トロロッソ・ホンダSTR13は待望の空力アップデートによってF1第19戦メキシコGPでは決勝10位という結果以上の快走を見せた。ピエール・ガスリーが最後尾グリッドからスタートしていなければ、ブレンドン・ハートレーが予選と決勝1周目でミスを犯していなければ、もっと上位でフィニッシュできる実力がマシンにあったのは明らかだった。
だからこそ、これにスペック3パワーユニットが載る第20戦ブラジルGPではもっと大きな期待を抱いていた。しかしインテルラゴスでのSTR13はその期待を大きく下回るものでしかなかった。
予選では雨の中でガスリーがQ3に進んだもののチームは10番手よりも上に行ける可能性は少ないと見ており、実際にその通りになった。つまりザウバー、ハースに敵わないことは分かっていた。そして決勝ロングランではその差が縮まることを期待していたものの、むしろその差は広がってしまい、入賞圏から50秒も遅れてのフィニッシュとなった。
金曜午前の走り始めはマシンバランスが定まらず、イニシャルセッティングは外れていた。ガスリーは金曜日のマシン状況をこう説明した。
「最初はセットアップ面でマシンに色々と問題点が多くて苦しんだしマシンバランスも満足できる状態ではなかったけど、FP2に向けて方向性を修正したことで最終的には満足できるレベルまで持っていくことができた。だけどもう少し一貫性が欲しいんだ」
「コーナーごとに少しマシンバランスが違ったりする。デフのマッピングやエンジンブレーキングの使い方など、コーナーごとにもっと突き詰めていく必要がある。そういう細かな調整によってマシンパッケージからさらにもっとパフォーマンスを引き出すことが必要なんだ。トップ10に加わるためにはまだもう一歩前に進む必要がある」
インテルラゴスは自然の地形を利用したサーキットで、1周の中での高低差が43m。さらにコーナーごとにアンジュレーション(地面の起伏)が複雑で路面がうねっている。それに対応しきれなかったことがマシンバランスを突き詰められなかった理由ではないかとハートレーは推測する。
「かなりフロントロッキングに苦しめられて、ブレーキングからコーナーのエントリー、さらにそこからミッドコーナーへのマシンバランス変化に問題を抱えていた。ここはコーナーによっていろんなキャンバー角が違ったり所々バンピーなところがあったりとトリッキーなサーキットだからそれに苦しんだのは僕だけではなかったと思う」
「でもFP2に向けてかなり大幅にセッティングを変えてデフやエンジンブレーキングのマッピングをかなり調整したけどまだ完璧なところまで仕上がってはいないんだ」
■F1第20戦ブラジルGPでトロロッソ・ホンダが直面した問題
最大の問題はSTR13が得意としているはずのロングランが遅いということだった。タイヤの保ちが良くないことだけでなく、燃料を積むことによるタイムの落ちが他チームに較べて大きかった。
金曜から土曜に掛けて、予選パフォーマンスを多少犠牲にしてでもロングランを向上させるべくセッティングに変更を加えたものの、状況は改善できなかった。トロロッソのチーフレースエンジニア、ジョナサン・エドルスはこう説明する。
「結局のところ、今日の我々にはトップ10に留まるだけの速さがなかったということに尽きるだろうね。戦略的は上手く機能したものの、単純に我々より速いマシンに抜かれてしまった。金曜の時点で我々はショートランペースに較べてロングランペースに苦しんでいて、土曜日にかけてロングランペースを向上させるべくマシンのセットアップを変えてはみたものの、トップ10に留れるほどのロングランの速さはなかった」
「ショートランとロングランのデルタ(タイム差)が他のチームに較べて大きかったんだ。なぜ遅かったのか、現時点では我々にも分からないし答えることができない」
トロロッソは日曜のレース中盤以降に雨が降るという予想に賭けて、燃料搭載量を削った。その背景には、ショートランに較べてロングランのパフォーマンスが乏しいという事情があった。燃料搭載量を減らせばその分だけロングランのペースを上げることができ、タイヤへの負荷も減らすことができるからだ。
しかし雨は降らず、ザウバーやハースについていけなかったことでスリップストリームもDRSも使えず、後方からカルロス・サインツJr.(ルノー)らにプッシュされたこともあって燃費は想定よりもどんどん厳しくなっていった。
