事故物件。それは賃貸の対象となる建物、部屋において、過去になんらかの原因で人死にが出てしまった場合にあてがわれる言葉である。
僕は霊感がない。そのせいか、幽霊の存在なんてのは信じていない。だけど、話のネタとして考えると、幽霊の出る部屋なんてものは、非常に面白く感じられる。見えないものを思って、想像力をフル回転させるのは楽しいものだ。
今回は、季節はずれも甚だしいところなんだけども、ちょっとこの事故物件についての話をしていきたい。(文:松本ミゾレ)
大丈夫だと思ったけど「やっぱり出ていきます」と住人退去
先日、たまたま不動産の仲介をしている人と飲む機会があった。この人。仮にGさんと呼ぶこの中年男性が、1つだけ面白い話をしてくれた。
そもそも事故物件なんてそこらにありふれているもののようで、某事故物件照会サイトを見るまでもなく、どこそこにひしめいているんだそうだ。そして、大抵、幽霊が出るとされるのは孤独死をした独居老人のいた部屋ではなく、自殺だったり他殺だったり、とにかく不穏な死に方をした人がいた部屋なのだという。
よく知られているように、そういう部屋は相場よりも安く入居できることが多いので、お金のない若い人たちは下見をしたがるのだとか。もちろんGさんは入居を希望するお客にはその部屋が心理的瑕疵のある物件だということは告知している。告知の義務がなくても、後々面倒なことにならないように、Gさんは言って聞かせるそうだ。
たとえば「この部屋では深夜2時以降は鏡を見ないでください」みたいな物件はいくつもあるようで。そして実際、意を決して入居したものの「やっぱり出ていきます」と青い顔をして訴える人もちらほらいるという。
一方で、中にはいわくつき物件に住んでおきながら、全く幽霊の悪影響を受けない入居者もいるらしい。
日本の怪奇現象はグローバルで見ると地味?
Gさん曰く、前述のように、とにかく事故物件なんてものは、人死にが出て間もない時期なんかは特に安値で貸し出されるとのこと。そして世間には、そういった"事故物件なりたてホヤホヤ"な部屋を探しては、入居する物好きもいるそうだ。
いや、物好きというか、単純にお金がないのでそういった部屋を希望しているだけの場合が多いそうだ。とにかく、大変な勇気の持ち主である。そしてこういうタイプは大体独身男性で、幽霊が見えても気にならないか、あるいは全く鈍感で何も感じないタフなタイプに二分されるのだと、Gさんは語っていた。
さらに最強の事故物件キラーもいるという。それが外国人だ。特に数人の家族ともなると、ほとんど事故物件の影響を訴えてこないという。特にアジア圏の人たちは、事故物件のおかしな現象をものともしないことがよくあるというのである。
なんというか、日本の繊細な怪奇現象は、ワールドワイドな目線から言えば地味ということかもしれない。明らかに幽霊が見えていても「ドッカイケ!」と邪険に接する。幽霊も居心地が悪くなるのだろう、程なくするといなくなってしまうという。
来春、新社会人。あるいは大学生として新天地で一念発起する予定の人々は、ぼちぼち入居先を決める頃合いだろう。そういった人たちの中で、もしも怖いものが苦手という人がいたら、くれぐれも安い部屋は借りないことだ。Gさんは、幽霊の出る・出ないに限らず、安いには安いなりの理由があると語っていた。どうせなら相場並みの家賃で住める、普通の部屋を探すのがいい。