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キツネツキで菅原と滝が開いた“新たな引き出し” 『こんこん古今東西ツアー』最終公演を見て

2018年11月20日 18:02  リアルサウンド

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 9mm Parabellum Bulletの菅原卓郎と滝 善充のユニット・キツネツキ、1stアルバム『キツネノマド』のリリースツアー『こんこん古今東西ツアー2018』のファイナル公演が、11月2日・3日に東京・渋谷CLUB QUATTROにて2デイズで行われた。ゲストは2日にcinema staff、3日にteto。取り憑かれメンバーとして(サポートメンバー等のことをキツネツキはこう呼ぶ)2日・3日ともドラマーの渡部宏生(heaven in her arms/SZKN)が加わり、さらに3日にはBIGMAMAの東出真緒も参加した。以下、最終日である11月3日の模様をレポートする。


(関連:菅原卓郎&滝 善充が語る、キツネツキを通して気づいたこと「9mm自体の面白さを見つけた」


 まずゲストのteto。1曲目「高層ビルと人工衛星」からいきなりトップギア、アイドリングも助走も必要なしなステージング。2曲目「36.4」では小池貞利(Vo/Gt)が、間奏に入るやギターを弾きながら背中からフロアへ飛ぶわ、戻って来たと思ったら柵前のスチールカメラマンの一眼レフを奪い取って客に向けて構えながら歌うわ。最初のMCでは「キツネツキ!」と絶叫、オーディエンスが「イェイ!」と応えると、なぜか「ニューヨークへ行きたいかー!」と福留(功男)アナ的な問いかけを放つ。これにも「イェイ!」と返したみんなに「キツネツキはわかるけど『ニューヨークへ行きたいかー!』に『イェイ!』ってなんすか!?」と自分のことは棚に上げてつっこみ、笑いが広がった。


 「汚い稼ぎ方をする大人の商人(あきんど)が大嫌いです」という言葉から入った「市の商人たち」では小池が、マイクスタンドを床に叩きつける。続く「洗脳教育」「暖かい都会から」の二連発で、ステージの上も下もピークに。ラストは「自分のダメな部分はいつまでも変わんない、そういう懺悔の歌ばっかり歌ってます」というMCをはさんで「溶けた銃口」、そして「忘れた」のシリアスで内省的で真摯な2曲で締めくくった。


 そしてキツネツキ。本番前、ステージの転換時の楽器セッティングを自分たちでやっているのが新鮮だった。というか、そういうところも、キツネツキの活動スタンスを表す表現になっている、ということを知る。セッティングを終えていったん引っ込むところで、フロアから拍手が起こったのは、オーディエンスもそのように感じていたからではないか。


 最初は卓郎と滝のふたりだけでオンステージ、ギターとドラムと口笛で「キツネツキのテーマ」を奏でてから「odoro odoro」、そして「ふたりはサイコ」へ。音頭→音頭→超速2ビートの三連打でオーディエンスをつかむ。「ふたりはサイコ」のアウトロでは、滝がスティックを落として演奏が中断。曲終わりに渡部が現れて滝からドラムを引き継いだところで、卓郎が「ロッキーが出て来たのは滝が間違ったせいじゃねえんだから。最初から任すつもりだったんだよ」とすかさずネタにし、ひと笑い起こす。


 「新人のフリして出た大阪のイベント『RUSHBALL R』で一緒になった、パンチのあるライブで親近感のある髪型だった」とtetoを招いた理由を説明し、「今日はみんなでニューヨークまで行こう!」と叫んでまたひと笑い起こしてからの中盤は、「てんぐです」「小ぎつね」「証城寺の狸囃子」「ケダモノダモノ」、MCをはさんで「ちいさい秋みつけた」「かぞえうた」「It and moment」と、キツネツキのコンセプトのひとつである“童謡をハードコアにカバー”した曲とオリジナルを混ぜていく構成。オリジナル曲だが、童謡感と70年代ハードロック感と9mm的なハードコア感の3つが不思議に融合している「かぞえうた」には、生で聴くと改めて新しさを感じた。


