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『THE QUIET MAN』レビュー:プレイヤーの作品に対する見方を問う、唯一無二の”問題作”

2018年11月25日 08:42  リアルサウンド

リアルサウンド

 2018年11月1日、スクウェア・エニックスより『THE QUIET MAN(ザ クワイエットマン)』なるゲームがPlayStation 4、PC(Steam)用ダウンロードソフトとして配信された。


参考:PSで攻殻のゲームが出てたって知ってました? 『攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL』


 同社は言わずと知れたファイナルファンタジー、ドラゴンクエストのRPG二大巨塔を擁するメーカーだ。2003年に合併するまで、特に旧スクウェアは1997年から2000年にかけては、看板タイトルに留まらない、異色の作品を輩出し続けた。全てがヒットした訳ではないが、一部の作品は根強いファンを獲得し、今もなおその話題が当時のプレイヤーの間で話題に上ることがある。


 合併以降は時代の移り変わりなどもあり、その頃を髣髴とさせる作品が誕生することは少なくなった。しかし、平成の終わりが刻一刻と迫ってきた昨今、突如、そのような作品が現れる形となった。


 結論から言えば、本作は現代に蘇りし、旧スクウェアの血が通った作品。


 そして、プレイヤーの見方を問う、唯一無二の”問題作”である。


無音の世界を読み解く”シネマティックアクション”
 本作は実写で描写された「ストーリーパート」、3DCGで描写された「アクションパート」の二つで構成される、「シネマティックアクション」を謳う作品。


 物語の舞台となるのはアメリカ・ニューヨーク。ある夜、ナイトクラブ「Club Moonrise」の歌姫「ララ」が、突如現れた「仮面の男」によって誘拐されてしまう。現場に居合わせた主人公の「デイン」はララを救出するべく、男の後を追い、ニューヨークを奔走することになる。


 ゲームは実写のムービー、3DCGのアクションを交互に繰り返し、ストーリーを追っていくのを主とする。「アクションパート」は格闘攻撃主体で展開され、3Dの行動範囲の限定されたフィールドに現れる敵を倒し、前進していく形となる。いわゆるベルトスクロール型の体裁だが、デインができることはパンチ、キック、回避兼カウンター、そして「フォーカス」なる必殺技と少なめで、コマンド技もなく、直感的に動かせる設計となっている。


 また、本作は一部を除き、音楽・台詞・字幕による言葉による情報伝達を完全に排している。そのため、本編で展開されるストーリーは目前で起こっている出来事から推測しなければならない。


 音に関しては完全な無音という訳ではなく、登場人物が喋っている際、その事を連想させるノイズのようなメロディが流れる。アクションパートも基本、音楽も打撃音も流れず、更にはデインの体力と言った画面情報も何ら表示されないが、前者はとどめを刺すとスローモーションの演出が差し込まれるほか、後者は画面全体の色味が変化するので、どのような状況であるかは認識可能だ。


 ただ、得られる情報が映像しかないため、異様な雰囲気が醸し出されている。


 更に本編は約3時間程度でエンディングを迎える。そして、その後に音楽・台詞・字幕が解禁された二周目『THE QUIET MAN -ANSWERED-』が解禁され、推測するしかなかったストーリーに一つの答えが示されることになる。


 この二周目は、リリース一週間後の2018年11月8日に実施された無料アップデートによって解禁され、現時点では一周目からも選択可能になっている。ただ、本作をゼロから楽しむに当たり、一周目は無音と言語情報無しが推奨される感じだ。


 このように映像から推測しなければならない一周目、それを元に答え合わせを行う二周目という、演出も表現方法も異なる本編が収録された内容となっているに加え、無音にアップデートによる情報解禁など、昨今のゲーム特有の機能を活かす挑戦的な仕掛けも盛り込まれた作品になっている。


