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視聴者がドラマの展開を決められる? Netflixが挑戦する、インタラクティブ方式の映像制作

2018年11月17日 10:21  リアルサウンド

リアルサウンド

 Netflixが、人気シリーズ『Black Mirror』のシリーズ5で、視聴者が自分の好きなようにストーリーを選択できる、”インタラクティブ方式”を導入することを決定したと米ブルームバーグ紙が報じた。


(関連:渡邉大輔が論じる、ワールドビルディング時代の映像コンテンツとこれからの文化批評


 『Black Mirror』は、米国で最も栄えあるテレビドラマの賞である”エミー賞”を始め多くの賞を受けた、オムニバス形式のテレビドラマシリーズ。テクノロジーが発達した近未来を舞台に、急速に進化する技術が新たな弊害を生み出すという風刺的な内容のSF作品で、「自らの記憶を全て録画し、SNSで友達とシェアしたりTVに映したりすることができる」「死者の生前の情報をクラウドにアップデートし、死者を模したAIと会話ができる」など、現存の技術の延長線上に想像できうる題材が取り扱われている。ちなみに、タイトルの“Black Mirror”は、テレビのモニターやパソコン、スマホなどのディスプレイの冷たい光沢を意味している。


 Netflixは、かねてからインタラクティブ映像作品の開発を進めており、その第一弾として、 2017年に子供向けアニメ『長靴をはいたネコ:おとぎ話から脱出せよ!』『バディ・サンダーストラック:やるかも候補!』をリリースした。


 『長靴をはいたネコ』では、「主人公のネコが戦う相手を“神”か“木”か選ぶ」など、選択肢を選ぶ場面が13か所あり、最終的には2種類のエンディングに帰結するようになっている。さらに、作品の視聴時間は、選択肢によって18~39分の間で変化する。


 視聴者に話の展開を決定させるインタラクティブ形式は、ゲームや本ではすでに馴染み深いものとなっているが、実写映像作品では主に2つの理由からなかなか実現が難しかった。


 1つ目は予算の問題だ。各々のストーリー展開が、同じロケーション・セットでセリフを変えるような“微差”ならまだしも、『長靴をはいたネコ』『バディ・サンダーストラック』の例を見る限り、ドラスティックな違いがあるはずだ。その場合、展開に応じてロケーションやセットを新たに増やす必要がある。ロケーションが1つ増えるだけでスケジュールは2~3日延び、その期間の役者・スタッフの拘束によりバジェットはどんどん膨らんでいく。『長靴をはいたネコ』のように、ストーリーを変えるチャンスを10回以上与えるような展開になったら、それはなおさらだ。


 2つ目は内容面である。『長靴をはいたネコ』『バディ・サンダーストラック』と異なり、大人向けの映像作品、しかも人気シリーズの最新作であるため、ストーリーには幾つもの伏線があり、それを回収する必要がある。途中までは1つのストーリーで、分岐を何回か経た後に、最終的に数個のエンディングに収斂させるインタラクティブ方式において、これは至難の業である。各々の展開において異なる伏線を、エンディングで全て回収し、どんな展開においてもストーリーに整合性を持たせる必要があるからだ。これには、通常よりもかなり綿密な脚本作りが必要なばかりではなく、俳優の演技のトーンやカラーコレクションなど、多くの要素を調整する必要がある。そのためには、数十人の脚本家のアサインや、俳優に対しての入念なワークショップが必要となるだろう。さらに、Netflixでの配信の場合、早送りや巻き戻しができないなど、通常の映像作品と比べて、技術的な制約もかかる。


 ただ、そもそも実写のフィクションでインタラクティブ形式を採用することには、より根源的な問題があると筆者は考える。アイドル発掘番組『American Idol』や音楽オーディション番組『The Voice』のように、リアリティー番組においてインタラクティブ形式はすでにかなりの支持を集めている。視聴者の選択がそのまま番組の展開に関わってくる、というリアルタイムなインタラクティブ性が強い魅力であるからだ。


 しかし、実写のフィクションの場合だと”インタラクティブ”と銘打っていても、それぞれの展開は、すでに製作側が作ったものであり、いわば”出来レース”である。


 例えば、人気ドラマシリーズ『ブレイキング・バッド』はDVDにもう一つのエンディングを収録しているし、『ゲーム・オブ・スローンズ』も数種類のエンディングを撮影しており、採用されなかったエンディングについても何らかの形で公開されるはずだ。『Black Mirror』も、「何種類かの結末を用意する」だけならば、これらの作品の焼き直しになってしまう可能性が高い。しかし、途中の展開も含めてストーリー展開を数百・数千通り作るような、今までに類のない映像作品を作ろうとすると、恐ろしいほどの予算がかかる。この二律背反をクリアすることがNetflixのミッションであるといえよう。


 ただし、もしかしたらNetflixの関心は違う部分にあるのかもしれない。『ハウス・オブ・カード』をデータドリブンで制作したように、Netflixはデータをクリエイティブに活かす映像制作に仕掛かっていることはよく知られている。今回の試みは新たな映像制作の形式を生み出すという側面に加えて、精緻なデータを集めるための試みなのかもしれない。例えば、「『Black Mirror』でこの展開を選んだ(=そうした展開が好みの)視聴者は、こんなデモグラフィック構成であり、こんな作品を見ている」というデータに基づき、以降の映像制作において、ターゲット設定をより精緻にできる、といったメリットが考えられる。視聴者の好みについて、今までより圧倒的にアクチュアルなデータが取れることを考えると、莫大な予算もNetflixにとっては安いものなのかもしれない。いずれにせよ、映像業界で他に類を見ないこの試みは注目である。


参考
https://wired.jp/2017/07/12/netflix-branching-narratives/


Netflix debuts choose-your-own-adventure stories for kids



(近藤多聞)