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新風を吹き込んだ実力派ローゼンクヴィスト。GTへの想いと日本ラストランでチームに驚きのプレゼント

2018年11月16日 13:51  AUTOSPORT web

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スーパーGT最終戦のチェッカー後、大嶋和也と記念撮影するローゼンクヴィスト。その実力は関係者の誰もが認めていた
スーパーGT最終戦もてぎは、ここ2年にわたって日本のトップシーンを沸かせてくれたフェリックス・ローゼンクヴィストの(当面の)日本ラストランでもあった。速いだけでなく、そのナイスガイぶりでも日本レース界に新風を吹き込んでくれた“実力派渡り鳥”は、チームとファンのサポートに感謝しながら、2019年からの新天地となるインディカー・シリーズへと旅立つ。

 昨年はスーパーフォーミュラで、今年はスーパーGT(GT500クラス)でチームルマンに所属し、いずれのシーズンも新人とは思えぬ速さと順応力で、ローゼンクヴィストは玄人筋を唸らせ続けた。

 2017年のスーパーフォーミュラにはピエール・ガスリー、今年のGT500にはジェンソン・バトンという“派手め”なフル参戦ルーキーが同期にいたこともあり、彼らほど目立つことはなかったが、マカオF3で2勝、フォーミュラEなどでも活躍する若き実力者ぶりを日本でもいかんなく発揮。チャンスに恵まれさえすれば、F1でも通用するであろう能力の高さで、ローゼンクヴィストは日本のファンを魅了した。

 9月末、彼が来季2019年はインディカー・シリーズにチップガナッシというトップチームから参戦することが発表されたとき、彼を知る多くの人は彼の栄達を大いに喜ぶと同時に、日本のシリーズへのレギュラー参戦が実質的に不可能となる現実に落胆したことだろう。

 迎えた2018年スーパーGT最終戦もてぎ、金曜にサーキット入りしたローゼンクヴィストに、彼がスーパーGTというシリーズを今、どんなふうに見ているのか、訊いてみた。

「GT500での3つのマニュファクチャラーの戦いを含め、とてもヘルシーな(健全な)チャンピオンシップだと実感している。DTMと基本的には同じ素性のマシンだけど、GT500はより速いわけで、その点も見事だ。多くの人がこのレースに携わっていて、観客も多く、なにより彼らがすごくエンジョイしていることが素晴らしいよね。GT300クラスというコンセプトもナイスだと思う」

 トップチームからのインディ参戦実現はもちろん嬉しいし、誇らしいだろう。だが、「ここを去るのは寂しくもあるんだ」とローゼンクヴィスト。そう語る彼の背後にはツインリンクもてぎのスーパースピードウェイがあるが、今はインディジャパンの開催もなく、近い将来に彼のレースを再び日本で見られる可能性は現状、高くない。今回のスーパーGT最終戦が、日本での当面のラストランになる。

「今回はポディウムで、できたら優勝して、僕のチームのみんなやこの2年間サポートしてくれたレクサス(トヨタ)にグッドバイができたらいいな、と思っている」

 2日後の日曜日、ローゼンクヴィストと大嶋和也のコンビが駆るWAKO'S 4CR LC500は、最終戦の決勝を6位で終えた。残念ながらポディウムでのサヨナラは叶わなかったが、ローゼンクヴィストはオープニングラップで2つポジションを上げ、その後もトップと遜色ないペースで走るなど、最後のレースでも見事な走りを披露した。

ただ、ピットで5秒ほどの作業ロスタイムが生じたということで、大嶋が団子のなかに出ることとなってしまってWAKO'S 4CR LC500は6位に終わったが、大嶋も本来のペースは良く、予選10番手からの表彰台獲得も充分にあり得る内容だった。

■日本のレースを愛したローゼンクヴィスト

 最終戦のチェッカー後、パルクフェルメがタイトル争い決着の歓喜に包まれていた頃、LEXUS TEAM LEMANS WAKO'Sのピット内には、後半スティントを走り終えたばかりの大嶋も含めたチームスタッフたちの集合の輪が生まれた。その中心には、ローゼンクヴィストがいる。

「僕たちにとってはハードなシーズンだったと思う。でも、みんなのハードワークに感謝している」。輪のなかで、彼はこういった想いを仲間たちに伝えているようだった。

 脇阪寿一監督からは「フェリックス、ありがとうございました!!」という感謝の言葉が。スタッフたちからも「インディに応援にいこうか!」などの声が飛ぶ、別離のとき。ローゼンクヴィストは速さだけでなく、その謙虚で真摯で明るい振る舞いでも、チームから愛された。そして彼は、用意してきた自分のヘルメットをチームへの置き土産として渡す。

 やがてチームの輪から離れ、シリーズのグランドフィナーレに向かうローゼンクヴィスト。歩きながら、「今日はいいスタートが切れたし、10番手スタートからの6位フィニッシュだから、わるくないレースだったと思うよ」と語り、さらに「ただ、シーズンとしてみたら、我々のチームは(山田健二エンジニアの急逝など)いろいろと厳しいことにも遭遇した。望んだリザルトを得られたシーズンとは言い難い。こういう辛い時期を過ごしたあと、みんなに良いことがあるよう祈っている」と、ヘルメットに込めたであろう想いを話してくれた。

 おそらく彼はインディカーでも活躍し、それこそチップガナッシで今年5度目の王座を得たスコット・ディクソンの後継者として北米の帝王になっていく可能性だって充分にあるだろう。もちろん彼も新天地での成功に向けて邁進するわけだが、「でも、100パーセントのグッドバイを日本のファンに言うつもりはないよ。応援してくれたファンのみんなには本当に感謝している」。

 ガナッシ入りが決まった直後にも、日本のファンが祝福すると同時に寂しく思うだろう、と言うと、「僕はまだ若いし、またいつか日本でレースをすることがあるかもしれないじゃないか」と、彼は笑顔で話していた。彼もまた、日本のレースを愛してくれていたようだ。

 繰り返しにはなるが、もちろん彼がこれから目指すのはインディカーでの成功であり、日本に戻りたいわけではない。そこは誤解なく願いたい。そして来季の目標について金曜日に聞いたとき、彼はこう語っていた。

「なにしろタフなチャンピオンシップだし、自分にとってのニューコースもいっぱいある。学ぶ必要があるよ。シーズン順位(の目標)については自分でも分からないというか、言うのが難しいけど、レースでの優勝を最初の年の目標にしたいと考えている。2週間ほど前にアラバマのバーバーでテストをしたんだ。感触は良かったし、ドライブを楽しめたよ」

 新天地に羽ばたくフェリックス・ローゼンクヴィスト。その活躍を、日本で彼と関わりをもったレース人やファンの多くが期待している。