気力勝負の一周目
 故に本作は非常に人を選ぶ。ことに無音で紡がれる一周目は、冗談も何もなくプレイヤー自身の物語に付き合う気力が問われる。


 そもそも何故、無音なのか。理由は主人公のデイン自身、耳が聞こえないからだ。なので、この一周目は”デインの視点”から物語を追体験していく形となる。


 実質、ノイズしか聴こえてこない一周目で、物語の全容を掴むのは困難を極める。映像があるので、おおよその流れは分かるが、人物相関、事件の経緯などは全て、プレイヤー自身の憶測を元に読み解いていかなければならない。


 そして、無音という環境はプレイヤー自身に大きな負担をもたらす。例えどんな派手なシーンになったところで、盛り上がらないのだ。読み解こうという姿勢で挑んだとしても、である。


 アクションパートも同様に無音なので、敵を打ち倒した手応えは全く得られない。そして、実写パート側の展開をちゃんと追わなければ、戦闘へと至る経緯も分からなくなって、ゲームに流されるがままとなる。


 追い討ちをかけるように、ストーリーも急に場面転換したり、意味深なフラッシュバックが挟まれたりなど、随所で唐突な展開が起きる。こうした場面の数々もプレイヤーの物語への理解を妨げ、非常に大きな負担を与える。


 なので、全編を通して気力が問われるのだ。しかも驚くべきことに、耳が聴こえないとされるデイン、他の人物が喋った内容を普通に理解できる。読唇術を心得ているのだ。このため、彼自身の視点に立って物語を体験しようにも、プレイヤーが読唇術を体得していなければ確実に置いてきぼりにされる。仮に体得していても、英会話ができなければその時点でアウトだ。


 なので一周目は、全てをやり終えた後に大きな苦痛に苛まれることになる。全てを推察しながら終えても、結局「何が何だか分からない」となる。ストレートに言うなら、理解されることを徹底的に拒否した世界なのだ。


 こうも辛いことばかりなら、二周目をプレイする気力も起きにくいのは言うまでもないだろう。だが、二周目は意地でもやるだけの価値がある内容になっている。


 そして、この作品が問いかけたことの片鱗も明らかとなる。


様々な限界を知ることになる、”神の視点”からの二周目
 先述の通り、二周目では音楽・台詞・字幕による情報が追加される。憶測でしかなかった人物相関、事件の経緯が一通り明らかになるのだ。


 つまるところ、この二周目はデインではなく、プレイヤー自身の視点で見ることになる。いわば”神の視点”だ。そのため、耳が聞こえないデインには分からない情報を知ることができる。


 明かされる情報はいずれも意表を突くものばかりだ。特に人物相関には思いもしなかった情報がある。きっとこのような関係だろう、と思っていたことが根底から覆されるのだ。また、一周目には無かったシーンも僅かに挿入される。これには「えっ?」となるが、この周回はプレイヤー視点(神の視点)で体験する。だから、存在自体は不自然ではない。


 また、無音で地味だったアクションパートにも打撃音、戦闘曲が追加。一周目よりもアクションゲームらしい手応えを得ることができる。何より、音一つで元の印象が大きく一変する驚きを味わえる。これが本当のリアルサウンド……と言っていいのかどうか。


 だが、このような二周目でも、物語の謎の全ては明かされない。詳細は伏せるが、ストーリーにおける肝心な事柄だけは、この視点からでも情報を得ることができないのだ。


 また、人物相関に驚きの情報があるにせよ、ストーリー自体は特筆すべき出来とは言いがたい。デインと敵対する人物の過去、キーキャラクターである仮面の男の所業に関しては正直、安っぽい。デインがララに執着する理由にも薄気味悪さすらある。更に言えば、一周目を楽しめなかったプレイヤーなら、真相が明かされたところで「そうですか」な感想に終わる。一周目を読み解こうとしたプレイヤーもまた、全てが明かされないことへのもどかしさを味わうことになるので、総じて拍子抜けと言わざるを得ないあろう。


 しかしながら、プレイヤーの視点からでも、物語の全てを理解できず終わるのがとても興味深い。特に一周目、デインの視点でも分からないことが分からないままであるのは、例え文字を始めとする情報があっても人には読み取れないことがある、憶測で語らねばならないことがある難しさを考えさせられる。


