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逮捕のゴーン氏、今後の反論は? 株主代表訴訟に発展する可能性も

2018年11月21日 10:42  弁護士ドットコム

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日産自動車、三菱自動車、仏ルノーの会長を務めるカルロス・ゴーン氏が自らの報酬を有価証券報告書に過少に記載したとして11月19日、東京地検特捜部が金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで逮捕したことがわかり、国内外に激震が走っている。


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実際の報酬よりも約50億円低く記載し、海外子会社に買わせた中東レバノンやブラジルの不動産を無償で私的利用していた疑いなどもあると報じられている。日産の西川広人社長は同日夜の会見で謝罪し、「強い憤り」と「落胆」もあわせて表明。11月22日開催の取締役会で、ゴーン氏と側近で代表取締役のグレッグ・ケリー氏(同容疑で逮捕)の解職を提案するとした。


「逮捕報道」から間もなく、日産は経緯の概要を記したリリースを出し、数カ月前から内部調査をするとともに検察当局への情報提供もしていたことを明かした。このため、一部では「クーデターではないか」との指摘もある。今後どのような展開が見込めるだろうか、企業法務に詳しい大和弘幸弁護士に聞いた。


●特別背任罪の成立も

ーー今後、どのような展開が見込まれるでしょうか


「今回のゴーン会長の逮捕に係る被疑事実は、金融商品取引法違反、具体的には有価証券報告書の虚偽記載ですが、日産の社長の記者会見によれば、私的な目的での投資資金支出や経費の支出といった複数の不正行為があったとされています。


これら不正行為により、会社が財産上の損害を被ったということになれば、特別背任罪の成立も考えられます。ただし、同罪成立のためには、図利(とり、利益を得ようとすること)・加害目的といった故意を超えた主観的要件が必要とされるなど、適用は必ずしも容易ではありません。今回は容疑が固まった有価証券報告書虚偽記載罪でまずは逮捕に至ったのだと思われます」


ーー現状ではゴーン氏側がどのような反論をしているのかわかりませんが、想定される反論はどういったものがありうるでしょうか


「有価証券報告書には、発行会社のコーポレート・ガバナンスの状況の一つとして、役員の報酬等を記載することが義務付けられています。ここに、『報酬等』とは、報酬、賞与その他職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益であるとされていて、名目のいかんは問われませんが、職務執行との対価性が要求されます。


報道によれば、実際の報酬の約半額しか有価証券報告書に記載がなかったとのことですが、具体的な内容は現時点では明らかではありません。


仮に、日経新聞が11月20日夜に報じたように、株価連動報酬を受け取る権利約40億円分や海外子会社からの年1億~1億5000万円程度の報酬について、記載をしていなかったことが事実だとしたら、反論は難しいでしょう。それらは、職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益だと考えられるからです」


●日産が責任追及の手を緩めるかどうかに注目

ーー株主代表訴訟に発展する可能性は考えられますか


「記者会見で社長が述べた複数の不正行為により日産が損害を被ったとすれば、日産はゴーン会長に対して損害賠償請求権を有する可能性があります。日産がその権利行使をしない場合には、株主代表訴訟に発展する可能性はあります。


しかし、今回、日産はゴーン会長に対して早急に責任追及するように思われます。本来、有価証券報告書の提出義務者は会社であって、会長個人ではありません。経理担当役員や従業員、監査役、会計監査人など多くの人が同書の作成に関与します。


会長の一存のみで虚偽記載がなされることなどありえず(もちろん司法取引により責任の減免を受ける関与者はいるでしょうが)、今回の虚偽記載は、現経営陣を含めた会社全体が責任を負うべき問題です。そのような緊急事態において、ゴーン会長に対する責任追及の手を緩めるとすれば、日産は極めて強い批判にさらされると思われるからです」


(弁護士ドットコムニュース)