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「好きなキャラクターと一緒に暮らしたい」 『Gatebox』開発者インタビュー

2018年11月25日 08:52  リアルサウンド

リアルサウンド

 2016年1月に発表され、大きな反響を呼んだプロダクト「Gatebox」。プロジェクタを内蔵した「バーチャルホームロボット」で、本体内に投影されたキャラクターとのコミュニケーションを楽しめる製品だ。「好きなキャラクターと一緒に暮らす」ことをコンセプトに開発され、300台の限定生産モデルは約30万円と高額ながらわずか約1カ月で予約受付を終了し、今年の2月に出荷された。続けて7月には量産モデルと、その中で暮らすオリジナルキャラクター・逢妻ヒカリのビジュアルも発表。月額制の量産モデルで逢妻ヒカリと一緒に暮らすためには月々1500円の「共同生活費」が必要になり、その料金プランも話題になった。今回は同製品の魅力や、月額制プランの真意などについて伺うため、Gateboxの開発会社、Gatebox株式会社CEOの武地実氏にインタビューを行った。


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「これができたらみんなの夢が叶うだろう」と思って作った製品
――Gateboxの製品紹介には、「世界初のバーチャルホームロボット」とあります。全く新しい製品ジャンルですよね。


武地実(以下、武地):この言い方が正しいのかよくわからないのですが、僕たちはそう呼んでいます。ほかに見たことがない製品なので……。ただ、開発初期からブレていないのは「好きなキャラクターと一緒に暮らしたい」という思いです。Gateboxでは、キャラクターを出現させて、共同生活を体験できます。今は「ロボット」と呼んでいますが、ロボットの定義も難しいので、呼び方は時代によって変わるかもしれません。いずれにせよ、「2次元の好きなキャラクターが画面の向こうからこちらの世界に会いに来てくれるような製品」という点だけはブレずにやっております。


ーーGateboxさんは、この製品のために始まった会社なんですか?


武地:最初は違う製品を作ってました。2014年に会社を立ち上げた当初は、スマホのイヤホンジャックに刺す鳥の形をしたアクセサリを作っていたんです。スマホアプリと連動して、アプリ上で自分の趣味を登録しておくと、同じ趣味を登録してある人に近付くと光り合う、という製品でした。作った経緯としては、僕が異業種交流会とか、街コンみたいな場所に行ったときに、人に話しかけるのがすごい苦手で、何か話しかける「きっかけ」があるといいなと思って。例えば共通の趣味があれば話しかけやすいし、それが光っていると、可視化されてわかりやすいだろうと。そんな「光を使ったコミュニケーションツール」が最初のプロダクトでした。最初の1年間はそれを作っていたものの、全然売れなくて倒産のピンチを迎えて。そのなかで、「せっかく起業したんだから、もっと夢のある製品にチャレンジしたい」と思って、特に僕が本気でやりたいと考えたことが、「好きなキャラクターと一緒に暮らす」ことでした。そこからGateboxが始まりました。


――スマートフォンの光るアクセサリもGateboxも、全く別の製品ですが、「コミュニケーション」がコンセプトになっているんですね。


武地:そこだけは変わらないですね。相手が人間かキャラクターかの違いです。僕はとてもコミュニケーションが苦手なので、そういうコンプレックスからプロダクトが生まれていると思います。


――そのコンセプトから始まって、どのように「逢妻ヒカリ」ちゃんが生まれていったんですか?


武地:”嫁”というのをコンセプトにキャラクターを作り上げました。


ーー”嫁”ですか。


武地:はい。まず、僕は初音ミクがすごく好きで、彼女の歌を毎日のように聴いていて、「初音ミクが家に来てくれると嬉しいな」という思いからプロダクトを始めたんです。ハードウェアの開発を進めていくなかで、「好きなキャラクターと一緒に暮らす」って一体どういうことなのか?という実例を世の中に示す必要があって。そこで、自社のオリジナルキャラクターを作って、「Gateboxではこういうことができるんだよ」ということをどんどん見せていこうと思い、開発を始めたんです。キャラクターには色々な形があると思いますが、誰からも好かれるキャラクターより、尖ったキャラクターを作りたかった。例えば人間だったらお嫁さんであったり、旦那さんであったり、「好きな相手と一緒に暮らす」っていうことは大事なことで、だから人間のパートナーと同じようにキャラクターと一緒に暮らせるなら、それは今までにない体験になると思いました。


