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備前長船「刀剣の聖地」なのに国宝の刀がない! 謙信愛刀「山鳥毛」購入費5億円をネットで募る

2018年11月13日 09:32  弁護士ドットコム

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岡山県瀬戸内市は、中世から日本刀の名産地として知られてきた「刀剣の聖地」だ。現存する日本刀283万振りのうち、およそ半数が備前と呼ばれるこの地域で打たれたという。量だけでなく、質が高いのも特徴で、国宝に指定されている111振りのうち、47振りも作られた。しかし、国宝の刀は各地に散らばり、市内には一振りも残されていない。


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そこで、瀬戸内市の「悲願」として始まったのが、国宝「太刀 無名一文字」(愛称・山鳥毛)の里帰りプロジェクトだ。「山鳥毛」は戦国時代の名将、上杉謙信が愛した刀とも言われ、炎のような激しい刃文が特に美しく、備前刀の最高峰と考えられている。「山鳥毛」を購入、県外流出を防ぐとともに、全国でも珍しい刀剣専門の博物館である「備前おさふね刀剣の里 備前長船刀剣博物館」で展示したい考えだ。



瀬戸内市では市の財源に頼らず、11月1日から購入価格である5億円を目標にクラウドファンディング型ふるさと納税をスタート。開始10日で、すでに4000万円を超える寄付が集まっている。瀬戸内市の武久顕也市長は「備前長船は刀の聖地です。我々がやらなければ、という使命を感じて、山鳥毛をこの地に残していきたいと思っています。広くご協力お願いします」と呼びかけている。



●「5億円の税金を投入すれば、町を二分してしまう」

備前の日本刀は、女性に人気のオンラインゲーム「刀剣乱舞-ONLINE」でも、「燭台切光忠」や「鶯丸」などの刀剣男子として親しまれている。刀剣界では抜群の知名度があり、瀬戸内市長船町は備前長船と呼ばれて、刀剣の聖地として多くのファンが訪れている。しかし、武久市長は「市内には国宝や重要文化財の刀剣が一振りも残されていない上、刀鍛冶も数人のみとなり、このままでは刀剣の伝統継承が危ういと懸念しています」と話す。



今回、里帰りプロジェクトが始まった「山鳥毛」は、13世紀に備前長船で福岡一文字派によって作られ、名将、上杉謙信と後継者の上杉景勝が愛した刀と言われる。また、国宝「大包平」(東京国立博物館蔵)と並び、備前刀の最高峰と考えられている。



上杉家伝来の刀だが、現在は岡山内在住の個人から岡山県立博物館(岡山市)に寄託。昨年、上杉謙信のゆかりの地である新潟県上越市が購入に動いたが、購入価格が折り合わず、今年1月になってから瀬戸内市に売却の相談があったという。「まず、この刀の価値をしっかり見極めなければということで、評価委員会を立ち上げて、5億円の価値があるという結論をいただきました」と武久市長。しかし、価格は5億円。瀬戸内市にとって小さな金額ではない。



「もしも、この5億円の調達に税金を投入するとしたら、町を二分する議論になってしまいます。そうした中で購入を実現できたとしても、町にとって良いことになるのか…。ここはもう、税金を初めからあてにするのではなく、クラウドファンディングによる寄付をお願いすることにしました。もちろん、それだけではなく、クラウドファンディングの取り組みによって、備前長船や山鳥毛の魅力を国内外に発信していきたいです」



瀬戸内市では10月に正式にプロジェクトを発表。都内で開かれた会見には、山鳥毛の写しも登場し、そのうち一振りは「刀剣乱舞-ONLINE-」を手がけるニトロプラスの小坂崇氣社長が所蔵する刀が展示された。「刀剣乱舞のゲームをされる方々にもぜひ、備前刀や備前長船に興味を持っていただければ」と武久市長は話している。



●返礼品は「日本号」の倣いや「山鳥毛」の写しも

そうして始まった、山鳥毛里帰りプロジェクト。瀬戸内市では11月1日、クラウドファンディングをスタート。まずは、「山鳥毛」の購入価格5億円の取得を目指し、2億8000万円を一般向けのふるさと納税を活用した自治体クラウドファンディングで、2億円を企業版ふるさと納税で、2000万円を海外の日本刀ファン向けのクラウドファンディングで、それぞれ調達したい考えだ。



寄付は、クラウドファンディングのポータルサイトでも受け付けているが、今回、瀬戸内市では特設サイト( https://setouchi-cf.jp/{target=_blank} )も開設 。ポータルサイトには並ばない特別な返礼品も用意している。たとえば、大野義光刀匠による「山鳥毛」の写し(形状や模様・図柄を模倣した作品をつくること)。「山鳥毛」の名前の由来は、刃文が山鳥の羽毛であることからという説もあるが、これを再現できる刀匠は他にいないという。写しは864万円相当であり、還元率は3割に設定されていることから、2880万円の寄付が必要となる。



これ以外にも、刀剣博物館で開催されて人気を集めた「2次元VS日本刀展」のために製作された刀剣や、瀬戸内市も大きく関わる黒田家に伝わる名槍「日本号」倣いの作品など、刀剣ファンにとっては垂涎のラインナップとなっている。



今回のプロジェクトのは、個人だけでなく、法人団体からも支援を募っているのが特徴という。平成28年度税制改正によって新設された「企業版ふるさと納税制度」を活用、企業向けの窓口も設けている。そのほか、「法人団体サポーター」も設置。サポーターになると、その企業の社員は特設サイトを通じて納税を行うことができる。「このサポーター制度を通じてご寄付いただくと、寄付金額に対して、市から企業へ3%の手数料が振り込まれます。社員の皆さんの福利厚生に利用していただければ」と武久市長は説明する。



瀬戸内市では備前刀や山鳥毛についてもっと知ってもらおうと、11月17日に市内でシンポジウムを開催する。当日は、戦国時代史研究の第一人者である小和田哲男・静岡大学名誉教授が登壇、上杉家の刀剣や山鳥毛のたどった道について講演する。





(弁護士ドットコムニュース)