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GT300決勝《あと読み》:作戦を“シブく”完遂。大逆転を成し遂げたLEONと惜しくも届かなかったライバルたちのもてぎ戦

2018年11月12日 15:51  AUTOSPORT web

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第8戦もてぎを制し、逆転戴冠を果たしたLEON CVSTOS AMGの黒澤治樹と蒲生尚弥
終わってみれば大逆転。緊迫度が高いスーパーGT第8戦もてぎの決勝レースを終え、GT300クラスはレースを制したLEON CVSTOS AMGの黒澤治樹/蒲生尚弥組が、見事12ポイント差をひっくり返しての初戴冠となった。ドラマチックな逆転劇は、いかにして成し遂げられたのか。監督、エンジニアたちのコメントからレースを振り返ってみよう。

■“流れ”が来なかったARTA BMW。必死の無交換も実らず
 改めてこの第8戦もてぎの前のポイントランキングを振り返ってみると、高木真一/ショーン・ウォーキンショー組ARTA BMW M6 GT3が60ポイント。黒澤治樹/蒲生尚弥組LEON CVSTOS AMGが48ポイント、嵯峨宏紀/平手晃平組TOYOTA PRIUS apr GTが46ポイント。谷口信輝/片岡龍也組グッドスマイル 初音ミク AMGが45ポイント、新田守男/中山雄一組K-tunes RC F GT3が44、平中克幸/安田裕信組GAINER TANAX GT-Rが42ポイントで、ここまでがチャンピオンの権利を残していた。

 LEON CVSTOS AMGは、逆転戴冠には土曜の時点で2位フィニッシュ以上をすることが必須だった。もちろんランキングでそれ以下のチームはすべて優勝が必須。この段階で、チャンピオンを狙うチームは、「いかにして勝つか(LEONの場合は2位以上に入るか)」が目標で、その上でARTA BMW M6 GT3の得点が低いことを祈るのみ……というレースだったのだ。

 まず、ランキング首位だったARTA BMW M6 GT3のレースを振り返ろう。予選10番手というポジションから、序盤こそ6周目にポジションを上げ、さらに13周目に8番手に浮上するなど、タイトルへ向けひとつでもポジションを上げようというレースを展開していた。

 ARTA BMW M6 GT3の安藤博之エンジニアは、「昨年はかなり早めにピットインしたチームも多かったので、他には早めにピットへ入ってもらい、その間、高木真一選手にクリアラップをとってもらい、前とのギャップを詰めよう」という作戦だったと語った。

 ただ、レースは安藤エンジニアの予想に反し、ピットインを遅らせるチームが多かった。その分、ARTA BMW M6 GT3は思うようにクリアをとれず、タイムロスを喫してしまう。「コース特性上抜けず、そこで思うようにポジションを上げられないまま、ピットインしなければなりませんでした」と安藤エンジニア。

 チャンピオンを争うライバルたちが無交換作戦を成功させてくるなか、ARTA BMW M6 GT3のタイトルは少しずつ厳しさを増していく。「レースである程度マージンをとれれば二輪交換等の作戦も考えていたのですが、無交換で出すしかチャンピオンの可能性はなかった」と安藤エンジニアが語るとおり、ARTA BMW M6 GT3は無交換作戦を“採らざるを得ない”状況になってしまった。

 後半スティントを担当したショーン・ウォーキンショーは、ピットアウト後SUBARU BRZ R&D SPORTと接触してしまい、右のサイドミラーを脱落させてしまう。これについては「(リヤビュー)モニターもあるので大きな問題にはならなかったと思っています(安藤エンジニア)」というが、少しずつタイヤも厳しくなり、リヤのみ交換を行ったD’station Porscheにかわされてしまうと、さらに同じ無交換だったHOPPY 86 MCにもかわされ、最後は9位でフィニッシュした。

 ほぼ確実だろうと思われていたタイトルには届かぬ結果となってしまった。安藤エンジニアは「ポイント差があっただけに、悔しいですね……」と厳しい表情を浮かべている。このレースでは、ARTA BMW M6 GT3には“流れ”が向いていなかったと言えるが、スーパーGTの厳しさを痛感させる結果となってしまった。

■全力を尽くすも、勝利に届かなかった2台

 一方、“勝つしかなかった”メンバーの戦いはどうか。前日、嵯峨宏紀が担当した予選Q1では、ギリギリで通過する形になった31号車TOYOTA PRIUS apr GTは、決勝スタートタイヤ抽選が『QA』だった。つまり嵯峨が履いていたタイヤだが、このタイヤは、気温が低かった場合はうまく発動しないタイヤだった。そのための嵯峨のQ1だったのだ。

