スーパーフォーミュラ、スーパーGTの国内二冠を獲得した山本尚貴が、最終戦アブダビGPを観戦するため緊急訪問。スーパーライセンス獲得のチャンスが巡ってきた山本が今回の目的、そしてF1への思いを語る。
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──2013年にもGP2参戦を目指してテストしましたが、選考されなかったという過去があります。それから5年後に、再度巡って来たチャンスです。
山本尚貴:13年にスーパーフォーミュラのタイトルを獲得し、GP2に挑戦する権利を賭けたテストを受けさせてもらいましたが、残念ながら選ばれませんでした。
悔しいというよりも、自分に力がなかったことがショックでした。そこからは正直、『F1』よりも『国内』にしっかりと専念して、再び国内でタイトルを取ること、日本で一番速く走ることを念頭に置いてシーズンを戦っていました。
──F1から距離を置いた?
山本尚貴:13年にヨーロッパにチャレンジするチャンスを勝ち取れなかったときに、『自分にはそういう素質がない』と理解し、そのときに正直(F1ドライバーになることは)あきらめました。投げ捨てたというわけではなく、F1を自分の頭の中から一度消しました。
──再びF1を意識したのは?
山本尚貴:スーパーフォーミュラとスーパーGTのどちらもタイトル争いをしていて、スーパーフォーミュラが3位、スーパーGTがランキングトップになったあたりで、インターネットで『タブルタイトルに輝いたら、スーパーライセンスが取れるんじゃないか』と言われていたあたりです。
■GP2テストの落選からさらに多くの経験を積んだ山本尚貴
──それから5年が経って、何が変わったか。
山本尚貴:ひとつには絞れないんですが、強いて挙げるなら、強力なチームメイトとレースを戦うことができたことで自分がより強くなったと思います。スーパーフォーミュラに関しては去年のピエール(・ガスリー)です。去年は正直苦しみましたが、その経験が今年につながったと思っています。
また、今年は福住(仁嶺)選手やダン(ダニエル・ティクトゥム)、そして阪口(晴南)選手です。なかなか1シーズンで3人のチームメイトと戦うということはありません。通常なら、同じチームメイトと切磋琢磨してチームの総合力を高めていくものですが、今年はそれとは違い、少し戸惑ったところもあったんですが、逆に違うドライバーと仕事をできたおかげで、個々のいい面を知る経験ができた。
スーパーGTに関しては、だれもが知るジェンソン・バトン選手と組みました。F1というシングルシーターから重量が重いGTカーを2人でシェアして走るということで、シーズン序盤は彼も苦しんでいたんですが、努力してクルマに合わせる姿を間近で見ることができた。彼から学んだことも非常に多かったです。
──世界チャンピオンから何を学びましたか。
山本尚貴:データロガーを見て、クルマの走らせ方、作り方、考え方、感じ取るポイントが僕と違うところがあって、勉強になった。それとともに、クルマから降りた後の人間性の部分でも多くのことを学びました。彼には多くのファンがいますが、人を惹きつけるような魅力があることを近くにいてわかったような気がします。
■アブダビで観戦して改めてF1への憧れを実感
──実際にアブダビGPに来て、F1を見た印象は?
山本尚貴:F1がすべてではないと思っていた自分がありましたが、いままでスタンドやテレビで見ていたF1をパドックやガレージで間近で見たら、久しぶりに童心に帰ってワクワクするというような新鮮な感覚になりました。
──F1を夢見たきっかけは?
山本尚貴:92年(4歳)に父に連れられて初めて鈴鹿でF1を見て、黄色いヘルメットに白と赤のマシンを見て、かっこいいなとアイルトン・セナに憧れました。その次の年も見て、あとは(ミハエル)シューマッハーの活躍していた2000年代に何度か鈴鹿へ行って、最近では14年に伊沢(拓也)選手がGP2に挑戦していたときにオーストリアGPに(ホンダの若手育成プログラムのコーチ兼アドバイザーの)松浦孝亮さんと応援に行って、F1を見ていました。でも、パドックには入ることができなかったので、パドックやピットで無線を聞くのは、今回初めてです。
──セナへのあこがれは?
山本尚貴:勝ちにこだわる貪欲さは子供の僕でもすごいなと思い、ひかれました。ただ、僕は小さい頃からレースが好きで、ずっとレーシングドライバーになりたいと思っていました。
その夢はいままで一度も切れることなく、持ち続けて来たことは自慢であり、その夢を持たせ続けてくれた両親や周りの方々にはとても感謝しています。
セナがきっかけでレースを始めたのか、自分がレースを始めていたころにセナを見たのかは覚えていませんが、小学校から帰って来たら、よくF1のビデオを見ていました。小さい子が仮面ライダーやウルトラマンに憧れるのと同じで、僕にとってのヒーローはセナでした。
後編につづく