F1第20戦ブラジルGPのインテルラゴスのメディアセンターは、少し変わった場所にある。3年前までは、ピットビルの上にあったが、2年前からピットと駐車場の丘の中腹にある倉庫の一角の1コーナー寄りに移動した。
その場所はもともと倉庫ということで窓ガラスの遮音性が低い。自然吸気時代だったらうるさくて仕事にならなかったのだろうが、現在はターボなのでエキゾーストノートを楽しめるくらいのちょうどいい環境にある。
そこで各マニュファクチャラーのエンジン音を聞き比べていたら、ときどき、まったく違ったエキゾーストノートを奏でて2コーナーを立ち上がっていくマシンがあった。そのたびに窓の外を見て、どのマシンかを確認していたら、それがフェラーリの2台のマシンだということがわかった。
その音は常に発しているのではなく、2コーナーの立ち上がった直後に聞こえてくる。しかも、その頻度は2周に1回。つまり、エネルギーを充電するチャージラップではなく、アタックラップの際に発せられる。その音は、エンジンの排気音とはちょっと違った変わった音のため、フェラーリが通過したときは思わず窓の外を見てしまうほど独特なものだった。
通常のターボの排気音が「ボォォォーー」と音で、アクセル開度によって強弱がつけられるが、その独特の音は「バッシャャャーー」という音でアクセル開度とは関係なく、2コーナーを立ち上がった瞬間に自動的に発せられるように聞こえてくる。
この音の存在については、シーズン序盤にメルセデスのあるエンジニアから聞いていたため知ってはいたが、メディアセンターはホームストレートの途中のピットビルの上か、コースが見えないガレージにしかないため、これまでは気がつかなかった。
ただし、コース脇で取材しているカメラマンはその音を以前から聞いていたという。
■ホンダの田辺豊治F1テクニカルディレクターも、フェラーリPUの音を直接確認
ホンダの田辺豊治F1テクニカルディレクターは、2018年の第12戦ハンガリーGP直後に行われたハンガロリンクでのインシーズンテストの際にコースサイドに行って、その音を直に確認したと語る。
「高速で空気が抜けていくような音なので、例えばウエストゲートを通った排気ガスがテールパイプから高速で抜けていっているのかもしれません。ただ、そこで抜くことでどんなメリットがあるのか」
ウエイストゲートとは、ターボを回すための排気の持つ熱エネルギーの余った分を逃がすための弁である。15年まではウエイストゲートから逃した排気はタービンハウジングに組み込まれて、通常の排気管から排出されていたが、16年からはウエイストゲート専用テールパイプが全車義務づけられ、ウエイストゲートを通過した排気専用の独立したテールパイプから排出されている。狙いは、排気音を大きくするためだった。
さて、フェラーリの独特の音の話に戻ろう。もし、それがウエストゲートに関する音だとしたら、メリットはなんだろうか?
考えられるメリットは、ウエストゲートに排気ガスを送り込むことで、排圧を下げてエンジン(ICE)の動力損失を減らすことだ。
しかし、ウエストゲートに排気ガスを送り込めば、当然ターボの仕事量が減り、MGU-H(熱エネルギー回生システム)の性能が下がるというデメリットがある。レギュレーションではMGU-Hの回転速度は、毎時12万5000回転を超えてはならないとなっている。
ただしMGU-Hはターボに機械的に連結していなければならないが、MGU-Hに対しては速度比が比例していればいい。つまり、ギヤ比で12万5000回転以上回るような仕組みを作れば、MGU-Hの仕事量を落とさず、かつエンジンの出力も上げることができるのではないか。
レッドブルのピエール・ワシェは「われわれはエンジンマニュファクチャラーではないので詳細はわからないが、GPSのデータを見る限り、フェラーリの低速コーナーの立ち上がりスピードは異様なほど速いことは確認している」と言う。
ブラジルGPではフェラーリだけでなく、フェラーリPU勢が好調だった。フェラーリはいったい何をしているのか。ルイス・ハミルトンのドライバーズタイトルは確定したが、謎は残されたままだ。