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ティモシー・シャラメは新時代のスター? 繊細さと“男らしさ”から逸脱した演技が評価高める理由に

2018年11月27日 12:02  リアルサウンド

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 ティモシー・シャラメはパーフェクトなビューティフル・ボーイだ。美しいヴィジュアルで親しみやすく、アワード・ルックすら自らスタイリングするセンスの持ち主。そして何より「新時代を象徴する俳優」と喝采される映画スターである。アメリカでは10月に公開した新作『ビューティフル・ボーイ』ではドラッグ中毒に陥る青年を演じ、アカデミー賞レースにかけて早くもハリウッド映画賞の助演男優賞を獲得した。メディアも絶賛状態である。例えば、Los Angeles Timesは、作品自体の欠点は指摘しながらも「シャラメだけで観る価値がある」と太鼓判を押している。『君の名前で僕を呼んで』時点で高い評価を得ていたが、それが偶然ではなかったことが今回で立証されたと言える。さて、ティモシー・シャラメはなぜ「新時代を象徴する俳優」とまで言われるのだろうか。その評価を追ってみよう。


参考:『君の名前で僕を呼んで』が綴る“楽園にいた記憶” 同性愛をテーマにした『モーリス』との違い


■往年のスター男優との違い


 麗しいヴィジュアルと確固たる表現スキルを持つシャラメは、往年のスター男優と比較されることが多い。中でも名が挙がるのはレオナルド・ディカプリオだろう。どちらも若いうちからアカデミー賞にノミネート、薬物中毒者の役を評価され、ファッション面の注目も大きく、巨大なファンベースを形成していた。そうした共通点からか『君の名前で僕を呼んで』プロデューサーのロドリゴ・テイシェイラも、『レディ・バード』監督であるグレタ・ガーウィグも「シャラメはディカプリオを思い出す存在」とコメントしたことがある。ただし、そうした比較に対して『君の名前で僕を呼んで』を監督したルカ・グァダニーノが「シャラメはシャラメだ」と語ったように、先陣たちとは異なる先進的なイメージを持っている。


 ティモシー・シャラメが「新時代を象徴する男優」とされる一因には、彼が「旧来の男らしさからの逸脱」を想起させる存在であることが大きい。彼の演技への評価で頻出されるワードは「繊細」「脆弱性」「エモーショナル」といったもの。つまり、いわゆるマッチョなイメージからは離れている。シャラメ自身も「男性が繊細であること」を肯定する表現者であり、その意識を映画で伝えることを目標に掲げている。こうした姿勢は時流にも一致するものだ。ハリウッドは元々アルファ・メールなスター男優を好んできたが、今現在は「男性とは何か」を問うコース・シフト期に突入したと言われている。その荒波の中、繊細さを尊重するシャラメは、新たなるハリウッドの男性像ーーまたは理想像ーーを代表するアイコンとなったのである。彼が「#MeToo時代の男性スター」と評される理由もここにある。例えば、Vultureでは「今の時代を先導する男性とはシャラメのような敏感で思いやりのある人だ」「彼のような柔らかな男優が報われる時代になった」といったショービズ専門家たちの意見が紹介されている。フランク・オーシャンは『君の名前で僕を呼んで』でシャラメが演じたエリオを「弱さも見せた特別な役」と評し、それがポップカルチャーの時流としても最適なタイミングだったと語った。オーシャンの賛辞は「新時代の男性スター」としてのシャラメを見事に捉えてていたと言えるだろう。もちろん、こうした「新時代」としてのアイコン評価は、シャラメの卓越した表現あってのものだ。


■“境界を壊す”演技が特徴?


 グザヴィエ・ドランは「『君の名前で僕を呼んで』でティモシーを見たとき、以前から知っている人のような気がした」と語った。このように、シャラメの演技は「キャラクターと演者と観客の境界を破壊する表現」として高く評価されている。それは繊細さであり、自然さでもある。例えば『君の名前で僕を呼んで』でのシャラメを、「2017年最高の演技」と位置づけたHollywood Reporterの評論では「開始30分から彼の瞳には相反するいくつもの感情が見て取れる」と賞賛している。話題を呼んだこの作品のラストシーンが「観客も同化してしまう演技表現」の代表格であることは言うまでもないだろう。様々な「境界」をなくしてしまうこうした手腕は、薬物中毒に陥る青年を演じた新作『ビューティフル・ボーイ』でも見事に発揮されたようだ。


 アメリカ映画には「中毒者男性」が溢れている。とくにドラッグとアルコールの中毒に陥る役柄は定番中の定番だ。アカデミー賞においてもメジャーで、近年ではケイシー・アフレック(『マンチェスター・バイ・ザ・シー』)やマシュー・マコノヒー(『ダラス・バイヤーズクラブ』)が中毒に陥る役柄で主演男優賞を獲得している。このような“飽き飽きされている定番の役”に挑んだからこそ『ビューティフル・ボーイ』のシャラメは才能を立証している、とLos Angeles Timesは評した。本作において、シャラメは「見たことのないドラッグ中毒者役」を披露しているのだという。一方、LAMagは、シャラメの演技が「ジギルとハイド」クリシェに陥っていない点を賞賛している。多くの役者は、中毒者の役を演じる際、健常時と中毒時をまるで別人のように区別する演技をしがちだ。シャラメはそうした区切りをせず、「いかなるときも同じ心身を持っている人間」だと感じさせる演技表現を行ったようである。こうした賞賛は、先述した「境界を壊す演技」評にもつながるだろう。『ビューティフル・ボーイ』でも、シャラメはThe Playlistから「涙を流すときすら演技しているように思えない」と驚愕され、The Guardianに「脆弱性、恐怖、攻撃性、憂鬱を行き来している」と評されている。


■“新たなるアカデミー賞”を象徴する可能性も


 2018年、第90回アカデミー賞で主演男優賞を獲得したゲイリー・オールドマンは、同部門にノミネートされたティモシー・シャラメに対して「君は絶対ここに戻ってくる」と告げた。偉大なる先輩による予言は、たった一年で成就しそうだ。『ビューティフル・ボーイ』での演技を評価されたシャラメは、第91回アカデミー賞での助演男優賞ノミネートが確実視されている。


 新時代のアイコンであるシャラメは、もしかしたら「新たなるアカデミー賞」も象徴してしまうかもしれない。22歳にして2年連続ノミネートを受けるだけで大したものだ。アカデミー賞の男優部門は若者には狭き門とされる。例えば、主演女優部門の受賞者にはジェニファー・ローレンスなど30人以上の20代受賞者がいるが、主演男優の場合、20代ウィナーは2003年当時29歳だったエイドリアン・ブロディただ一人である。ノミネートにもその傾向は表れており、2018年『君の名前で僕を呼んで』のシャラメは、史上3番目に若い主演男優賞候補者だった。彼が『ビューティフル・ボーイ』で助演男優賞を受賞した場合は同部門で史上2番目に若いウィナーとなる。受賞には年齢がネックとも囁かれているが、近年、同アワードを主催する映画芸術科学アカデミーは多様性促進の一環として比較的年齢の若い会員を増やしている。ここでシャラメが受賞すれば、アカデミー賞は既存イメージからの変化を示すことができるだろう。『アリー/ スター誕生』のサム・エリオットなど強力なライバルはいるが、シャラメの評価も十分な受賞水準だ。第91回のアカデミー賞は2019年2月、また『ビューティフル・ボーイ』の日本公開は4月に予定されている。2019年はシャラメに目が離せない年になりそうだ。(文=辰巳JUNK)