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「1週間の徹夜は我慢しろ」「死ねクズ」 ブラック企業体験イベントで、どれだけ罵倒されても「この会社にいたい」と思った話

2018年11月23日 18:11  キャリコネニュース

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広告制作会社の人間(本社:大阪府大阪市)は11月23日の勤労感謝の日に合わせ、参加型イベント「THE BLACK HOLIDAY」を東京都新宿区某所で開催した。同イベントは新入社員として架空のブラック企業に入社した参加者が、『ブラック企業』の被害をリアルに体感する参加型演劇だ。

ブラック企業アナリストの新田龍氏が監修し、劇団子供鉅人の益山貴司代表が脚本・演出を務めた。実際のブラック企業経験談をもとに制作されているのが特徴だ。キャリコネニュース編集部も事前体験会に参加してみた。

前日の午後に劇中で入社する「スーパーミラクルハッピー株式会社」からメールが届いた。内容は服装や始業場所・時間(集合時間)といった事務連絡で、その中にしれっと「弊社商品の販売戦略に関する企画書案を完成させてご持参ください」という記載があった。もしこれが筆者の上司から届いたメールなら「せめて3日猶予が欲しい!」と訴えるところだが、黙って作成した。

社訓を大声で読み上げるとだんだん楽しくなってくる 先輩も褒めてくれる

当日、開演時間15分前に到着したにも関わらず「遅いよ! 新人は30分前に着いて掃除しなくちゃ!」と叱られた。社内に入った瞬間、先輩社員に大声で「おはようございます!」と言われ、普通に返すと「声が小さい!」と怒鳴られる。

会場はビルの一室、普通のオフィスのような場所だ。しかし壁には「残業なき労働に価値なし」「夏の温度設定30度 冬の温度設定16度」「土曜日が出勤日になります」などの張り紙が貼ってある。

新人は早めに出社して掃除をするのがルールのようで、「キレイにしろ」「かたまって掃除してんじゃねーよ」という怒号を浴びせられながら雑巾がけを行う。やがて、他の新入社員も来た。始業前にもかかわらず「遅いんだよ!」と怒られており、早く来てよかった、と心底安堵した。

朝礼が始まると、新人研修担当3人が会社について説明する。「多少厳しい言葉は、愛のムチだと思って欲しい」「トイレに行きたい、急用があるなどで離席するのは構わん。その分の時給は、給料から天引きする」など伝えられる。そのたび執拗に「返事をしろ!」と言われ、普段の3倍くらいの声で応える。

続いて社訓を読まされる。「私たちは人類の健康に寄与します」「私たちはお客様の笑顔を追求します」など一見すると普通だが、1つ1つ読み上げるごとに「スーパーミラクルハッピー!」と社名を言い、決められた動きをしなければいけない。当然大声だ。最初は少し引いたものの、やっていくうちに楽しくなる。ちゃんとすれば先輩は褒めてくれるのだ。

しかし声が小さい人は、他の社員の前で怒られる。また1週間徹夜してヘロヘロの男性は、「見本にならない」と謝罪を強要されていた。そんな中、研修担当から、

「営業はガッツと根性なんだよ」
「1週間くらいの徹夜は我慢しろ。お前ら出来るな?」
「会社の幸せはお前の幸せなんだよ!」

と言われる。出来るか否かじゃない、やるかやらないかだ。やっと朝礼が終わったかと思えば「みなさんのタイムカード、こっちで切っておきますから」という声。掃除も朝礼も勤務時間としてみなされていなかった。

できない社員が吊るし上げられても「無能なのが悪い」と思うように

その後の営業研修で、給料は完全歩合制で下限は0円ということが判明する。しかし月収100万円超の社員もいる、というのが妙に生々しい。「有給は会社からプレゼントされるもの」という謎ルールも、「まあ働けば働く分だけ貰えるんだし」と受け入れてしまった。

また自社商品の30万円する健康器具を巧みな手口で独居老人に売る練習をし、上手くできない社員は当然のことながら罵倒される。先輩社員は、新入社員の同期にも「『死ねクズ』と言え」と強要する。最初は控えめだった同期の語気も段々荒くなり、大声で言えば言うほど褒められていた。

やがて、売上の低い先輩が吊るし上げられるのを見ても同情しなくなっていった。ノルマ未達で罰金をくらい、時給が最低賃金以下になるのも、「できないから悪い。できれば怒られないのに」と思ってしまう。だって、年金暮らしの親に電話をかけて健康器具を買わせたら、「よくやった!」と褒めて貰えるような状況なのだ。まともでいられるわけがない。

何をやっても「早くしろ」「なんでできねーんだ」「返事が小さい」と言われ続ける。その環境下にいると、がんばって書いた企画書をビリビリに破かれても、定時と同時にタイムカードが切られて残業させられても、連帯責任だとダイレクトメールを手書きで書かされても、「私たち新入社員がダメだからしょうがない」という気になる。

サービス残業で反省文も書かされた。1人ずつ全員の前で読み上げるのだが、ほぼ全員が「迷惑をかけてすみません」「反省し、明日から頑張っていきます」と言っていた。中には「新入社員全員が至らず」という人も。すると先輩は「すばらしい!」と褒めてくれる。これがどうしようもなく嬉しくて、明日も頑張れると思えてしまった。

参加した大学生「短時間で慣れてしまった。実際に自分も染まってしまうのでは」

同イベントは、擬似的にブラック企業を体験することで「本当にいい職場とは何か」を考えるきっかけになれば、というのが趣旨だ。しかし筆者としては、なぜブラック企業務めの人間が辞められないかの理由がわかったような気がした。

怒声にまみれた中に居続けると、自己肯定感が低くなる。自分がダメだから仕方ない、とひたすらに仕事に打ち込むしかない。そして何より、先輩の要望に応えられたら、思いっきり褒めてくれるのだ。適切なアメとムチは、社畜を生み出すことがわかった。

終演後、教育担当役としても出演していた益山代表は、「参加型演劇なので反抗されたらどうしようと思っていたけど『教育担当』『新入社員』の役割が与えられたことで、参加者がその役を果たそうとしているのが怖かった。参加者が従順になればなるほど、こちらの発言や行動が過激になった」と話していた。心理学でいうミルグラム実験のように、ブラック企業務めの人間が、自身を「社畜」「ブラック勤務」と定義することで、負のループに陥ることもあるのかもしれない。

参加した大学4年生の男性は「来年から社会人なので、ブラック企業に入ってしまった場合の対策のために参加した。でもたった1時間半でこの会社に染まってしまったので、実際にブラックだったとしても受け入れてしまうのではないかと心配になった」と語っていた。