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『まんぷく』や『忘却のサチコ』など、今ドラマで人気の「いっぱい食べる女の子」をYouTuberに見つけてみる

2018年11月12日 07:42  リアルサウンド

リアルサウンド

 食欲の秋に『まんぷく』と『忘却のサチコ』というふたつの“食”ドラマが放送を開始し、そこに登場するおいしそうにいっぱいごはんを食べる女の子が注目を浴びている。そこでふと考える。漫画やドラマ、映画、小説などの「物語」における“食べる”という描写になぜ私たちの心は動かされるのか。本稿では“食”と“ポップカルチャー”の相関関係を考察しつつ、YouTubeという新生かつノンフィクションなカルチャーに「いっぱい食べる女の子」を見つけてみたい。


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「食べること」は「生きること」


 『まんぷく』第19話、戦時下で満足のいく食料が得られないなか福子(安藤サクラ)は、「人にとって何より大事なのは、食べることでしょ」と言葉を発しながら、その少ない食料でも工夫しておいしいごはんを作ろうとする。そこには、生きるためにおいしいごはんを食べよう、という福子の強い意志がうかがえる。また『忘却のサチコ』において、結婚式で新郎に逃げられたサチコ(高畑充希)の、その理不尽な現実を「忘却する」ためにおいしいごはんを求めるという行為。その行動が逃避ではなくポジティブなイメージを伴って見えるのは、それは食べることが生きることに直接つながる行為だからなのだろう。


 生きるために食べる、または食べるために生きる。どちらでも構わないのだけど、彼女たちが厳しい現実と対面しつつ、それでもその先で「おいしいごはん」へとたどり着く姿に私たちは心を掴まれて、その下のほうでおなかがぐぅ~っとうなる。どんなに苦しくても、おいしいごはんを食べていれば生きていける。それは食の天国・日本において、数多のポップカルチャーが描いてきたテーマであり、この世界へ向けた祈りのようなものだ。


「食べること」が受容するもの


 『まんぷく』の安藤サクラと『忘却のサチコ』の高畑充希。奇しくも食のドラマに女性がふたり連なったわけであるが、今回、YouTuberに「いっぱい食べる女の子」を見つけてみるという試みの中でその前にひとつ論じておきたいのは、食×エンターテインメントがこの社会を映し鏡として反映してきたことだ。特に挙げられるのは「ジェンダーバイアスの排除」と「ひとり飯の楽しさ」を受容してきたこと。


 まずジェンダーで言うと、『美味しんぼ』から始まり、『クッキングパパ』、『孤独のグルメ』と続いた男性主人公の初期グルメ漫画ブームの系譜が、近年では『花のズボラ飯』、『ワカコ酒』、『山と食欲と私』など女性主人公の物語の増加など広がりを見せていること。また、テレビドラマにおいてかつて頻発した「女性がたくさん食べる=失恋」だけに絞られていた描写(『忘却のサチコ』はそういう物語なのだけど)。それが、例えば仕事終わりに一杯飲んで帰る『獣になれない私たち』の深海晶(新垣結衣)の姿や、ドラマ『カルテット』の巻真紀(松たか子)による「泣きながらご飯食べたことある人は、生きていけます」というセリフとそのシークエンスなど、「女性が食べる」という描写がもう少し多様性を帯びて一般化していったことが挙げられる。


 グルメカルチャーは「ひとり飯の楽しさ」もうまく表象している。「ぼっち飯」という否定的なワードの誕生とは対極的に、である。上に挙げた漫画群もほとんどが「ひとり飯」を描いている作品だ。これには、「食べること(あるいは料理を作ること)」がインスタ映えなどのトレンドとともに、「小説を読むこと」や「音楽を聴くこと」と同じ類のものとして趣味化していったという側面もあるだろう。人と食べるご飯も楽しいし、ひとりで食べるご飯も楽しい。そこには優劣などなく、食と生への多大なる肯定のみが存在している。


 ただ、そのように社会や文化が変わってきているとはいっても、「(ひとりで)人の目を気にせずにいっぱいごはんを食べる」という行為はそう簡単に実行できるものではないかもしれない。だからこそ、YouTuberというリアルな存在に自分の姿を投影してみようではないか。前置きが長くなったが、本記事はそういう試みである。


「いっぱい食べる女の子」はるあん


 食材、調味料、調理器具、そのすべてに愛とこだわりをもった料理系YouTuber。YouTuberらしくサムネ映えを意識したおっきくて量の多い料理を作るのも特徴的なのだけど、何よりも魅力的なのはほんとうに楽しそうに料理を作って、楽しそうにたくさん食べるところ。


 つくづく思うのは、女性のほうが男性より食べることが好きなんだろうなということ(女性は別腹というふたつめのお腹を隠し持っているらしいし)。彼女はまだ高校生だというから、その食への愛が今後どこへつながっていくのかも気になるところだ。BGMや編集のポップさにも惹かれる。橋本愛主演の映画『リトル・フォレスト』のような(食材も含めた)瑞々しさとほのぼの感が楽しい。


「いっぱい食べる女の子」岡奈 なな子


 はるあんとはガラッと変わって。大雑把な料理、華奢な体に対して大きすぎる茶碗、大きすぎるひとくち、築45年の元おばあちゃん家で撮っている(住んでいる)という画面背景に感じる懐かしさなど魅力に溢れているYouTuber。


 オープニングの一風変わった音楽に合わせて時に軽やかな舞を見せながらショットが次々と変わっていくところなんか、ほかの YouTuberには見たことないタイプでハマる人にはズドンとハマってしまうタイプのそれだと思う。YouTuberといえば視聴者に話しかけることに注力するのが一般的だけど、彼女は無理に話そうとしない。無言で料理を作って、無言でごはんを食べることもよくある(なのに10分以上の動画が多い)。


 そんな静かな動画だけれど、見ていると何故だかすごくおなかが空いてくるし、どうしようもなく料理が作りたくなる。極めて庶民派の食材と調味料しか使っていないから、ハードルが低くて真似したくなるんだろうな。雑ではあるけれど一応料理はおいしそうに見えていて、彼女が大口開けて食べることによってさらにおいしく見えるのが、このチャンネルの魅力だと思う。


 結局いっぱいごはんを食べている人を見ると、おなかが空いておいしいごはんが食べたくなってしまう。YouTubeではASMR(心地よい音を楽しむ)の食事動画なんかが人気だけど、視聴者は見ていておなかが空いてこないのだろうか。私はその欲に抗えず、夜食に手が伸びてしまいそうだ。


(原航平)