なにかが起きるのが『ブラジルGP・インテルラゴス伝説』。第20戦のここでルイス・ハミルトン10勝目、メルセデスが5年連続ダブル・タイトル獲得でめでたく幕は下りた。
が、その幕の裏でマックス・フェルスタッペン(レッドブル)とエステバン・オコン(フォース・インディア)の“フィジカル・コンタクト(FIA表現)”が起きていた。
公の場での小突き合い、周囲にいた関係者がレフリーとしてその場はおさめたが……。後にフェルスタッペンには『社会奉仕活動・二日間』という教育的指導“ペナルティ”が科せられた。
事件は、ブラジルGP決勝44周目のエス・ド・セナで起こった。トップを走るフェルスタッペンと周回遅れオコンの2台がマシン・コンタクト。絡まりあってスピン、2番手にいたハミルトンが自動的にレースリーダーへ。こういう逆転劇もインテルラゴスではありえること。
17年前にさかのぼる記憶……。2001年、新人3戦目ファン・パブロ・モントーヤがミハエル・シューマッハーをかわし、首位快走中の39周目に“事件”は起きた。周回遅れのヨス・フェルスタッペンに追突されリタイア。2位だったデビッド・クルサードに勝利が転がり込んだ。
「すべてうまくいっていたのに、フェルスタッペンはブレーキングを誤ったのだろう……。まあね、また良いことがこれからもあると思うし……」と大人のコメントを残したモントーヤ(見た目と違う好漢)。
マックスの父は、きっとこの一件を思い出したことだろう。息子と父、なにかが起こるブラジルGP伝説の輪廻か――。
めでたい話題に戻そう。ここでは10年にレッドブル、09年にブラウン、08年にフェラーリ、06年にルノーがコンストラクターズを決めている。ほぼ同時期に05年フェルナンド・アロンソから09年ジェンソン・バトンまで、5年つづいてチャンピオン戴冠の場となったインテルラゴス。ふたつの池の間に80年前できた回廊には女神もいれば悪魔も棲んでいる……。
■5シーズンにわたり圧倒的な戦績を残しているメルセデス
1958年からチーム(コンストラクター)を対象にしたもうひとつの“選手権”が設けられた。メルセデスは54年と55年シーズンを席巻し撤退、もしできていたら文句なしの連覇であった(この悔恨はいまもある)。時を経て2010年から復帰した新生メルセデスは、ランク4位/4位/5位/2位を重ね、14年から50年代を再現する巨人の進撃を開始。
ハイブリッドPU新規定にそなえ、復帰した10年頃から水面下で基礎研究に取り組んでいた。その成果が14年から16勝+16勝+19勝+12勝、そして今年の10勝。2018年シーズンここまで『99戦73勝』の戦績だ。
参考として挙げると、70年代前後(17シーズン)に155勝をおさめたフォード・コスワースDFVエンジン・シリーズの、ほぼ半数に匹敵する。まさに現代史F1最強パワーユニットを目撃中だ。
レース展開に戻ると、フェルスタッペン事件後の44周目にリーダーとなったハミルトンに、終盤“オーバーヒート症状”が深刻化。タイヤ・マネージメントとこの問題を抱え、パワーユニットのケアを強いられる危機的な状況が20周もあった。
しかしハミルトンは落ち着いていた。ときどきオンエアされるピットとの無線交信では切羽詰まった様子も、焦る心理なども感じとれなかった。五冠王の冷静な対応能力、以前の叫びまくる彼とは全くちがった。
ゴール後にマシンのそばにひざまずいたハミルトン、まるで愛犬ロスコ―を愛撫しているかのように。オーバーなアクションに思えたが最後まで耐えてくれた愛機に、感謝の意を捧げたのか。
タイトルを重ねれば重ねるほど『レース人生』に磨きがかる、そうおっしゃっていたファン・マヌエル・ファンジオさんにメキシコで並んだ。メルセデス大目標のコンストラクターズ5連覇もここで叶えた。いま、我々はハミルトンのピーク・ゾーンを目撃している――。