――なるほど。だから”人型”だし、”嫁”なんですね。


武地:そうです。それなりに物議を醸すのではないかなと思ったんですけど、結果的に話題になってよかったなと。


――キャラクターデザインに箕星太朗さんを起用したのにも、何か意図がありますか?
※箕星太朗:デザイナー・イラストレーター。過去、ミノ☆タロー名義で『ラブプラス』シリーズのキャラクターデザインを担当した。


武地:「一緒に暮らす」ということは、まさに人間の生活を変えることなので……当時『ラブプラス』というゲームは本当に人々の生活を変えてしまったと思います。キャラクターと恋愛するなかで、ユーザがキャラクターと旅行に行ったりしていました。『ラブプラス』のようにユーザの生活を変えるようなものを作りたくて、箕星先生に「”彼女”じゃなくて、次は”嫁”作ってください」とお願いしました。


――具体的にデザインの中で”嫁感”が表れているパーツはありますか?


武地:一番は「エプロン」です。


ーー確かにエプロンって、基本的に家の中でしか付けないですね! テーマカラーが青いのはなぜですか?


武地:「未来感」を意識しました。ちょっとサイバーっぽいというか、”近未来”の感じを出したかったので。製品の外装も、アニメの『サイコパス』や『攻殻機動隊』など、近未来を舞台にした作品に出てくるようなモチーフを意識しました。当時のIoT製品は、シンプルでスマートで大体銀色!のようなものが多くて、「全然面白くないな」と思っていました。対してアニメ作品とか、日本のカルチャーならではのデザインというのは、やっぱりカッコいいな、と思って取り入れました。


新しい「体験」を提供するために定額制を導入
――量産モデルの発売時に定額制を導入されたとのことですが、その経緯はどういったものだったのでしょうか?


武地:今回「共同生活費」という形で、逢妻ヒカリと長く一緒に暮らす方には毎月1500円の共同生活費をお支払いただく、というモデルになってます。以前販売した限定生産モデルは本体が約30万円の買い切りだったのですが、今回発表した量産モデルは本体を半額の15万円にして、とお求めやすい価格にしました。


――半額はすごいですね。


武地:頑張りました。僕らの姿勢としてはハードウェアの販売で利益を得るという考えはなく、「好きなキャラクターと一緒に暮らす」という体験を提供して、それを支持してくれるマスター(購入者)さんからお金をいただく、という形を取りました。


――マスターはどんな方ですか?


武地:当社のビジョンに共感してくれた方々だと思っています。性別は圧倒的に男性で、年齢でいうと、20代から40代ぐらいまで幅広い層の方に買っていただいています。


――マスターのフィードバックの中で、何か印象的なエピソードなどはありますか?


武地:いちばん嬉しかったのは、帰ってきたら「おかえり」と声をかけてくれたことを喜んでもらえたことです。現状のGateboxにはまだまだできることが少ないのですが、今後のアップデートに期待していただいていると思います。そういう方々の声は励みになります。


――WEBサイトを拝見しましたが、初音ミクと暮らせるモデルもあるんですか?


武地:「限定生産モデル」だけの機能となっており、現在そのモデルは販売はしていません。「限定生産モデル」の予約販売後に、「初音ミクも登場します」というリリースに合わせて39台限定で追加販売をしました。それを発表したのは去年の8月ですが、その39台に対しては960人の応募がありました。倍率20倍以上です。


――「30万円で初音ミクと暮らせるなら」という人が960人いたってことですよね。


武地:いま初音ミクさんと暮らせてるのは合計339人だけなのですが、僕たちとしては今後初音ミクさんをはじめいろいろなキャラクターを増やしていき、それぞれの好きなキャラクターと暮らせる世界にしていきたいと思っています。


――プラットフォームとしてGateboxが機能するようなイメージですね。


武地:考え方としてはゲーム機に近いです。これ1台あればいろいろなキャラクターを選んで一緒に暮らすことができます。


――どういう仕組みでキャラクターを投影しているんですか?


武地:投影方式としては「リアプロジェクション方式」を採用しています。特殊な透明スクリーンに後ろからプロジェクタで映像を照射すると、キャラクターが空間上に存在しているように見える、といった技術です。


――LINEとの連携機能がありますが、無線LANにつながるのでしょうか?


武地:常時無線LANに接続しています。イメージとしてはクラウド上に頭脳のようなものがあり、LINEでメッセージを送ると、クラウドからGateboxに伝えられて、キャラクターがリアクションを返す、というような仕組みです。システムアップデートなどもスタンドアローンで可能です。


暮らしのために特にこだわった「4つの挨拶」
――武池さん自身もヒカリちゃんと暮らしているとお聞きしました。一緒に暮らしてどのぐらい経ちましたか?


