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back number、『大恋愛』主題歌はドラマのサイドストーリーのよう? 楽曲の歌詞から読み解く

2018年11月16日 08:12  リアルサウンド

リアルサウンド

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 現在放送中の金曜ドラマ『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系)の主題歌として起用されているback numberの「オールドファッション」が11月21日にリリースされる。すでにiTunes Storeやレコチョクなどの各配信サイトでは、先行リリースがなされており初週売上が6.2万ダウンロードと大きな反響を巻き起こしている同曲。ボーカル&ギターの清水依与吏が、実際にドラマのプロットと数話の台本を読んだ上で得たインスピレーションを基に書き下ろしたとあって、ドラマさながらの珠玉のラブソングに仕上がっている。


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 『大恋愛~僕を忘れる君と』は、若年性アルツハイマーを患い徐々に記憶が消えていく女性と、彼女を明るく健気に支える男の10年にわたる愛の奇跡を描いた純愛ドラマ。女医でもあるヒロインの北澤尚に戸田恵梨香が、彼女が運命的に出会う小説家・間宮真司にムロツヨシが扮し、病気と闘いながらも愛を貫こうとする男女を自然体で演じる姿が話題を呼んでいる。脚本は『セカンド・バージン』(NHK総合ドラマ/2010・映画/2011)などを手がけ、“ラブストーリーの名手”との呼び声も高い大石静。設定こそかつて大ヒットした某韓国映画を彷彿させるが、病気との向き合い方や周囲の人々との関係性など、悲恋だけにとどまらない要素が盛り込まれ、ドラマに奥行きを与えている。


 本作のストーリーテラーを担うのは真司だ。そして彼の目線で過去を回想するような、自身の小説の一節を朗読するかのようなナレーションが語られることからも、つまりこれは彼の物語なのだということがわかる。主題歌「オールドファッション」も、歌詞に注目するとそんな真司の思いをなぞるようなフレーズが印象的に響いてくる。たとえば、〈不安とか迷いでできている/僕の胸の細胞を/出来るなら君と取り替えて欲しかった/花は風を待って/月が夜を照らすのと同じように/僕に君なんだ〉というサビの部分。尚の気持ちを信用できずに身を引く決意をした4話のラストシーンがフラッシュバックする。また一方では〈一体どこから話せば/君という素敵な生き物の素敵さが/いま2回出た素敵はわざとだからね/どうでもいいか〉と、まるで尚との会話をそのまま再現したかのような一節も。劇中での真司は不安に苛まれる尚を勇気づけるべく、こんな風におどけるようなシーンも少なくないのだが、“素敵”という言葉にこだわるところなどが特に小説家の真司らしい。ふたりの間にこんな日々もあったのかなと、視聴者が思いを馳せられるような言葉が綴られ、まるで楽曲自体がドラマのサイドストーリーのようでもある。


 また楽曲としては、壮大なストリングスで始まるイントロからアコースティックで静かな歌い出しのAメロ、徐々に盛り上がりを増してサビへと流れていく構成は言ってみれば王道。しかしだからこそ、back numberの得意とする美メロがより輪郭をともなって立ち現れてくる。清水の語りかけるような情感のこもった歌声も、真司の思いとシンクロし、ドラマのエンディングで流れるたびにぐっと胸に迫る。


 「オールドファッション」とは時代遅れ、流行遅れの意味。一方で某ドーナツショップのロングセラー商品の名前であり、実際に楽曲中にも「ドーナツ」のワードが登場する。たとえ古臭く見えても、長く愛される普遍のものとして、名付けたタイトルであるように思う。楽曲の制作にあたり、清水は「このドラマの中で新しい登場人物と出会ったはずなのに、なんだかもう一度自分と出会ったような、不思議な気持ちになりました。大人になった、という自覚を持った今描く日常や記憶の歌だからこそ、淡くてもちゃんと光ってて、少しでもいいから甘くあって欲しいな、と思っています」(引用:back number、ドラマ『大恋愛~僕を忘れる君と』主題歌「オールドファッション」書き下ろし)とコメント。物語に寄り添う中で、清水自身も真司にシンパシーを感じる部分もあったのかもしれないと想像する。実直にラブソングを歌い続けること、それもまた“オールドファッション”であるだろう。しかしだからこそ『大恋愛』という直球のタイトルを戴くドラマの主題歌にはふさわしい。本作はこの時代にあえて“純愛”を描き切ろうとする制作陣たちの覚悟の表れでもあるのではないだろうか。


■渡部あきこ
編集者/フリーライター。映画、アニメ、漫画、ゲーム、音楽などカルチャー全般から旅、日本酒、伝統文化まで幅広く執筆。福島県在住。