スーパー耐久を運営するスーパー耐久機構(S.T.O.)は、11月16日(金)に、第65回マカオグランプリが開催されていたマカオでプレスミーティングを行い、2019年からアジア地域に向けた展開として『スーパー耐久アジア』をスタートさせると発表した。
1990年にスタートしたN1耐久から発展を続けてきたスーパー耐久は、近年では参加型レースとして幅広いエントラントから支持されており、参戦するマシンを問わない幅広いカテゴリー設定やさまざまなレース距離など、エントラントを重視しつつ、かつファンを取り込むことを重視。日本でひさびさの24時間レースとなる富士24時間を開催した2018年には観客動員が前年比128%となるなど、多くのファンに愛されている。
そんなスーパー耐久だが、来季以降へ向けて新たな試みがマカオで発表された。なぜマカオかと言うと、今回のプロジェクトはアジアをターゲットとしたものだからだ。その名も『スーパー耐久アジア』というもの。この日は香港のメディアが集まるとともに、桑山晴美S.T.O事務局長、そしてスーパー耐久アジアでアドバイザーを務めるアレックス・ユーン、マーチー・リーのふたりが顔を揃えた。
『スーパー耐久アジア』と言っても、いきなり今のS耐の参戦マシンを輸送して、そのままアジアでレースを開催したりするものではない。今回の『スーパー耐久アジア』の狙いは、日本でスーパー耐久が育んできた“レースを楽しむ文化”を、アジアで一緒に育もう……というプロジェクトのようなものだ。この考えは、昨年からS耐に参戦を開始したユーンとリーのふたりと、桑山代表が意気投合したことにより結実したという。
まずS.T.Oでは、2019年から香港にスーパー耐久アジア事務局を設置する。S耐ではGT3を使用するST-X、TCRを使用するST-TCRなどはほぼそのまま車両が使えるが、他のクラスの場合はいちからクルマを作らなければならない。そのため、S耐に興味があるアジアのドライバー、チームに、分かりやすく参戦方法を伝え、かつ日本のチームを紹介するなどの仕組みを作るという。
また、スーパー耐久の独自のカテゴリーと言える『ST2~ST5』のクラスの規格をよりシンプルかつ分かりやすくすることで、アジアでも根強い人気をもつ車両が使われるこのクラスに参加しやすくすることを狙っていく。
そして2019年以降に向けて大きな目標と言えるのが、多くのジェントルマンドライバーやアマチュアが楽しむスーパー耐久を象徴するレースを、1戦アジアで開催することだ。いつどこで開催するかは未定だが、このレースはアマチュアも参加しやすく、かつS耐の文化を伝えるために、ST-XをのぞくST2からST5、GT4、TCRまでのレースにしたいという。
もちろんシリーズ戦にしてしまうと、日本チームの負担が高まることから、日本チームは招待チームを含む自由参加に。また、このレースに参加したアジアチームは、日本でのS耐に特別参戦できるなどの仕組みを設けたいとしている。
いずれも、エントラントに無理な負担をかけずに、アジアとの交流を広めようと少しずつ歩みを進めていく予定だ。
■S耐に感銘を受けたリーとユーンがアジアとの橋渡し役に
この日は桑山代表が香港のメディア向けにゆっくりとスーパー耐久の魅力を語りつつ、スーパー耐久アジアの設立について説明した。
「いま目まぐるしいスピードで世の中が変わってきているなかで、大事なのは感性と勘、そしてスピードと実行力だと思っています。それにふさわしいパートナーとめぐりあえたことで、今まで以上にスーパー耐久に力を注ぎたいと思っています」と桑山代表。
「これからクルマ業界は大きな変革の時を迎えます。だからこそ、趣味性の強いレースの価値を次世代につなげていき、またその裏側で未来に照準を合わせた新しい斬新なプランにも挑戦していきたいと思います」
「参加型レースでも、観客の皆さんが足を運んでくれることにも、引き続き挑戦していきたいと思います。この数年で、チームの皆様、ファンの皆様、我々が一体になっていることをより感じていて、それをアジアにも広げていきたいと思います」
また今回ともにスーパー耐久アジアのアドバイザーに就任したユーンとリーのふたりは、このアドバイザーによって収益を得ようというものではなく、あくまで18年から日本で戦い、体感したスーパー耐久の魅力をアジアに発信しようと、アドバイザー就任を買って出たものだ。
「今年スーパー耐久に参戦をした際、このシリーズがどれだけ多くの人々に愛されているかを目の当たりにして、とても驚いた。このシリーズは、プロとアマチュアのドライバーやチームが、いっしょになってレースを楽しむことができるパーフェクトなバランスがある」とリーは語る。
「皆がお互いにリスペクトし合い、レースそのものの質も非常に高い。約60台がスタートグリッドに並んだ姿は、忘れがたい光景だった。このレースは、まさにアジアの人々が求めているレースだ」
またユーンも「アジアでは多くのチャンピオンシップが開催されているが、ショーとしては楽しいけれど、ローカルの人が自分たちで楽しめるレースはほとんどないに等しい。しかし、スーパー耐久は、誰もが気軽に参加できる。僕たちにはローカルの企業に対しても、貢献できるレースが必要だ。まさにそれがスーパー耐久なんだ」とアピールした。
リーは香港、ユーンはマレーシアと、それぞれ強い関係をもっており、スーパー耐久に参戦を望むエントラントがいた場合、絶好の窓口になってくれそうだ。
なお、2018年に向けてはシリーズのカレンダーもほぼ固まっているが、なかでもST-Xクラス車両のみ、鈴鹿10時間がスペシャルラウンドになるという。有効ポイント制を採用することで、参加義務づけにはならなそう。スーパー耐久アジアの発足とともに、シリーズがどんな歩みをみせてくれるのか、楽しみなところだ。