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この秋の隠れたヒット作 『スマホを落としただけなのに』と『日日是好日』から学ぶべきもの

2018年11月29日 12:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 ソーシャルメディアの影響もあって、近年より明確になってきたのは「当たる映画は当たる」し「コケる映画はコケる」ということ。逆に言えば、ひと昔前のようにいくら大量の広告露出や番宣露出をしても、あるいは主題歌などで大型タイアップを仕掛けても、当たらない作品はまったく当たらなくなっている。公開3日間で動員100万突破、興収14億7193万円という予想通りの特大ヒットスタートとなった『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』。公開2週目にして初週超えという異例の成績を収めた前週に続いて、なんと公開3週目にもさらに前週超えを果たして、今週末には早くも興収30億円突破をうかがう勢いの『ボヘミアン・ラプソディ』。そんな上位2作品の派手な大ヒットぶりに隠れがちだが、大方の予想を超えるヒットを記録しているこの秋の2本の日本映画を今回は取り上げたい。


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 先週末の3位は、公開4週目にして初登場週以来のトップ3に返り咲いた『スマホを落としただけなのに』。先週末の時点で累計動員107万人、累計興収14億円を突破と、今年の東宝の実写作品でトップの成績を残しているのは、今のところ『検察側の罪人』の約29億だが、このペースでいくとそれに次ぐ実写作品第2位の座を確保することになるだろう。過去には『リング』シリーズや『L change the WorLd』などはあったものの、近年はヒット作に恵まれていなかった中田秀夫の監督作品であること。映画の単独主演作品ではこれまでヒットの実績がなかった北川景子の主演作品であること。11月上旬という映画興行的には谷間の時期の公開作であること。それらをふまえても、当初はあまり大きな期待をされていなかったと思しき同作だが、作品の筋がそのまま伝わるわかりやすいタイトル(『響 -HIBIKI-』や『累-かさね-』とは対照的であるという指摘もできるだろう)、スマホの紛失という共感度の高いテーマ(ちなみに作中でスマホを落とすのは北川景子演じる主人公ではなく、田中圭演じる主人公の恋人だ)が功を奏してのスマッシュヒットとなった。


 もう一つの隠れたヒット作は先週末9位。公開7週目にして3週ぶりにトップ10に返り咲いた『日日是好日』だ。10月13日に公開された同作はウィークデイにも女性の高齢層を中心に順調に動員を続け、先週末の時点で累計興収10億円を突破。独立系の配給作品であることとその公開規模、そして茶道教室に通う生徒と先生の交流という地味なテーマからすると、快挙と言うしかないヒットである。公開当初の好調な成績には、今年9月に亡くなったばかりの樹木希林の姿をスクリーンで目に焼き付けたいといった鑑賞動機も大いに寄与したはずだが、ここまでのロングヒットとなった理由は、作品そのものの映画としての誠実な内容が支持されたということだろう。


 ここにきて動員ランキングで再上昇してきた『スマホを落としただけなのに』と『日日是好日』。いずれも、他の作品の不調によって相対的に上がったのではなく、正月興行を控えて映画興行全体が賑わいを取り戻しつつある11月末の動きであることにも注目すべきである。『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』のような鉄板シリーズの新作や、『ボヘミアン・ラプソディ』のような関係者も目を疑うほどの動員の伸びを示している作品といった「特例」から学べることは少ないが、粗製乱造されてきたティーンムービーに飽きていた世代から高く支持されている『スマホを落としただけなのに』や、ソーシャル・メディアの影響などとはまったく関係のない場所で高齢層から支持されている『日日是好日』のヒットは、日本の実写映画の現状に対して多くのことを示唆しているはずだ。(宇野維正)