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三月のパンタシアら作品に注目 視覚と聴覚の両面から若い世代に刺さるリリックビデオの世界

2018年11月12日 11:22  リアルサウンド

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 2010年代に入り急速に支持を広げ、その作品数を莫大に増やし続けているのがリリックビデオ。海外ではMV制作前のティザー的なプロモーションツールとして広がったが、国内ではニコニコ動画のボーカロイド楽曲映像で、歌詞を演出の一環として用いたことから一気に拡大を見せた。視覚と合わせてより受け手の心に印象を深く刻み込むといった長所を持つ総合芸術のひとつとして、音楽の新たな楽しみ方として受け入れられつつある。


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 なかでも、より自由度の高い作品が顔をそろえるのがイラストと楽曲との融合を軸にしたもの。それらの楽曲の特徴のひとつに挙げられるのが、10代~20代前半の若者の心に刺さる世界観やメッセージで構築されている、という点である。


■若い世代の悩みや苦しみとダイレクトに繋がる美波


 例えば2019年1月にメジャーデビューを控えた美波は、「正直日記」や「ライラック」などに代表されるように自らの心に渦巻く棘や闇の部分を包み隠さず言葉と歌声にして吐露。それと映像が結びつくことで、よりダイレクトに若い世代の悩みや苦しみと繋がり、大きな支持を得ている。


■ファンタジックな世界観で魅了するEve、ずっと真夜中でいいのに。


 一方、ファンタジックな世界観が特徴なのがEve。1600万再生を突破している「お気に召すまま」などのダンスロックや直球のロックナンバーにあそびの多い歌詞を乗せることで、聴き手なりの想いを投影できる作品へと仕上げている。


 また“ずっと真夜中でいいのに。”は今年6月に初投稿した「秒針を噛む」が1000万再生を突破(※11月11日時点)。同じく映像はファンタジックでありながら、こちらは曲中の軽快なピアノが印象的なポップなサウンドが魅力的な、期待のクリエイターだ。


 そして、今注目のイラストレーター・ダイスケリチャードがイラストを手がけた「青春なんていらないわ」で150万回以上もの再生回数を叩き出したのが、音楽ユニット・三月のパンタシアだ。ボーカリスト・みあを中心として多数のコンポーザーやイラストレーターが構成する本ユニットは、デビュー当初からリリックビデオ形式のMVを多数発表しているが、同作はこれまでの淡い色合いのイラストからガラリと方向性を変えたポップかつビビッドなカラーリングが目を引く作品だ。


■みあが軸となり、さらに進化する三月のパンタシア


 その三月のパンタシアが、新曲「ピンクレモネード」のリリックビデオを10月に公開。引き続きイラストにダイスケリチャードを迎えた本作は、1週間で30万再生を突破するといった自身最速ペースで再生数を伸ばしていき、前作と合わせて従来の支持層の中心であるアニメ・アニソンファン以外の層にも支持を広げていることがうかがえる。そんななか、本日・11月11日にはCDシングルの発売に先駆けてその表題曲の先行配信も開始された。


 変わったのはイラストの色合いだけではなく、実はみあの歌声も。本作ではAメロからこれまで以上に整ったものを狙いすぎず、実に率直に歌われている。その歌声の塩梅が、かわいさを狙って歌われたものよりもさらに自然なかわいげを醸し出す。元来素直な歌声が彼女の魅力ではあったが、これこそがまさに、そこからさらに一歩進んだ、今のみあの魅力と言えるだろう。


 加えて、そのみあ自身によるクリエイティブな活動もさらに増加中。みあがTwitter上でオリジナル小説を公開し、それを元にクリエイターが楽曲やイラストを書き下ろす「音楽×小説×イラスト」を連動させた新企画『ガールズブルー』が始動し、話題を呼んでいる。さらに、本シングルにはみあの初作詞曲「サイレン」も収録されており、こちらは言葉の面からも淡い恋心を描いたナンバーで、加えてちょっと拗ねたような2サビ直前の歌い方など、ボーカリストとしての表現の巧みさにも心を奪われるナンバーだ。彼女の活動が、多くの才能を巻き込んで三月のパンタシアの表現をより広く、深いものへと進化させている。


 こうして新たな挑戦を続ける三月のパンタシアをはじめ、リリックビデオを取り巻くシーンには日々新たな才能が続々生まれている。今後も音楽・映像の両面からどんな存在が誕生するのか、目を離さずに見守りたい。(須永兼次)