2018年11月23日 10:03 弁護士ドットコム
日産自動車のカルロス・ゴーン氏が逮捕された事件をめぐり、フランスでは日本の刑事手続を疑問視する報道が相次いでいる。
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時事通信(11月22日)によると、 仏紙フィガロは、「家族が面会できる可能性は低く、できたとしても15分程度。面会での会話は日本語しか認められない」と報道。仏紙ルポワンも、「日本語を話さないゴーン容疑者夫妻にとって非常に厳しい勾留条件だ」と報道している。
フランスの刑事手続では、勾留中の取り調べの際には、弁護士の同席や捜査妨害にならない範囲での家族との面会が認められている一方で、日本の刑事手続では、弁護士が事情聴取に立ち会うことが原則として出来ないほか、逮捕後72時間は家族との面会も認められないなど、厳しい条件が定められていることが批判的にとらえられているようだ。
フランスメディアが指摘する点は、日本の刑事手続のあり方を考えるうえで問題といえるものなのか。神尾尊礼弁護士に聞いた。
「こうした議論の際にまず出てくるのが、諸外国との安易な比較論だろうと思います。フランスではこうだとか、フランス人ではこうだとか、外国の法制度と単純に比較することで日本の法制度を非難する傾向がありますが、それでは議論として不十分だろうと思います」
では、今回のゴーン氏の件についてはどう考えればいいのか。
「やはり、日本における日本法による手続の中に、ゴーン氏という外国人が置かれるわけですから、その外国人という特殊性を無視はできないと思います。また、事件が複雑であるだけに、事件の特殊性も無視できません。
こういった面からみていくと、面会に一定の条件が付いてしまうのはある種致し方ない面もあるでしょう。まず、面会において言語が制限されてしまう(日本語しか原則許されない)のは、立会人が分からないような言葉で秘密にやり取りされてしまう危険がどうしても出てくるので、制限もやむを得ません。
また、事件の性質上、あまり多くの人に面会を許すことで証拠隠滅のおそれも出てくるでしょうから、面会できる人間が制限されるのもやむを得ないだろうと考えます。
もちろん、こうした制限が必要最小限か、きちんと吟味する必要はあるでしょう。起訴されていない人間には無罪推定が及びますし、仮に犯罪者であるとしてもその身柄拘束は必要最小限であるべきでしょう。
他の事件でも、接見禁止は比較的簡単につけられてしまう傾向にあります。家族の誰とも会えないというのは制限として時に厳しすぎるので、本当に必要な制限かはきちんと考える必要があるでしょう。
ゴーン氏の場合は、事件の性質上、家族も関わっている可能性があり、家族を含めて面会の禁止とされたり、言語の制限を受けたりするのは致し方ないと判断されやすいのではないでしょうか」
特に問題はない、ということなのか。
「弁護士が事情聴取に立ち会えないというのは、外国人という特殊性からみるとむしろ問題だろうと考えています。取調べにおいて誤訳やニュアンスの違いは多くみられます。ただ、通訳も含め捜査機関が手配し、弁護人が関われる要素がないことから、そういった誤訳を知るのは起訴された後になってしまいます。意味を勘違いした『自白』ができ上がっていることすらあります。弁護人には取調べが適正かチェックする役割を持たせるべきでしょう。
このように、外国との安易な比較論で終わることなく、制限されている事項を個別具体的に考えていく必要があろうと思います。面会については、外国人や事件の特性に基づく制限についてはやむを得ない面もあるものの、取調べについては、立会いを許さないのは厳しすぎる制限であろうと考えます」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
神尾 尊礼(かみお・たかひろ)弁護士
東京大学法学部・法科大学院卒。2007年弁護士登録。埼玉弁護士会。刑事事件から家事事件、一般民事事件や企業法務まで幅広く担当し、「何かあったら何でもとりあえず相談できる」事務所を目指している。
事務所名:彩の街法律事務所
事務所URL:http://www.sainomachi-lo.com