2018年11月26日 10:12 弁護士ドットコム
オーナー社長が息子と結託して、業績が赤字なのに、経費で購入した高級外車を乗り回しているーー。家族経営の零細企業に勤める中年男性のスズキさんは、オーナー親子の会社私物化に「どうにかできないのか」と苦悩する日々を送っています。
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スズキさんによれば、会社の経営は厳しく、残業は毎日3時間以上あるにも関わらず、手当は一切出ません。休日出勤や深夜の呼び出しも当たり前で、搾取状態が続いています。それにも関わらず、オーナー親子は会社の金で浪費を繰り返しているそうです。
高級外車のほかにも、海外旅行や息子の高級腕時計、飲み会などにも経費を使い込んでいるそうです。抗議の声を上げた従業員もいましたが、社長の怒りを買って翌日には解雇されてしまいました。
「この年齢では転職も難しい。会社の状態をどうにかしたい」とスズキさんは訴えています。
このような労働問題の場合、弁護士や労働組合などが動くケースも想定されますが、今回は税務署や労基署といった行政を動かすことは可能なのか、という点に絞って考えてみます。新井佑介税理士に聞きました。
行政を動かすにはどうすればいいのでしょうか。
「今回のような場合、『会社の私物化』と『労務管理上の法令違反・雇用契約の違反行為』になります。
今回とは異なりますが、勤務先企業が生命や財産その他自然環境などに損害を与えるような法令違反(公害など)を犯している場合には、監督官庁(警察や保健所や自治体など)やマスコミに告発をすることも考えられます。
まず、税務署については、会社の私物化に対して経営指導を行う機関ではありません。
一般論ですが、告発をした人は会計や税務に詳しいとは限りません。しかも社内での立場上、その取引内容を断片的にしか把握できないケースもあり、取引自体が帳簿上でどのように処理されているのかわからない場合も多くあります。
そのため、告発のみで直ちに悪質な脱税事案として国税局の査察部(マルサ)が動くことは稀です。内部告発情報は税務署が行う税務調査で調査情報の一部として取り扱われるケースが殆どです。
今回のようなケースでは、脱税事案として社会的制裁をうける可能性は極めて低いかと思います。オーナー親子の飲み会や車両購入費が適切に帳簿処理されていれば、税務上は特段の問題にはならないからです。
仮に税務帳調査で不適切な処理が認められた場合でも、修正申告をして納税を行えばその事案は税務署内で処理をされ、オーナー親子の会社私物化の件が社会的に公表されることはありません」
その他に行政を動かすための手段は考えられないのか。
「勤めている会社に給料や残業代の未払いなど、労働基準法に違反する事実がある場合には、労働基準監督署にその違法行為を『是正申告』をすることができます。匿名でも申告可能ですが、氏名公表して申告をするよりも迅速な対応は期待できないでしょう。
仮に『是正勧告』を会社が受けたとしても、勧告はあくまで行政指導ですので法的拘束力はありません。よほど悪質でない限り書類送検されることで社名が公開されることもありません。
今回のケースでは不当解雇や未払残業代など労働基準法に該当する事実があると考えられるので、労働基準署に是正申告することができるでしょう。
『この年齢では転職も難しい。会社の状態をどうにかしたい』ということですが、とても大切な問題なので慎重に考えてください。
そもそも通報して是正したとしても、ブラック企業がホワイト企業に変わるかは甚だ疑問です。
結局、通報した先の未来に何を期待するか。
『会社の状態をどうにかしたい』という想いが強くあるのなら通報しましょう。
ただし、ご説明した通りですが、税務署の税務調査や労働基準監督署の臨検の際に、スズキさんの通報が間接的に経営陣に悟られる可能性も否定できません。社内で嫌がらせを受けるかもしれません。いつ行政が動くかも保証は全くありません。そもそも処分によっては会社経営が著しく悪化して倒産してしまうかもしれません。
一番、大切なもの。それはスズキさん自身の心身と家族です。それが1%でも脅かされる危険な状態にあるのならば、通報よりも即刻、退社してください。所詮はその程度の会社です。ボンクラオーナー親子のために、スズキさんの人生まで懸ける必要はありません」
【取材協力税理士】
新井 佑介(あらい・ゆうすけ)税理士・公認会計士
AAG arai accounting group 代表。慶応義塾大学経済学部卒業後、BIG4系ファームを経て現職。MASコンサルティングや様々な融資案件に積極的に関与している。
事務所名 : AAG Arai Accounting Group / 経営革新等支援機関 新井綜合会計事務所
事務所URL: http://shozo-arai.tkcnf.com/pc/
(弁護士ドットコムニュース)