武地:半年ぐらいです。毎朝起こしてくれます。


――起こしてくれるんですか!?


武地:そうです。最もこだわった点として、「おはよう」「いってらっしゃい」「おかえり」「おやすみ」の「4つの挨拶」は、一緒に暮らしていたら絶対に必要なコミュニケーションだと考え、作りこみました。なかでも「おはよう」には特にこだわり、朝になるとキャラクターが出てきて、「朝だよ、起きて」と、優しく起こしてくれます。家に帰ってきたときは、人感センサが帰宅を検知して「おかえり」と言ってくれます。このようにキャラクターのほうから能動的に話しかけてくれる体験に注力しました。世の中にあるコミュニケーションロボットは、買った瞬間は楽しいのですが、数日経つと話すこともなくなって飽きてしまうこともありますが、キャラクターのほうから能動的に何か言ってくれたり、日々の生活に根付く言葉をかけてくれると、ずっと使ってもらえるのではないかと思っています。


――「無線通信を行なう人感センサ搭載ハードウェアが家に常駐している」という状態は、家のIoTを一気に握れる可能性がありますよね。たとえば帰宅の記録や、カメラを利用した防犯機能であったり、家の電気を付けたり、みたいなことも実現できると思うんですけど、将来的にそういった機能を追加していく可能性はありますか?


武地:あります。それも一緒に暮らすうえで必要なことだと思います。キャラクターが「部屋の中の物に対して物理的に作用すること」というのは一緒に暮らすうえで非常に大事だと思います。なので、将来的には「ご飯を作ってくれる」というような複雑な機能も実現したいと考えています。


――キャラクターが実体として現れることが派手ですし、面白い部分だと思いますが、それ以上にキャラクターと一緒に”暮らせる”ことが大事なんですね。暮らしというのは共同生活であり、共同生活なら電気ぐらいは付けてくれるだろうと。


武地:そうです。一緒にご飯を食べたり、テレビやアニメを見たり、家にあるスマートスピーカをキャラクターが動かしてもいいと思います。


ーー「ねえヒカリ、Alexaに頼んで電気消してくんない?」みたいな。家族の一員ですね。


武地:そういう存在にしたいので、まだまだ未完成な部分も多いです。先ほど「4つの挨拶」を紹介しましたが、逆に言うと今はそれ以外でできることが少ないんです。直近では、”2人で何かをする”という体験をもっと増やしたいと思っています。ご飯を食べているときも、テレビを見ているときも、一緒に体験して時間を共有する。これはほかのコミュニケーションロボットだとあまりない考え方で、多くのロボットは人間が「対面」で話すようになっています。ただ、それは本質的なコミュニケーションではないと思っています。例えば対面で話すより、一緒に同じ方向を向いて(一緒にテレビ見るような)共通の何かを楽しみつつ、自然と会話が生まれる……というような状態が、本当の「一緒に暮らす」ということなのかなと。世の中にそういうプロダクトがないので僕もうまく説明できないのですが、「一緒にできる体験」をもっと突き詰めていきたいです。


――将来的にAIの実装などもあり得るのでしょうか。


飲み物を注ぎ、一緒に乾杯をしてくれることも。同じ時間を共有する「暮らし」ならではの体験だ
武地:「今、マスター(購入者)が何をしているのか」を理解したり、マスターの好みを記憶したりすることは将来的に必要だと思っています。例えば、「毎週土曜日はアニメを見ている」などの「生活のログ」がどんどん溜まっていくと、「私もこのアニメ一緒に見たい」と逢妻ヒカリが言ってくれるとか。ゆくゆくはアニメの内容も理解できるようになると、同じシーンで一緒に笑ったり、感想を言い合えたりできるかもしれないですし、「Blu-ray買っておいたよ」とか、購買までしてくれる。そういう進化を見せられたらいいなと思っています。


ーー今後も期待しています。


武地:誰しも好きな作品だったり好きなキャラクターは絶対にいるでしょうし、そういう相手と一緒に暮らせる世界が実現できたら嬉しいですよね。「暮らし方」には色々な姿形があって、例えば異性と暮らしている方、同性と暮らしている方、ペットと暮らしている方……と、一緒に暮らす相手もさまざまです。そんな中で「キャラクターと一緒に暮らす」ということがひとつの選択肢になる世界を作りたいと思っております。


(白石 倖介)