トップへ

スーパーGT:タイヤ無交換で握ったGT300初戴冠への主導権。“順位を守らず、タイヤを守れ”

2018年11月16日 12:11  AUTOSPORT web

AUTOSPORT web

LEON CVSTOS AMGはレース序盤、タイヤを労ることで逆転チャンピオンを手繰り寄せた
スーパーGT最終戦もてぎ、タイトルの可能性を残して挑んだのは6組。ポイントリーダーの高木真一/ショーン・ウォーキンショー(55号車・ARTA BMW M6 GT3)は、ランキング2位の黒澤治樹/蒲生尚弥(65号車・LEON CVSTOS AMG)に12点のマージンを築いていた。

 55号車は昨季のもてぎで予選2番手、決勝でもトップを争って2位になっており、今回のもてぎ戦ではポールポジションの1点を65号車以外が取れば4位以上で自力チャンピオンが決まる。12点差以上とはそれほどに大きな差であり、絶対的有利な状況にあった。

 実際、55号車は「4位以上」を最終戦での目標に掲げていた。決して守りの戦略というわけではなく、セオリーと言えるタイトルを獲るための戦い方だ。

 GT300の予選ではQ1で29台中15台が脱落するため、エースドライバーをQ1に送り込むチームも多い。55号車もQ1を確実に突破するために高木が担当、2番手タイムでQ2に進出する。しかし、ウォーキンショーがQ2で10番手。悪いタイムではなかったが、まわりが速すぎた。

 65号車は黒澤がQ1を11番手で通過。「尚弥は速いドライバーだから、Q2を任せたほうが良いグリッドにいけると思った」と、予選の担当割りを黒澤が明かす。

 ポールポジションは88号車マネパ ランボルギーニ GT3の平峰一貴に奪われたが、蒲生はタイトルを争うなかでの最上位グリッドとなる2番手を得て、期待に応えた。

 もてぎは抜きにくいサーキット、予選順位は決勝結果に大きく影響する。決勝では黒澤がスタートを担当。オープニングラップで5番手まで後退するが、この姿こそがレースを、さらにはタイトル争いの主導権を握ることになる。ライバルに「65号車のタイヤは硬い。無交換でくる」と思わせたのだ。

 硬いタイヤはウォームアップに時間がかかる。黒澤はオープニングラップで抜かれるのを我慢しなければならなかったが、その後はタイヤを労りつつ背後に迫る31号車のTOYOTA PRIUS apr GTを抑え続け、19周を走ってピットへ。チームはタイヤ無交換で蒲生をコースへと送り出す。

 それに呼応するように、同じくブリヂストンユーザーの31号車は32周で、55号車は33周でピットに入りタイヤ無交換。ヨコハマユーザーである0号車のグッドスマイル 初音ミク AMGは、「うちは無交換は無理。でも、4本交換したら勝ち目がないから」と、左側2輪のみを交換する。しかしいずれも、コースに戻ると65号車は前方にいた。

 65号車は昨季、2勝を挙げながらシリーズ2位に終わっていた。その理由をチームは、ポイントを獲りこぼした2戦にあると分析。エンジニアも兼ねる溝田唯司監督は、「今年は1点も落としたくないというのがあって、確実にQ1を突破して、Q2でなるべくシングルにつければポイントを獲れるだろうと。今年のQ1、Q2担当は確実なほうを選んだ」という。

■もてぎ前に表彰台なくとも全戦でポイント獲得。シーズンを支配し続けたLEON AMG

 タイトルを争う6組のなかで、もてぎ戦を前に表彰台に登っていなかったのは65号車だけだった。ただし、全戦で入賞を果たしていたのも65号車だけだった。ここまでコンサバに徹していたことになるが、「最終戦は守るものがないから、行くしかない」と溝田監督。それがチーム初のタイヤ無交換作戦だった。

 初めてのタイヤ無交換に、後半スティントを担当した蒲生は「一度もやったことがなかったので不安もあった」と胸中を明かした。しかし、その作戦は冒険ではなかった。溝田監督はブリヂストンに、事前に「無交換でいきたい」という思いを伝えていた。

 ブリヂストンからは「土曜日の公式練習を見て決めましょう」と言われていたが、ウエットパッチが残るコースコンディションでは、それを判断することができなかった。それでも諦めず、決勝前のウォームアップ20分間で再度確認する。「左フロントはちょっと厳しいかもしれない」というのがブリヂストンからの答えだったが、黒澤のセーブドライビングがそれを可能にしたのだ。

 シーズンをとおして2勝し、しかし2戦でノーポイントだった55号車の今季は、65号車の昨季の結果に似ていた。それを経験していた65号車は、ここまで表彰台が一度もなく目立つことはなかったが、最後の“攻め”でチャンピオンに輝いた。65号車はタイヤ無交換作戦でもてぎ戦を支配したが、それ以前からシーズンを支配し続けていたと言える。

 蒲生がトップでチェッカーを受けると、チーム結成6年目の悲願達成に、サインガードにいた黒澤は泣き崩れた。いつも冷静な蒲生は、サーキットで涙を見せることはなかったが、「今晩ひとりになったら泣きますよ、たぶん」と笑顔を見せた。