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コンビニオーナー「無理ゲー」な内幕 「休めず、儲からない」 カラクリに迫る

2018年11月29日 10:12  弁護士ドットコム

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千葉県にあるファミリーマート(四街道駅北口店)の雑誌コーナーには、『コンビニオーナーになってはいけない』(旬報社)という本がズラリと並んでいる。10月、この様子を撮影したツイートが3万回以上RTされた。


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こんなブラックジョーク効いたファミマ初めてだわ pic.twitter.com/f04IbNfeJW


— いぬゆな@スポーツビジネスに詳しい素人 (@inuunited) 2018年10月19日

ブラックジョークかと思いきや、店のオーナー高中隆行さんは真剣だ。休みなく店舗に出るが、「労働時間に見合った収入にはならない」。何店舗も経営する一部のオーナーを除けば、コンビニオーナーの働き方は「シャレにならない」と話す。


「今のコンビニは、おすすめできる業態ではない。あちこちにお店ができて、本部は儲かるかも知れないけれど、個別の店舗は儲かっていない。まずはお客さんにコンビニの現実を知ってほしいと思っています」(高中さん)


なお、元のツイートがバズったあと、営業所の所長が店舗に駆け、真意を尋ねてきたそうだが、トラブル等には発展していないという。


●オーナーらの過酷労働、モンスター客のストレス

24時間営業のコンビニにとって、5年で110円(全国加重平均)も引き上げられた最低賃金が経営を圧迫している。加えて、サービスは複雑化し、スタッフのなり手は少ない。人件費を削るとともに人手不足を補うため、オーナー本人や家族が長時間労働を余儀なくされている。


また、加盟店は、売上から仕入れ代を引いた「粗利」の約6割をチャージ(加盟料)として払う。ただし、この際に引かれる仕入れ代は売れた商品に限られ、売れ残った商品の仕入れ代は計算から除外される(コンビニ会計)。消費期限の迫った弁当類が廃棄されるたび、オーナーの懐が傷んでいくということだ。


店内に並べる商品が増えれば、売上も増えるため、本部はたくさんの仕入れを求める。しかし、その分、廃棄も増える。売上が増えれば本部は潤うが、加盟店も潤うとは限らない。




『コンビニオーナーになってはいけない』では、こうしたコンビニ業界の内幕を「コンビニ加盟店ユニオン」に所属するオーナーらが暴露。冒頭の高中さんも組合員だ。


本部の話以外にも、客による暴行・暴言といったカスタマーハラスメントの実例など、コンビニを取り巻くさまざまな問題に触れている。


●「このままだとコンビニ業界は持続しない」

嫌だったらオーナーなんてやめれば良い、と考える人がいるかもしれない。しかし、契約途中でやめれば、違約金が発生する。


年齢的に、再就職が難しいということもあるだろう。むしろ、「定年を過ぎても働ける」ことにメリットを感じ、コンビニオーナーに転身した人も少なくない。


共著者で、経済ジャーナリストの北健一さんは、出版の意図を次のように語る。


「一度サインしたからといって、身ぐるみ剥がされて良いわけじゃない。オーナーのなり手は減っているし、今いるオーナーの待遇を見直さないと、コンビニ業界は持続しません。本部と加盟店の力関係が違いすぎます」




北さんが、コンビニやFCの仕組みに関心を持ったきっかけは、日本マクドナルド「名ばかり店長」訴訟(2009年3月、東京高裁で和解)だったという。権限や裁量のない店長に残業代が出なかったことが問題視され、肩書きではなく実態を見るべきだと世に知らしめた事件だ。


「訴訟の後、マクドナルドは経営の悪化もあり、直営店のFC化を急速に進めました。FCにすると、本部は労働法を気にしなくても良いという側面もある」


コンビニで言えば、店長が社員であれば、残業代などが生じる。コンビニにも本部社員が運営する「直営店」というものがあるが、セブンイレブンの例で2%ほどしかないように少数だ。大多数はFC店だから、本部にとってオーナーらがどれだけ働いても構わない。


「でも、オーナーじゃないとできない仕事って、アルバイトの採用くらい。多くのオーナーは店舗に立っている。現状のコンビニオーナーは、『オーナー偽装』『名ばかり経営者』と言わざるをえないのではないでしょうか。コンビニ本部が高収益をあげられる理由がここにあります」


FCは、ブランドの「看板」や統一的なシステム、ノウハウにより、商売の経験が乏しくても一定の売上が期待できるというものだ。しかし、本部との力関係にあまりにも差があると、加盟店はがんじがらめになってしまう。


●FC規制する法律が必要?

コンビニの労働環境がなぜ改善されないのか。理由の1つは、オーナーたちが結束しづらいことにある。


本の執筆に携わったコンビニ加盟店ユニオンは、セブンイレブンとファミリーマートに対し、団体交渉を求めている(ローソンの組合員はいない)。しかし、本部は、オーナーは経営者だとして、労働組合を認めず、個別に相談に応じるという姿勢だ。


本部が、団体交渉に応じるべきか否かは、中央労働委員会(東京都)で争われており、近く結論が出る見通し。しかし、裁判へ移行する可能性が高く、最終的な決着にはなお数年かかるとみられる。


「中労委の判断は、今後のコンビニ問題を考える上で、大きな影響を持ちます。ただ、FCの仕組みそのものを規制する法律も必要でしょう」(北さん)


出版を記念し、同ユニオンは12月1日、明治大学で「コンビニの現場を考えるシンポジウム」も開催する。


(弁護士ドットコムニュース)