2018年11月14日 10:12 弁護士ドットコム
若い女性が意に反して、アダルトビデオへの出演を迫られる「AV出演強要」は一時、社会問題として大きく取り上げられたが、メディアの関心が薄れつつある。そんな状況の中で、AV業界が抱える問題について考えるシンポジウム「AV問題について考える会」が11月10日、都内で開かれた。
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このシンポは、業界歴30年以上の男優、辻丸さんが主催。元AV女優の麻生希さん、AV監督の安達かおるさん、世田谷区議会議員の田中優子さんらが登壇して、「強要被害者は自己責任なのか?」などをテーマに議論した。麻生さんが「問題視されているようなことは全部された」と、壮絶な体験をカミングアウトする一幕もあった。
トップ女優として活躍した麻生さんは2016年、コカイン所持などの疑いで摘発された(執行猶予判決)。さらに今年2月、当時交際していた男性と自宅で覚せい剤を所持・使用した疑いで逮捕されて、現在公判中の身にある。
麻生さんは、この後者の事件以降、法廷以外で公開の場に現れるのは初めてとのことだった。この日のシンポでは、現役当時所属していた事務所との間でトラブルがあったことをカミングアウトした。
「『キャンセル料払え』『いくらかけたと思うんだ』と言われたことある。殺人以外なんでもされた感じだから・・・」
「ひどいときは、家の前で『火をつけるぞ』と怒鳴られたこともあるし、現場に乗り込まれて嫌がらせをされたり、親に電話をされたりした。勝手にソープと契約されたこともある」
ほかにも、「家から出るな」と言われたり、報酬をもらえないため、仕方なくドッグフードを食べて過ごした時期もあったという。自殺を考えるまで悩んだこともあったが、最終的に、「麻生希」という女優名を使って活動できることを条件に、事務所と和解することになったそうだ。
壮絶な体験を口にした麻生さんだが、「自分も悪いと思う」「『私はこんなことされた!辛いんです』という感覚がない」と「自己責任論」を展開。「『麻生希』として生きていた時期はつらいこともあったが、今こうやって発言できる機会をもらえて、女優をしていて良かったと思う」という複雑な心境を明かした。
一方、現役のAV監督として、業界の問題について取り組む安達さんは「本人が『被害を受けた』ということを自覚しないから、『業界に問題がなかった、クリーンだ』とは言えない」「AVに限らないが、被害者だと自覚しないまま、システムの中に組み込まれる人たちもいるのではないか。あくまでも、客観的に検証していくことが必要だろう」と諭した。
また、「嫌なら断ればいい」という考え方について、性被害サバイバーの卜沢彩子さんは「力のある人の論理にもなりうる。嫌なことを『イヤ!』といつも言える人はどれくらいいるのか」「もう仕事が決まっていて、現場に来て、揉めることを避けて、『イヤ!』と言えない人がいると思う。その関係は、力が強いほうが意識する必要がある」と指摘した。
田中さんは「日本社会の隅々に、男女だけでなく、力のある者、ない者の関係が染み渡っている。強い者は権力をふるえるし、弱い者の権利を踏みにじれてしまう。だからこそ、そうしないように、どんな人であっても人権が大事にされなければいけない。AV業界が悪いとは言わないが、そういう体質は改めないといけないのではないか」と述べた。
こうした議論を受けて、麻生さんは「自分だけが良くても、人は嫌なことがある」「もう少し勉強したい」と話していた。
(弁護士ドットコムニュース)