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千葉雄大本人にも重なる主人公・新見の姿 『プリティが多すぎる』が描くリアルタイムの“Kawaii”

2018年11月15日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 努力して、結果も出してきたつもりなのに。なぜ自分がこんな目に……?


参考:『このマンガがすごい!』『プリティが多すぎる』……秋の深夜ドラマはテレ東と日テレに注目!


 会社員なら納得できない人事異動も受け入れなければならない。それがいやなら会社を辞めるしかないーー。


 大手総合出版社に勤務する千葉雄大演じるエリート編集者の新見佳孝が、文芸編集部から原宿系ファッション誌の編集部へ異動を命じられることからスタートした『プリティが多すぎる』(日本テレビ)。異世界に放り込まれ、毎日周囲で数えきれないほど連呼される「かわいい!」の定義がまるでわからない新見が、少しずつ“かわいい”を理解し、編集者として成長していく姿を描く。


 新見は大御所作家の巽信次郎(麿赤児)を担当し、ヒットを飛ばしてきた。同期の近松(中尾明慶)に副編集長に昇格する予定はあるのかと訊かれ、まんざらでもなさそうだった新見。しかし、編集長の柏崎(杉本哲太)から告げられたのは急転直下の人事異動だった。


 新見の新たな配属先はこれまでと全く畑の違うファッション誌。しかも、新見とは明らかに縁遠い原宿系ファッションの専門誌『Pipin』だった。Pipin編集部は本社から離れた原宿にあり、ほとんど契約社員と外部のスタッフでまわっている。文芸の新見とは接点もなく、はっきり言って眼中にもなかった。


 Pipinは編集長の三田村(堀内敬子)以下女性ばかりの編集部で、着任早々に『ごんぎつね』の著者・新美南吉と同じ苗字という理由で新見は一方的に「南吉くん」と命名される。部員たちはカラフルな雑貨があふれる編集部で最高の“かわいい”を追い求めて議論していて、南吉は「くだらない」とつい本音を漏らしてしまう。そんな南吉に利緒(佐津川愛美)は「大丈夫なんですか、社員さん? ここに来た以上は“かわいい”は私たちの仕事の基本ですから」ときつく釘を刺す。


 大崎梢の同名小説がドラマの基になっている。小説では新見の新たな配属先は原宿系ファッション誌ではなく、「Pretty Pop Pure Pipin 女の子はPが好き」がキャッチコピーのローティーン向け月刊誌の編集部だ。ドラマはローティーンのファッションを海外でも認知されている“原宿Kawaii”に置き換え、カンヌでワールドプレミアを開催、アジア各国でも同時に放送されている。


 原作ではPipin編集部に異動になって完全に腐っていた南吉が、編集部員やカメラマン、スタイリスト、そして中高生のモデルや熱心な読者の女の子たちから刺激を受け、仕事に対するモチベーションを取り戻していく。大人たちはよりよい誌面を作るために情熱を注ぎ、モデルたちは学校の延長のような現場を楽しみつつも切磋琢磨しながら上を目指す。そんなプロフェッショナルな人々を活写している、キャッチーなタイトルから想像できない熱いお仕事小説だ。


 小説はプロ意識の高い中高生モデルたちがとても魅力的だったため、彼女たちが実写化されないのは残念だったが、ドラマはPipinトップモデルのキヨラ(長井短)や人気インスタグラマーの心寧(武田玲奈)、Pipin読者で柏崎編集長の娘の美麗(森山あすか)、カリスマショップ店員のレイ(黒羽麻璃央)らが登場し、南吉にPipin流の“かわいい”を指南する。彼、彼女たちのファッション、竹下通りはもちろん原宿の街のあちこちで撮影されたシーンなど、リアルタイムのKawaiiを感じられる見どころがたくさんある。


 「新見ってさ、女子みたいな顔だよな」とからかわれた少年時代。文化祭の出し物で白雪姫役に抜擢された高校時代。南吉はかわいい顔に生まれたばかりにいやな思いをしてきた。それがトラウマとなり、“かわいい”を拒否し、“かわいい”にこだわる人たちを見下している。演じる千葉本人も間違いなく「かわいい」と言われて育ってきたことだろう。これだけかわいい人が“かわいい”を嫌悪しているというのも、文芸への未練が断ち切れない南吉のねじれた自意識を端的に表している。


 11月15日深夜に放送される第5話では南吉が出した企画が初めて通り、南吉主導で撮影が行われる。第3話では酔った利緒からキスをされ、動揺していた南吉。すでにお互いを意識しているのになかなか素直になれないふたりの恋の行方も気になるところだが、今回は恋よりPipin編集者として一歩前進する南吉の姿が見られそうだ。(古閑万希子)