27%、米国13%、日本6%、残りの30%が日本を除いたアジア地域だと報告されている。この30%の大部分を中国が占めているのだ。


 D&Gは香港、マカオ、本土などに62店舗を所有しており、今年上海でファッションショーを予定していたのは、更なる中国市場拡大の目的があったからではないだろうか。ネットユーザーの中には、以下のような少し過激なイラストと共に「如果你不喜欢中国人,也请不要喜欢人民币。(もし中国人が嫌いなら、人民元も好きにならないでね)」と言った投稿もある。


 さらに21日の夜から、ネットショッピングサイトの大手「天猫(Tmall)」や「京東」を筆頭に、輸入品を専門に扱っている「洋碼頭」まで、中国のネットショッピングサイトからD&Gの品物が消えた。d&g、杜嘉班納(ドルチェ&ガッパーナ)で検索しても何も出てこないのだ。唯一販売しているのは、公式ウェブサイトのみである。


 中国は経済成長を続け、生活水準が高くなったため、人々の購買意欲も盛んだ。そんな中国にはショッピングデーという日がある。元々は「独身の日」という呼び名で、ECコマース企業「アリババ」が独身者に向けて2009年11月11日からネットで大セールを始めたのがきっかけだが、現在は独身者うんぬん関係なく、国民みんながお得な爆買いをする日だ。


 ちなみに「天猫」の2017年11月11日一日の売上金額は1682億元(約2.87兆円)、およそ楽天の2016年一年の売り上げ(3兆円)に達する。一日で楽天の一年分の売り上げを稼ぎ出すのだ。中国のネット販売市場ではすさまじい金額が動いていることが想像できよう。今年の11月11日、「天猫」の売り上げは2135億元(約3兆5000億円)で、初めて2000億元を超える大盛況ぶりとなった。こんなドル箱の中国市場を、今回の騒動でD&Gは完全に失ってしまった。


 11月22日、外務省報道官はD&Gの騒動についての質問を受け、「外交問題に発展することを望んでいない。この問題をどう受け止めているのか中国の一般市民に聞いてほしい」と話した。


 すると翌日23日、D&Gは自社の「微博」でデザイナー2人の動画をアップした。2人は全世界の華人に対してイタリア語で、今回の騒動についての謝罪や「中国の伝統文化を、私たちは見習うべきところがたくさんある」と述べた後、最後に中国語の発音で「对不起(ごめんなさい)」と述べた。


 今回の騒動は連日、日本のメディアでも取り上げられており、中国のサイトでは日本人の声も紹介されている。「フォークが広く使われるようになったのは14世紀。それまで西洋人は手で食事をしていた。箸は紀元前1100年殷の時代に遡る」などと、日本でも多くの人がD&Gに批判的だ。どうやら中国人のみならず、アジア人全体を敵にまわしてしまったようである。


(真船麻衣)