 「ちいさい秋みつけた」から東出が加わってソロを弾きまくり、その2曲あとのインスト曲「It and moment」では滝がギターからバイオリンにスイッチ、そこからラストまでギター・ドラム・ツインバイオリンという編成になる。なお卓郎、東出を「この人、昨日は22曲弾いてますからね」と紹介。本人、「明日は名古屋の学祭です」と付け足す。


 後半はそのツインバイオリン編成で、「GOHONG-ZONE」を経て「ハイカラちゃん」「まなつのなみだ」「QB」と、『キツネのマド』のラスト3曲そのままの流れでエンディングを迎える。1分7秒のハードコアインストチューン「QB」では、オーディエンスがポップコーンのように跳びまくった。


 アンコールでは、滝はそのままバイオリン、ギターでtetoの山崎陸が加わって、「キツネツキのテーマ2」「ケダモノダモノ」「C.C.Odoshi」の3曲をプレイ。卓郎は「俺と滝の真剣な悪ふざけを理解してくれたみなさん」に感謝を述べ、「来年は9mmが15周年なんでこっち(キツネツキ)はあんまりやれないかもしれないけど、もしやったら、こういうのが好きな人は、来てくださいね」と述べる。やんわりした言い方に不釣り合いなほど、大きな拍手と歓声がクアトロを包んだ。


 そもそもアルカラの『ネコフェス2017 前夜祭』に出るために組んだだけのユニットであって、メジャーから音源を出すとかツアーまでやるとかは考えていなかった。と、卓郎も滝も言うのがこのキツネツキだが、でも音楽そのものを鑑みると、必ずしも「9mmのファンの中でもコアな人が集まって愛好する」というものではないんじゃないか? むしろ「9mm知らない」という人にもリーチするものじゃないか? という音源を最初に聴いた時に感じたことを、この日のステージに東出が加わっていたことで、改めて思い出した。


 フェスで初めてBIGMAMAに触れる人、BIGMAMAの曲を知らない人をつかむにはどうしたらいいかを考えた結果、「ロック×クラシック」をテーマにした『Roclassick』シリーズを始めた時のBIGMAMAと、「誰もが知っている童謡をハードコアにやる」という今のキツネツキのスタンスには近いものを感じる(卓郎にも滝にもそんなつもりは一切ないだろうが)。あと、曲が“インスト”と“歌もの”の両極に分かれることになっているのがキツネツキだが、そのオリジナルの“歌もの”も、童謡チックな歌詞を書くことによって、メロディもある種童謡っぽい、素朴でラインがくっきりしていて譜割りが大きい、一発で耳に残るようなものになっている。「かぞえうた」や「ハイカラちゃん」などを聴いていると、そのように、彼らのソングライティングにおいて、新しい引き出しが開きまくっているのを感じるのだ。


 「9mmにフラストレーションがあったからキツネツキを始めた」みたいなところはまったく感じないので、これを止めて9mmに戻ることに関して、ふたりとも何の抵抗もないだろう。結局2019年はキツネツキ一切やりませんでした、ということになる可能性も高い。が、キツネツキがあったから始まった、このソングライティングの新しい可能性を、このまま放置するのはもったいない。ちょっと9mmに持って帰ろうかな、くらいのことは考えてもいいと思う。


■兵庫慎司
1968年生まれ。音楽などのライター。「リアルサウンド」「SPICE」「DI:GA online」「ROCKIN’ON JAPAN」「週刊SPA!」「CREA」「KAMINOGE」などに寄稿中。


■セットリスト
『こんこん古今東西ツアー2018』
11月3日(土)東京・渋谷CLUB QUATTRO
<teto>
01. 高層ビルと人工衛星
02. 36.4
03. Pain Pain Pain
04. 市の商人たち
05. 洗脳教育
06. 暖かい都会から
07. 溶けた銃口
08. 忘れた


<キツネツキ>
01. キツネツキのテーマ
02. odoro odoro
03. ふたりはサイコ
04. てんぐです
05. 小ぎつね
06. 証城寺の狸囃子
07. ケダモノダモノ
08. ちいさい秋みつけた
09. かぞえうた
10. It and moment
11. GOHONG-ZONE
12. ハイカラちゃん
13. まなつのなみだ
14. QB
-ENCORE-
15. キツネツキのテーマ2
16. ケダモノダモノ
17. C.C.Odoshi