2018年シーズンのチャンピオンを獲得した中須賀克行が駆るヤマハYZF-R1 2018年シーズンの全日本ロードレース選手権JSB1000クラスは、YAMAHA FACTORY RACING TEAMの中須賀克行が12レース中8勝を挙げ、チャンピオンを奪還。8度目の王者に輝いた。そんな中須賀の速さを支えたチャンピオンマシン、ヤマハYZF-R1にフォーカス。中須賀と関係者にマシンの魅力を聞いた。
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全日本ロードレースの最高峰、JSB1000クラスでタイトルを獲ったYAMAHA FACTORY RACING TEAMの中須賀克行は、自らが走らせるYZF-R1について「すべていい!」と断言する。決勝全12レース中8勝を挙げることができたのは、「マシンとライダーの相乗効果です」と中須賀。「何かひとつが欠けてもうまく行かない」。中須賀が語るチャンピオンマシンYZF-R1とは。
初代YZF-R1は1998年にデビューした。それ以降YZF-R1は、一貫してワインディングロードでの楽しさや速さを追求してきた。つまり、公道での走りを重視して造られてきたのだ。
だが、2015年に登場した現行型YZF-R1は、コンセプトをガラリと変えた。その狙いは『サーキット最速』。レースで勝つことを目的に開発され、エンジン、車体、すべてのパフォーマンスが底上げされた。
「従来型はどっしりした安定感があって、『峠で誰が乗っても安心』というキャラクターだった。いかにも公道用バイクって感じですね。ただ、サーキットで限界まで攻めると、その安定感が切り返しなどで重さになる面がありました」と中須賀。「現行型は、ものすごく軽快なんです。前後の重量配分が見直されたこともあって、荷重のかかり方もニュートラル。自分の操作に対する反応がより素直になりました」
全日本ロードJSB1000クラスは量産車の使用が義務付けられているが、レギュレーションにより変更や改造を許されている箇所は多い。YAMAHA FACTORY RACING TEAMのYZF-R1でいえば、「エンジン、スロットルボディ、そしてメインフレーム以外は、すべて量産車とは別モノです」と同チームのチーフエンジニアは言う。
レーシングカウルの形状は量産車のシルエットを踏襲することになっているが、その他、燃料タンク、前後サスペンション、スイングアームなど目に付く機能部品のほとんどがレース専用品だ。
逆にいえば、メインフレームは量産車のままなのだ。従来型でJSB1000クラスを戦っていた2014年以前はメインフレームにも手を加えていたと言うから、基本骨格を量産車のままレースに使用できる現行型は、ベースとしての出来栄えが優れていることが分かる。
■YZF-R1は「本当の意味でオールマイティなマシン」
現行型のデビューは2015年だから、早4年が経過している。2017年にはホンダ、スズキ、カワサキが続々と新型マシンを登場させた。中須賀は、その2017年にタイトルを逃したが、これは16.5インチから17インチへのタイヤサイズ変更に手間取ったことが原因だ。今年はライバルに打ち勝ってのタイトル奪還に成功している。YZF-R1は、ライバルマシンに対して今なお優位性を保っていると言えるだろう。
「どこかに特化した強みがあるわけじゃない。もう少しエンジンパワーも欲しい。でも、全体にバランスが取れているところがYZF-R1の良さなんです。現行型になってから、サーキットによる得手不得手が減って、どこでも速く走れるようになった。それに、YZF-R1に乗っているライダーは僕に限らずみんなかなり速い。本当の意味でオールマイティなマシンです」。そして笑いながら「そうは言っても、最後の最後のタイム差はやっぱりライダーの腕ですけどね」と付け加え、日本最速・最強の男としての自信を窺わせる。
YZF-R1が得意とするパートを強いて挙げてもらうと、中須賀は「ブレーキングとコーナリングかな」と答えた。ブレーキをかけた際の安定性が高く、よりコーナーの奥まで突っ込める。なおかつ強くブレーキをかけたまま軽快に倒し込めるから、進入が速い。コーナーエントリーがYZF-R1の大きな武器となっている。
それだけではない。中須賀はヤマハのMotoGPマシン、YZR-M1の開発ライダーも務めている。YZR-M1をテストで走らせ、時には実戦にスポット参戦することでレーシングマシンの理想型を知っており、もちろん走らせ方も知っている。また、YZF-R1の量産車開発スタッフにも、JSB1000の現場に立つレースエンジニアにも、MotoGP経験者がいる。バイクレースの世界最高峰を深く知る者たちが集っていることで、YZF-R1のパフォーマンスが最大限に引き出されているのだ。
さらに中須賀はこうも言う。
「ライダー、マシン、そしてチーム。どれかひとつのパフォーマンスが欠けても、レースに勝つことはできません。ウチが勝てているのは、その3つが高いレベルで揃っているから。総合力の高さこそが勝因なんです」
チーフエンジニアも、「プロとしての緊張感を保ち、ミスのない仕事をするのは当たり前。ライダーにより安心して乗ってもらえるために、明るい雰囲気作りを心がけています」と語る。
すべてが高い次元で調和したトータルバランスこそが、8度の全日本JSBクラスのタイトルという記録の源なのだ。