レースペースも良くはならず、タイヤへの負荷も減らなかった。結果、9番グリッドからスタートしたガスリーはケビン・マグヌッセン(ハース)とセルジオ・ペレス(フォース・インディア)に抜かれても付いていけず、最後は16番グリッドからミディアムタイヤで49周目まで引っ張ってスーパーソフトタイヤに履き替えたハートレーとサインツにも抜かれて13位。ハートレーもペレスから50秒遅れの11位に終わった。
最後は順位の入れ換えを指示するチームオーダーにガスリーが反発しちょっとした問題になったが、チームとしてはそれでポイントを失ったわけではない。ポイントが獲れなかった最大の理由は、マシンのパフォーマンスが足りなかったということだ。
セクター1と3のほぼ全てがストレートで構成されるインテルラゴスだけに、パワー不足のその原因のひとつであったことは確かだ。土曜以降はスペック3に積み換えたとはいえ、まだフェラーリユーザーに比べ遅れを取っていることは事実だからだ。
しかしインテルラゴスは決してパワーセンシティビティが高いわけではない。ストレート区間が長いように見えるが、タイムで言えばセクター1と3を足しても約33秒。逆にセクター2は34秒。中低速コーナーの多いセクター2で過ごす時間の方が長く、ラップタイム的にはストレートを速く走るよりもコーナーを速く走る方が速くなるのだ。
■「パワーではライバルに比べて不利」と語るピエール・ガスリー
予選ではフォース・インディアを上回ったが、タイヤマネージメントでは負けた。その理由もパワーユニットの不利にあるのではないかとガスリーは言う。
「GPSのデータを見ても、ザウバーはストレートが速いんだ。コーナーではだいたいどこでも僕らの方が速いのに、ストレートでは僕らよりも格段に速い。依然としてパワーの差があって、実際に僕らもダウンフォースを削ってはみたけどコーナーでマシンがスライドしてデグラデーションが大きくなってしまった」
「エンジンパワーでアドバンテージがあれば、ストレートでタイムを稼いでコーナーを少し抑えて走ることができるし、そうすればタイヤに入るエネルギーを小さくすることができてタイヤの発熱を抑えることができる。彼らはストレートがすごく速くてコーナーは遅くて、ラップタイムは同じでもタイヤに掛かる負荷は小さい。長いスティントになればその差はとても大きくなる」
しかしルノー製パワーユニットを使いながらも圧倒的なタイヤマネージメントとレースペースを誇るレッドブルの快走を見れば、パワー差だけが全てではないと言わざるを得ないだろう。これまでにレースペースの良さで何度も挽回してきたトロロッソ・ホンダのレースは何だったのかという話にもなる。
ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターは失望のブラジルGPをこう総括した。
「ガスリーは予選でQ3まで入ることができましたけど、レースではそこを守り切れずに前にも結構離されてしまいましたし、ロングランペースが良くなかったことが今日のレースの全てではないかと思います。とにかくレースペースが悪すぎました」
「タイヤにブリスターが結構出ていたのでそれはなぜかという話もありますし、今日温度が高くなると予想されてはいたもののバイブレーションが出るほどブリスターが出てしまいましたし、それをどうマネージすれば良かったのか。チームとして車体のエアロのセッティング、燃料搭載量、タイヤマネージメントを、何がどうしてどう良くなかったからこうなってしまったのか、ということをきっちりと分析していかなければなりません」
重要なのは犯人捜しではなく、なぜ遅かったのかという事実を究明し、それを改善することだ。ダウンフォース不足やパワー不足が原因なら、すぐに直すことは難しいのだから2019年に向けた糧とする。セットアップに原因があったのなら、二度とその過ちを犯さないように教訓とする。それが今のトロロッソ・ホンダに求められていることだ。
ザウバーと9ポイント差のコンストラクターズランキング8位争いもまだ諦めてはいない。
「最後はきっちりしたかたちで1年を締めくくりたいと思っています。アブダビGPで中団上位でフィニッシュできればまだ可能性はありますから、最後まで諦めずに戦います」
泣いても笑っても2018年のトロロッソ・ホンダの戦いは残すところ1戦のみ。ブラジルの敗因を徹底的に究明し、アブダビで持てる力の全てを引き出して結果へと繋げなければならない。