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『中学聖日記』は社会に根ざした作りに 『Nのために』と共通するテレビドラマならではの演出

2018年11月20日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 火曜夜22時から放送されているドラマ『中学聖日記』(TBS系)は中学校教師の末永聖(有村架純)が、教え子の男子中学生・黒岩晶(岡田健史)と禁断の恋に落ちる恋愛ドラマだ。


 聖は晶のことを教師という立場から拒絶するが、二人の距離はどんどん近づいていく。夏休みの夜、花火大会の帰り。二人は浜辺で偶然出会い、キスをする。これで最後だと思っていた二人だが、帰り道に手をつないでいるところを、聖の恋人の川合勝太郎(町田啓太)と晶の母親・愛子(夏川結衣)に見られてしまう。聖は学校を退職。勝太郎との婚約も解消し、晶のもとから姿を消す。


【写真】黒岩晶(岡田健史)、中学生から高校生へ


 物語は第1話~5話までの晶の中学生時代と、6話以降の高校生編の二部構成となっている。原作はかわかみじゅんこの同名漫画(祥伝社)。漫画は現在4巻まで発売されていて、本作もまた、中学生編と高校生編の二部構成となっているが、ドラマ版とはだいぶ印象が違う。


 漫画版の導入部は、教壇で聖の黙祷する顔を見ている晶のモノローグからはじまり、年上の先生に憧れる晶の視点から物語はスタートする。


 物語が進んでいくと聖の視点、晶に恋心を抱く同級生の岩崎るな(小野莉奈)の視点も描かれるのだが、基本的に序盤は晶の主観で物語が描かれていく。人物造形も微妙に違い、晶は頭が良くて理知的だけど人の心が理解できない天然の男の子。逆に聖は教師だけど優柔不断でふわっとしたところがある女の子で、二人ともどこかふわふわしていてとらえどころがなく、だからこそ周囲はその魅力に翻弄される。


 そのため物語は「聖←晶←るな」という感じで、ブラックホールに吸い込まれるように恋愛関係の矢印が進んでいくのだが、その構造がとてもおもしろい。


 ドラマ版では前半のクライマックスとして盛り上がっていた聖との別れも、漫画版ではあっさりしていて、夏休みが終わったら、聖が学校を辞めていたことが晶のモノローグで語られる。このあっさりとした見せ方が、とらえどころのない聖や晶の魅力とリンクしていて面白いのだが、ドラマ版は、あっさりした部分をこってりと見せることで、印象のまったく違う作品となっている。


 中でも大きく印象が違うのは聖だ。おそらく、主演が有村に決まったことと、TBS系火曜10枠のカラーに合わせた結果だろうが、漫画では掴みどころのない性格だった聖の輪郭がかなりくっきりしており、同時にとても生々しくなっている。それは晶にしても同様で、思春期の鬱屈が全身から滲み出ており、本作で俳優デビューとなる岡田の初々しい芝居とリンクしている。


 他のキャラクターも全体的にこってりしていて、裏サイトの書き込みや生徒たちの聖に対する風当たりの強さ。親からの反発などは、良くも悪くも暑苦しくてジメジメしている。チーフ演出・塚原あゆ子、プロデューサー・新井順子、制作・ドリマックスという座組は、湊かなえ原作小説の映像化に長けたチームとして知られている。中でも『Nのために』(TBS系)は犯罪ミステリーでありながら、瑞々しい青春群像劇としても高く評価されたのだが、『中学聖日記』の印象は『Nのために』の序盤で描かれた青春ドラマのテイストに近い。あの作品も骨格のしっかりした湊かなえの原作小説に、ウェットな肉付けを施すことで、テレビドラマならではの作品に仕上がっていたが、そういう資質がこのチームにはあるのだろう。


 それにしても、本作を見ていると時代の変化を感じる。教師と生徒の恋愛を描いたドラマは昔からあり、男性教師と女子生徒の場合は、『おくさまは18歳』(TBS系)のように、表向きはタブーでも、どこかで羨ましがるような空気があった。これが女性教師と男子生徒だと『魔女の条件』(TBS系)のように、女教師を魔女と呼ぶような風当たりの強さがあり、これは『中学聖日記』にも引き継がれているが、近年は男女問わず、大人が未成年と、恋愛や性行為をすることに対する反発は強くなっている。これは1999年に児童買春・児童ポルノ処罰法が施行され、援助交際(少女買春)の取締まりが強化されて以降の変化だろう。


 『中学聖日記』も、教師と中学生との恋愛なんて気持ち悪いという批判が多いのだが、本作の場合はむしろ、漫画ではあまり描かれない同僚の教師や親の視点が強調されていて、そういった世間の批判と同調した作りに見える。


 『魔女の条件』が90年代に受け入れられたのは、そこに“滅びの美学”があったからだ。つまり、社会に居場所のない大人と子どもの逃避先として恋愛関係になるのも仕方がないと、視聴者に受け入れられたのだが、『中学聖日記』はもっと社会に根ざしたものとして描こうとしているように見える。そのため、メロドラマとしては煮え切らないものを感じるのだが、そもそも描きたいことが違うのだろう。


 ドラマ版は漫画とはまったく違う結末になるらしく6話以降はほとんど別モノという感じだが、果たしてどこに着地するのか? 最後まで見守りたい。


(成馬零一)