 しかしこの決勝日、気温は上がった。「暖かくなって良かった」とaprの金曽裕人監督は言う。レース序盤、平手晃平が圧巻の走りでついにトップまで浮上し、嵯峨にバトンを繋ぐ。もちろん作戦は、当初から想定していた無交換だ。QAタイヤは、その可能性をこめたタイヤだった。

 作戦は見事的中し、平手からステアリングを受け取った嵯峨はトップに立っていたLEON CVSTOS AMGを追ったが、ここでまさかのピックアップが生じてしまう。そのためトップを追いきれなかったのだ。

「それで全然ペースが上がらなかった。ただ、ピックアップがついてなくても、(LEONのドライバーは)蒲生(尚弥)だし、そう簡単には抜けなかったと思うけど」と金曽監督。

 ただ、金曽監督は「お客さんもそう思ったと思うけど、スーパーGTは面白いよね」と振り返った。

「自分が今、タイトルが獲れなくてもあっけらかんとしているのは、面白かったから。コイツ(プリウスGT)を最後に表彰台に乗せられたしね。もちろんチャンピオン獲れていたら良かったけど」と、レースそのものを楽しんでいたようだ。

 また、タイヤ二輪交換を行い、3位となったのは昨年王者のグッドスマイル 初音ミク AMG。同様に勝つしか連覇の可能性はなかったが、届かなかった。

「振り返ってみると、流れがあると思うんですよね」というのは、河野高男エンジニア。

「仮にLEONの前に出られていたらウチがチャンピオンだったとも思うし。でもそこは“流れ”だから」

「レース戦略を含めて、オートポリス以外はちゃんとやれていたと思う。不運ももちろんあったし、タラレバ言ったらたくさんある。でもその時々にやれることは全部やっていた。メルセデスのチームがチャンピオン獲ってくれたことは嬉しいけど、やっぱりちょっと悔しい(笑)」

「LEONは昨年悔しかったわけで、今年はパーフェクトな仕事をしたから」と河野エンジニアはライバルを讃えつつも、王座奪還に向けて闘志をみせる。

「同じクルマで負けてしまった分、来季に向けてチャンピオンを獲れるようにいろいろ考えていかなければいけませんね」

■作戦を“オトナな感じ”で完遂。LEONの王座はチームの勝利

 そして、悲願のタイトルを決めたLEON CVSTOS AMG。これまでタイトルに迫りながらも、“惜しい”年が続いていた。2年連続となる最終戦の勝利と、今季のチャンピオンを引き寄せた今回のタイヤ無交換作戦は、レースウイークの金曜日に決まっていたことだと溝田唯司監督は語った。

「金曜日、ブリヂストンさんとお話をして『無交換でも大丈夫です』と言われたので、選択しました。優勝するか、2位を獲るかしかチャンピオンの可能性はなかったので、つねに“攻め”の姿勢でいきました」と溝田監督は言う。

 その意識はチーム全員が共有し、黒澤もレース序盤から、無意味にタイヤを酷使しないような走りを徹底する。ただ、必要以上にポジションを落とすこともしない戦いぶりは、今回の勝者に相応しいものだった。

 そしてその黒澤の走りは、後半を担当した蒲生がリードを築くことに役立った。「後半の蒲生選手のときもまったく問題はなかった(溝田監督)」が、終盤、TOYOTA PRIUS apr GTとギャップが急速に縮まる。実はこれもピックアップが原因だった。

「最後は蒲生選手が『振動が出てきた』と、うしろのペースを見ながらペースを落としていいか聞かれたので、『いいよ』と指示したかたちです。帰ってきて見たら、タイヤは全然余裕でした。タイヤカスがついての振動でした」

 こうしてブリヂストンの強さを活かしつつ、ドライバーが最大のパフォーマンスを発揮してチャンピオンを引き寄せたLEON CVSTOS AMG。ただ、溝田監督は大はしゃぎしているかというと、表彰式後も淡々としていたのが印象的だった。

「普通にチームのみんながいつもどおりの仕事を、ちょっと気を遣ってやってくれただけ。去年はちょっとしたミスでチャンピオンを獲れなかっただけです。誰かが一生懸命やったとかではなく、“普通に”やっただけなんです」と溝田監督は振り返った。レース後の記者会見でも「このチームはすごく仕事がしやすくて、純粋にレースができる。だから、当然と言えば当然の結果です(笑)」と改めてチームの功績を讃えている。

「渋く、オトナな感じで獲りました。LEON風に言うなら『必要なのはお金じゃなくて、センスです』ですね(笑)」

 溝田監督はLEONの代名詞と言える台詞で、チャンピオン獲得の喜びをはしゃぐことなく語った。これもチームの“色”だろう。レースは勝つことが難しく、そしてひとたび勝てば強い。そしてそれは王座も同様だ。今までも強豪だったK2 R&D LEON RACINGは、来季ライバルにとってより一層手強い存在になるはずだ。