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趣里の演技は観る者の想像力をかきたてる 『僕坂』『生きてるだけで、愛。』真逆の役を好演

2018年11月15日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 東京・神楽坂を舞台に若き獣医師、コオ先生こと高円寺達也(相葉雅紀)と、動物や飼い主たちの心温まる交流を描いたドラマ『僕とシッポと神楽坂』(テレビ朝日系)に出演中の趣里。コオ先生に思いを寄せ、手作り弁当を差し入れしたり、ボランティアで動物病院の手伝いに来たりと、何かと世話を焼く芸者のすず芽役を好演している。


 4歳でバレエを始め、10代でイギリス留学を経験したという趣里は、美しい姿勢が目を引くこともあり、クールな印象を与える。映画『勝手にふるえてろ』(2017)で演じた金髪のカフェ店員はまるで人形のようで、浮世離れした存在感を醸し出していた。ただ、その華奢な外見とは裏腹に声には力強さがある。『僕とシッポと神楽坂』では、まっすぐにコオ先生を追いかけては看護師のトキワ(広末涼子)をライバル視して騒ぎを起こすなど、コミカルでチャーミングな役柄に意外なほどハマっているのも不思議だ。


 女優・趣里といえば、二宮和也主演のドラマ『ブラックペアン』(TBS系)で二宮和也演じる渡海征司郎に信頼される有能な看護師、ねこちゃんこと猫田麻里役を思い浮かべる人も多いだろう。簡単に人を信じたりしない渡海先生とのコミュニケーションの取り方、ミステリアスな雰囲気が意味ありげで、彼女の注目度は一気に上昇。SNSでも彼女のシーンをもっと観たいと大きな反響があった。


 ねこちゃんが、ただ昼寝の場所を探しているだけでも、ほかに何か別の意図があるのではないか? 彼女が、ある特定の人物を凝視することに裏の特別な意味があるのではないか? などと想像をかきたてる独特の存在を放つ趣里。少し影のある、屈折した役を演じる趣里をもっと観てみたいと思わせるものが彼女の中にはあるようだ。


 そんな彼女の独特の魅力がほとばしるエモーショナルな映画『生きてるだけで、愛。』が11月9日より公開となった。自分にも他人にも嘘がつけず、まっすぐ過ぎるゆえにエキセントリックな言動に走ってしまうヒロインの寧子を趣里が繊細に演じ、強烈な印象を残す。


 鬱が招く過眠症のせいで引きこもり状態が続き、出版社でゴシップ記事の執筆に明け暮れる津奈木(菅田将暉)と同棲3年になる寧子。家事もせず、電気を使いすぎてはブレーカーを落とすという日々の中で、津奈木の元恋人、安堂(仲里依紗)が現れたことから同棲生活に変化が訪れる。


 誰かに自分を理解してほしい、ちゃんとつながっているという実感がほしいと切実に願いながらも、愛することにも愛されることにも不器用で、関係を自ら壊してしまう寧子。難しい役柄を趣里は突き抜けた演技で表現していく。痛々しくもあり、ふてぶてしさも存分にある寧子に共感せずにはいられないのは、彼女の魂の叫びが心に響くからなのだろう。


 イギリス・ロンドンで開催された第26回レインダンス映画祭の質疑応答で、趣里は「10代の頃にケガでバレエをやめなくてはいけなくなり、それでも生きていかなくてはならないという辛い経験をしたことが寧子を演じるにあたり、自分の中で重なった」と語っていた。(参照:『生きてるだけで、愛。』趣里&関根光才監督が英レインダンス映画祭に参加)


 一見か弱そうに見える彼女独特の力強さというのは、経験に基づいた自信からくるものなのだろう。ただ美しいだけではないエキセントリックで刺激的な女性を演じ、毒がある役に奥行きを持たせ、観る者の想像力をかきたてる女優。型にはまることなく、進化を続けてほしい存在である。(池沢奈々見)