マックス・フェルスタッペン対エステバン・オコン以外にも、F1第20戦ブラジルGPではポジションを巡ってドライバーが争うシーンがレース終盤にあった。それはトロロッソ・ホンダのチームメイト同士だ。レース後にチームのポスピタリティハウスで行われた両者の会見では、ふたりがすれ違う場面があったが、会話をしなかっただけでなく、視線を合わせることすらなかった。
状況はこうだ。11番手を走行していたのがピエール・ガスリーで、12番手を走行していたのがブレンドン・ハートレーだ。どちらも1ストップ作戦だったが、ユーズドのスーパーソフトタイヤでスタートしたガスリーは、22周目にピットインしてミディアムタイヤでロングランしていたのに対して、ハートレーはミディアムでスタートし、ピットストップを最も遅い49周目まで引っ張って、新品のスーパーソフトタイヤに履き替えて、あっという間にガスリーに追いついた。
ここでチームはガスリーに、ハートレーにポジションを譲るように無線で再三指示を出すが、ガスリーは無視し続けた。最終的に残り2周(周回遅れなので、彼らの69周目)となったところで、ポジションは入れ替わったが、それはガスリーが譲ったというよりも、燃費がきつくなったので、完走するためにペースを落とさざるを得なかったからだった。
レース後、ガスリーは「ポイントを取りに行くためなら理解できるけど、どのみち今日の僕たちは11番手、12番手、13番手だったのだから、ポジションの入れ替えは必要なかったと思う」と、チームオーダーを受け入れなかった理由を説明した。そして、こう続けた。
「彼の方が速かったのなら、彼は自分の力で僕をオーバーテイクすれば良かった。そうしてもかまわないとチームに伝えたけど、彼はなかなか抜いていかなかった」
しかし、このときハートレーは抜けなかったのではなく、抜かなかったのだ。
「チームメイトに追いついたら、取るべき道は3つしかない。自由にレースをするか、ポジションをホールドするか、チームの判断によってどちらかが譲るかだ。だから、僕はチームに尋ねた。そうしたら、チームは彼が僕を先に行かせてくれることになっていると言ってきた。だから、僕はアタックしなかった。彼が僕を抜かせなかったのは、なぜなのかはわからないけどね」とハートレーは語っている。
■「僕はレースをするためにここにいる」と語るピエール・ガスリーだが……
では、チームが指示した直後に、ガスリーがハートレーにポジションを譲っていたら、ハートレーは10番手に届いていたのだろうか。
「いや、ポイントは難しかった。今日の僕たちはザウバーはもちろん、ハースとフォース・インディアにもまったく歯が立たなかった」
それでは、ガスリーが言うように、トロロッソ・ホンダはポジションを入れ替える必要はなかったのか。
確かに10位でフィニッシュしたセルジオ・ペレス(フォース・インディア)とハートレーとの差は50秒あったのだから、早々にポジションを入れ替えていても入賞は難しかった。
だが、それは結果論で、ハートレーがガスリーに追いついた時点ではまだ何が起きるかわからなかった。もし、前を走るマシンがスピンするかもしれないし、マシンが不調になるかもしれない。またはペナルティを受けるようなことをして、レース後に何秒か加算されることだってある。
チェッカーフラッグが振られるまで、少しでも前との差を詰めておくことは、レースの世界では当たり前のこと。
ガスリーはレース後、「僕はレースをするためにここにいる」とチームオーダーを否定するかのような発言をしたが、そのチームオーダーを2018年シーズンに享受してきたのは、ガスリーのほうではないか。
2019年シーズン、トップチームへ行くガスリー。レッドブルでは今回のような行動はおそらく許されないだろう。