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VRがもたらした新時代の恐怖! 『ダムド・タワー』がいざなう異空間を体験してきた

2018年11月16日 07:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 VR DIVE「ダムド・タワー -ホスピタル サイト-」は、名古屋テレビ塔にて開催中のホラーアトラクションだ。同イベントは、映画『女優霊』『リング』など、1990年以降の“Jホラー”の礎を築いたプロデューサー・仙頭武則と、同作の脚本を手がけた高橋洋のタッグにより実現。最先端のVR技術を駆使して、新時代に送る「恐怖体験装置」として誕生した。


【写真】体験の模様


 同VRイベントは、座席など固定された位置で楽しむVRアトラクションとは異なり、空間内を歩きながらの体験型となる。リアルサウンド テックでは、最新の映像表現を体感するため、編集部の2人が同イベントを体験。10分の想定プレイ時間のうち、それぞれ8分/14分30秒(※15分以内で完走できなければタイムアップで強制終了)となんとか完走に至ったが、取材を名乗り出て後悔すら感じた体験の模様を大和田(14分30秒)がレポートする。


 「ダムド・タワー」で体験するストーリーは、2026年に原因不明の病に侵されていた国が舞台となる。国内では、静かなクーデターにより機関が制圧され、メディアが完全に掌握されたことで、国民には病の実情は伏せられていた。そして、体験者となるあなた自身も、この病にかかってしまう……という流れだ。


 同VR内で、体験者が向かうのが「ダムド・タワー」。かつては安全な最先端施設のはずのタワービルだったが、いつしか「足を踏み入れたものは生きて帰ったことがない」と噂されるように。原因不明の病にかかった体験者自身が、タワーのなかのホスピタルサイト「高天原病院」に救急搬送される様子が映し出されていく。


 体験者は、真っ黒の壁で覆われた個室にひとり案内され、目と耳を覆うヘッドセットと、手元にVR内で進行方向を照らすことができるライトが手渡される。もし、一緒に訪れた友人がいれば、個室に入ることは許されないが、入り口の影から体験者の様子を見ることはできる。実際に普段の来場者の様子を伺ってみると、体験者が怖がっている様子を応援するのではなく、撮影したりして楽しむことが多いようだ。また、体験者が待機している間は、VR内にどのような映像が映っているか、待機しながら見ることができるので、本当に怖いのが無理な人はここで予習することができる。個室の壁は、実際にVR内にも注意マークとして表示されるのでぶつかることはなく、ヘッドセットにも振動などの機能はないので、怖さを実体感するような仕掛けはない。だがしかし、甘くみてはいけない。


 「ダムド・タワー」の世界に入ると、案内人である看護師が登場する。VR内では、主にこの看護師の女性の声と、姿はないが低く太い男性の声が、案内してくれることになる。映像の中の人物と世界は決して“リアル”ではなく、CGを全面に押し出した作り物の世界だ。しかし、だからこそ、自分自身がまったく別世界の中に入ってしまったような違和感が冒頭から訪れる。案内人である看護師が行先を説明するのだが、当然、その順路の途中には、別の人物が映ってくる。頭を抱えながら辛そうにしている人や、包帯でぐるぐる巻きにされ横になっている人、それらの人物たちが大勢いる病室をくぐり抜け進んでいかなければならない。割と序盤の段階で、私は立ち止まってしまった。


 同VRには、手渡されたライトを5秒間挙げることで、「ギブアップ」ができるルールがある。ミイラ状態の患者がうにゃうにゃと動き、どこからか悲鳴のようなものが聞こえてくる病室の入り口で、心底進むのを躊躇した。突拍子もなく脅かされるという仕掛けよりも、襲いかかってくるのが分かっていて、突き進まなければいけない。ゲームでコントローラーを通してキャラクターを操作するのとは違い、自らが歩みを進めなければ物語も動かないというジレンマ。手に持っていたライトで病室内をくぐり抜ける最短経路を照らしながら、勇気を振り絞り、なんとか通りきった。


 案内人である女性の声と、低く太い男性の声があると述べたが、男性の声の案内は、VR内を進んでいく上で励ましにも聞こえてくる。VR内では、同じ位置に30秒以上立ち続けても強制終了。こちらが怯えていると「早く行け」などと声を掛けてくれた。恐怖を煽ってくる発言もあるが、案内人である女性はどんどん体験者を置いて先に行ってしまうので、姿は見えない男性がずっと後ろについてくれているような感覚にもなり、頼りに思ってみるのもいいかもしれない。


 その後も突き進んでいくことに躊躇される場面はいくつも遭遇したが、なかでも「隠れる」という行動が新鮮だった。狭い道で前方からゾンビがやってくるという場面で、「右手にあるロッカーに隠れろ」という指示が下される。その時に隠れずにいたらどんな怖い目にあったのか気になりつつも(絶対にそんなことはしないが)、現実の四角の部屋の中にはあるはずのないロッカーの中に咄嗟に隠れるという行動をとる。ロッカーの扉の隙間からゾンビが歩いてくる様子が見え、できるだけ扉から離れ、息をひそめる。直接VR内には反映されないであろう行動を自然にとってしまっている自分の行動に、体験後は驚きを隠せなかった。


 最後にはある選択することで、結末が別れる仕組みになっており、仙頭×高橋タッグが手がけた要素の一つである映画的な側面も感じた。完全に作り込まれたリアルな情景ではなく、登場する人物たちのビジュアルを含め、現実ではないような未完成の世界に入るからこそ、圧倒的異物感を覚え、自分が現実から切り離されたような感覚に陥る。また、体験者としては、四角い部屋にいたはずが、VR内では、左に曲がったり、エレベーターに乗ったりと、本当に病院内を歩いているような、立体的な体感ができることに新しさを感じた。


 今回、10分間のアトラクションとしてはとてつもなく長く感じるVR体験だったが、これ以上に長くなってしまったら、ギブアップができなくなってしまったら……トラウマとなるほどの人もいるのではないか、と思うほどの恐怖体験であった。12月24日までの期間中、ぜひ足を運んで、新しい映像表現を体感しつつ、新時代のホラーアトラクションとして存分に楽しんでもらいたい。


(大和田茉椰)