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『エウレカセブン』劇場版第2弾『ANEMONE』渡辺マコトPが語る、制作の裏側と完結編への展望

2018年11月14日 12:02  リアルサウンド

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 映画『ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』が現在公開中だ。本作は、2005年から2006年にかけてテレビ放送された『交響詩篇エウレカセブン』シリーズの最新作で、2017年秋より開幕した『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』第2弾作品。監督・京田知己、脚本・佐藤大、キャラクターデザイン・吉田健一のオリジナルスタッフが集結し、さらにニルヴァーシュのオリジナルデザイナーである河森正治が本作の新メカニック・ニルヴァーシュⅩのデザインを手掛けている。


 今回、リアルサウンド映画部では、プロデューサーである渡辺マコト氏にインタビュー。レントンを主人公とした『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1』に続く今作ではなぜアネモネが主人公に抜擢されたのか。そして来る第3部である完結編への展望とは。その全貌について、京田監督の一番近くで仕事をしている渡辺氏に明かしてもらった。(編集部)


■「『ハイエボ』では親と子の関係を描きたい」


ーー『ハイエボリューション』の2作目にアネモネを主人公とした理由は?


渡辺マコト(以下、渡辺):2本目の主人公がアネモネであることはだいぶ前から決まっていました。『ハイエボ1』を経て、実際の作り方が変わっていった部分はありますが、アネモネをメインに置くことは変わっていません。『ANEMONE』は一部設定が難しいところもあるとは思うのですが、お客さんが感情移入しやすいような形で、アネモネと一緒に“交響詩篇”の世界にダイブして観てもらいたいという意味合いが強くあります。『ANEMONE』を観れば、『ハイエボ1』をより深く理解できる作りになっていますし、一方で、「え、どういうこと?」というような驚きも準備されています。アネモネの視点のようであって、決してそれだけではなく、複数の視点を代表するような存在です。


ーー本作で最も重要な要素だと思うのですが、「ダイブする」というアイデアはどのように生まれたのですか?


渡辺:「ダイブ」というのは、監督がバンダイナムコエンターテインメントさん、SammyさんにVRの技術の見学をさせていただいたり、MX4Dの演出に携わったことが、アイデアのきっかけになっていると思います。


ーー『エウレカセブン』シリーズ自体、これまで『ポケットが虹でいっぱい』や『エウレカセブンAO』など、タイトル毎にまた違った手法や設定で物語が展開されていきました。ただ、『ハイエボ』3部作は、それに比較してもかなり大胆に変化していると感じます。


渡辺:TVシリーズが放送されていた13年前と今を比較した時に、時代も、アニメを取り巻く環境も大きく変わっています。今回、京田監督、脚本の佐藤さん、キャラクターデザインの吉田さんの3人は、「新しいものを作る」という明確なビジョンを持って挑んでいます。TVシリーズの『交響詩篇エウレカセブン』は、とてもありがたいことに大きな支持を得た作品でしたし、正直、なかなか越えることの難しい作品でもあります。それを今回リブートするということで、1段2段とフェーズをあげていく必要がありました。


ーー『ハイエボ』シリーズのテーマは「家族と継承」だと感じています。その要素はTVシリーズにもありましたが、今回の3部作では、よりはっきりとフォーカスされた印象です。


渡辺:監督たちが年を重ねて取り上げたいテーマが変わってきた、というのがひとつあります。12年前からボーイ・ミーツ・ガールが作品の軸としてありましたが、基本的には「人の繋がり」を描いた作品でもあります。『ハイエボ』では、明確に親と子の関係を描きたいという思いがありました。


■「リスペクトしているカルチャーに立ち戻っていきたい」


ーーその意図で『ハイエボ1』では、ビームス夫妻がフィーチャーされました。TVシリーズでも重要なキャラクターではありましたが、2人を通して、「レントンが大人になる」という過程がより明確に示されていたと感じました。


渡辺:ありがとうございます。『ハイエボ』は演出的には様々な仕掛けが入ってはいるのですが、そのテーマはとてもストレートで普遍的だと思っています。『ANEMONE』では、アネモネとその父親はとても強い絆で結ばれた親子であって、その絆を支える人物としてドミニクが登場します。僕は、アネモネとドミニクは「異性」というよりも、「兄妹」だと思っています。ドミニクがなぜこれだけ身を費やしてアネモネをサポートするのか。そういった部分に隠されている思いも、作品のテーマに繋がると思います。僕も毎回目頭が熱くなるのですが(笑)、アネモネと父親の親子の繋がり、強い絆というのは、この作品で一番監督が伝えたい部分だと僕は受け取りました。


ーーレントンもアネモネも父親を亡くしながら、肉親ではない人たちと出会い、助けられながら学んでいくという。エウレカはそもそも親がいないので、次作ではどうなるのでしょうか……。


渡辺:そこは我々にとっても課題かもしれませんね(笑)。人間における“親子”のような関係が、コーラリアンであるエウレカにはないので。だからこそエウレカにとってレントンは大きい存在なのだと思いますし、『ANEMONE』におけるアネモネに対するエウレカの行動原理も、そういう繋がりの有無と関係しているのかなと。


ーー音楽面についても聞かせてください。『ハイエボ』には、ドイツのテクノユニットHardfloorが新曲「Acperience 7」を挿入曲として提供しています。おそらく2005年の放送開始当時、クラブミュージック、テクノミュージックなどのクラブカルチャーをあれほど大胆にアニメに取り入れたのは『エウレカセブン』が初めてだと思いますが、今回、主題歌に15歳のRUANNさんを起用した理由は?


渡辺:『ANEMONE』ではアネモネが主人公、しかも舞台が現代であり東京ということで、アネモネと年が近い方に、同世代の女の子の気持ちを歌ってもらえたら、というのが我々の希望でした。


ーー音楽以外でも、『エウレカセブン』ならではのサブカルチャーからの引用がありましたが、今回もそういった小ネタはあるのでしょうか?


渡辺:『エウレカセブン』ファンの方なら聴きたい曲が、とあるポイントでかかるということはお伝えしておきます(笑)。ただ、京田監督、吉田さん、佐藤さんとも話していたのですが、TVシリーズ放送時は、アニメーション自体がサブカルチャーでしたが、今は一気にメインカルチャーと言っても差し支えないほどの存在感を持つようになった。つまり、カルチャーにおけるアニメの立ち位置が変わってきたのです。先ほどおっしゃっていただいたように、『エウレカセブン』がクラブカルチャーなどをアニメに取り入れたパイオニアだとしたら、それから今に至るまで多くの人が取り入れきたので、もはや普通になってしまったのかなと。だとしたら、今は自分たちの原点であり、リスペクトしているカルチャーに立ち戻っていきたい。今回はそういった視点から楽曲を選んでいます。


ーー次作で完結となりますが、どんな作品になりそうですか?


渡辺:まだ言えないことばかりですが(笑)、レントンとエウレカが再会する話になることは間違いありません。そこに加えて、『ANEMONE』では『交響詩篇エウレカセブン』の世界と現代の世界が繋がったのでいろんなキャラクターが同じフィールドに出てくることになる。彼らが一堂に会して描かれる物語が見どころになるかと思います。(取材・分=石川雅文)