厚労省の労働政策審議会は9月下旬から、パワハラの防止策設置を企業に義務付けるかどうか検討している。昨年5月から今年3月まで計10回行われた「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」での議論を、審議会が引き継いだ形だ。
検討会の報告書ではパワハラを、「優越的な関係に基づいて」「業務の適正な範囲を超えて」「身体的又は精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること」と定めた。企業が取るべき具体的な防止策には、当事者のプライバシー保護や相談窓口の設置などが例示されていた。
11月16日の一部報道では、対応策の設置を法律で義務付けるため、来年春の国会で関連法案の提出を目指していると言われている。しかし、厚労省の担当者はキャリコネニュースの取材に「法制化は現在議論中で、決定事項ではない」と否定する。
「中小企業は従業員が少なく配置転換の対応できない。措置義務は難しい」
審議会で、法律による対応義務化の意見が出ているのは事実だが、労働者側と使用者側の意見はすれ違っている。10月の審議会では、法整備を求める声の一方で、
「中小企業は従業員が少なく配置転換の対応ができない等の難しさがあるため、措置義務は難しい」
「パワハラかどうか判断が難しい中で、措置義務について法制化すべきではない。新たにガイドラインを策定し、労使双方に周知すべき。定義・考え方について裁判例・好事例も含めて幅広く周知すべき」
などの反対意見が出ていた。3月まで開かれていた検討会でも法制化の案は出たが、経営者側から「業務上の指導との線引きが難しい」という声が根強く、義務化は見送られている。厚労省の担当者は、「パワハラに関する規制や法律は存在しないため、もし法制化した場合にはどういう法律が対象になるか、というところから検討しているところ」だという。
セクハラ、マタハラに関しては昨年1月、雇用機会均等法や育児休業法が改正され、企業に防止策設置が義務付けられた。防止措置を取らない場合、厚労省は企業に指導・勧告し、勧告に従わない場合は企業名を公表できる。パワハラ防止策の設置が義務化された場合には、「これら二法も参考にしながら決めていきたい」と明かしていた。
「業務の適正な範囲」や「職場」の解釈についても意見分かれる
審議会ではこのほか、パワハラの定義そのものに対して、
「『パワー』や『優越的』等の言葉が定義に入ると、上司から部下への行為のみが対象と誤解されるおそれがある」
「『業務の適正な範囲』をどう解釈して具体的な例を示していけるか。より踏み込んだ形で定義すべき」
という意見も出ている。また、
「業務上の必要な指導とパワハラの線引きは難しいことから、判例等を踏まえ、明確な範囲に限定すべき」
「業務上の指導であれば、労働者の意に反してもパワハラではないということを明確にすべき」
「職場の範囲に使用者の提供する寄宿舎も含むべき」
などの指摘も多い。セクハラも含めた職場でのハラスメント全般を法律上禁止し、民事・刑事上の罰則を設けることも合わせて検討されているが、これも、どの法律で罰則や禁止行為を定めるか、違反行為の立証方法などが検討課題とされている。