 プレイヤー自身が、このゲームにどう向き合ったかで感想が著しく変わるのも興味深いところだ。結局、本作はプレイヤー自身が物語に付き合えば、二周目で明かされる情報の数々に一喜一憂できるし、逆に退屈に感じて嫌々付き合ったのであれば、最終的な評価も悪いままで終わる。ことに一周目の退屈さもあって、そこは露骨に分かれる。


 そして、悪い評価は最終的に世に広まる。昨今であれば、SNSの普及もあって広まるのに時間もかからない。そして実際に本作はリリースから二周目の解禁後まで、SNSを始め、プレイしたユーザーから様々な反応が流れ出ている。率直に言って、好意的なものはごく一部で、全体的には悪評寄りだ。筆者も一周と二周をプレイした身として、一連の感想には共感できる。


 だが、そんな評価を世に蔓延させることも本作の物語の一部だったのではないだろうか。結局、人には音を始める情報が何もない映像からも、それら全てがある映像からも全てを読み取れる力はない。映像だけではなく、文章すら書き手が真に込めた狙いを読み取るのは難しい。そして、時にそれは対象を傷つける力を発揮する。読み取っても、人それぞれ感想が変わる。


 そう言ったプレイヤー自身の物の見方への問いかけ、それこそが本作の物語が目指したことなのかもしれない。当然ながら、これも憶測でしかない。だが、実際に視点の違う一周目と二周目、どちらにおいても判明しない謎、無料アップデートによる答え合わせに象徴される現代特有の仕掛けには、本当にそれを意図したのではと考えられる布石がある。


 正直、一周目の項目で触れた通り、プレイするには相当な気力が要る。大半のプレイヤーは退屈さに押しつぶされるだろう。だが、例えそうあっても二周目をプレイし、その後、世の中に広がる同じ経験をしたプレイヤーの情報を探ってみて欲しい。


 もしもでしかないが、本作が目指したことの片鱗が分かるかもしれない。


プレイヤーの受け入れ方が問われる問題作
 本作が良いゲームなのかと言われたら否だ。悪いゲームと言われても否。どちらになるかは本当にプレイヤーの見方次第となる。


 とは言え、明確な欠点もある。特にアクションパートの「フォーカスモード」を使えるか使えないかで難易度が大きく変わるバランスには難があるし、その解説が一切ないのは、幾ら意図したものにせよ、不親切がすぎる。カメラ操作も左右にしか対応していないため、画面外から敵が消えると、位置を認識できなくなってしまうのも問題ありだ。


 CGに関しても良い出来とは到底言いがたい。質は一昔前のHD機で出回っていたアクションゲーム並で、モデリングも実写側の俳優の再現が甘い。特にララに関しては実写とCGとで別人すぎて、苦笑いしてしまうほどだ。


 中断セーブができず、途中で止めるとチャプターの最初からになるのも不便の極みだ。しかも厄介なことに、終盤にてごく稀に強制終了バグが生じることがある。後にアップデートが入り、頻度は下がったかと思われるが、こういった事故が起きる恐れがありながら中断不可の仕様はストレートに意地悪だと言わざるを得ない。


 他にも二周目で解禁される字幕だが、縁がないことで白い背景に溶け込んで見えにくくなる問題がある。雰囲気を出す意図もあったのだろうが、縁ぐらいは着けるべきだったのではないだろうか。また、切り替えが異様に早い字幕も一部、散見されるのも気になる所だ。


 長々と書いてきたが、結論として万人受けする作品では無い。だが、プレイすれば確実に何かが残る、挑戦的な要素の詰まった内容になっている。貴方はこの物語とゲームをどう受け取るだろうか。理解すべく全力で向き合うか、理解を捨てて怒りをぶちまけるか、或いは深みにはまり、テーマの手がかりを追求し始めるか。


 もし、翻弄されて構わない心意気があるのなら、挑んでみて頂きたい。二つの視点から物語を読み解いてみて欲しい。


 そこから出てきたものに、貴方自身の見方が現れる。


(シェループ )