タイトルがかかったスーパーGT第8戦もてぎの予選で、見事、2戦連続でポールポジションを獲得したARTA NSX-GT。ホンダNSX-GTとしては前戦オートポリスの予選に続いての、2戦連続予選ワン・ツー・スリー独占と、今回も圧倒的な速さをみせることとなった。この最終戦の予選はノーウエイトハンデのため、マシンとドライバーの純粋な速さを比較することができる。2019年シーズンの3メーカーのマシンの勢力図はどのような形となったのか。
予選順位で一目瞭然なのが、ホンダNSX-GTの速さだ。特にNSX+ブリヂストン装着車が安定して上位を独占し、ライバルを引き離している。
一方、昨年まで圧倒的な速さをみせたレクサス陣営は、今年、4戦目で勝利を挙げると中盤戦から3勝を挙げたが、それはライバルのウエイトハンデが重くなってからの勝利だった。今回の最終戦でもある意味象徴的だったのが、このもてぎを得意としているレクサス陣営がNSXにまったく敵わなかったことだ。
RAYBRIG NSX-GT、そしてKeePer TOM'S LC500、ARTAと同じくタイトル獲得の可能性が残されていたau TOM'S LC500は、Q1を担当した中嶋一貴がまさかのQ1ノックアウトとなってしまい、大逆転でのタイトル可能性が大きく遠のいてしまった。
「アタックは3コーナーでリヤロックしてしまい、気持ちを切り替えてもう1周いったんですけど、普通にアタックしている状態でS字でミスをしてしまいました。大きく飛び出しそうのなって、もう『さよなら』というくらいだったかもしれません。リヤを滑らせてしまいましたが、部分的にリヤがそうなりやすい部分があったのかなと思います」と予選Q1を振り返る一貴。
「たとえアタックがうまくいっても、Q1を通っていれば御の字くらいのレベルだったと思います。そんなにクルマが良かったかというと、そこまでではなかったという気がしています。ちょっと今回、何か噛み合っていないですね」と話すように、レクサス陣営としては4番手のZENT CERUMO LC500のタイム、1分36秒1が今回の上限タイムとの見方が強い。ZENTは今回、今季最もセットアップに手ごたえを感じているようだが、それでも予選一発ではPPのARTA NSX-GTのタイム、1分35秒5とはコンマ6秒のギャップがある。
また、ニッサン陣営としてはMOTUL AUTECH GT-RでQ1を担当した松田次生がバックストレートエンドのブレーキングで突っ込みすぎてしまうミスがあったようで、Q1でノックアウト。CRAFTSPORTS MOTUL GT-RがQ1を突破したが、Q2では最後尾の8番手となってしまった。タイムとしても、GT-R陣営の最速タイムはQ1での千代勝正の1分36秒913と、Q1トップのRAYBRIGと比較するとコンマ6秒の差がある。
“タラレバ”で次生のミスがなかったとしても、「ポジション的にはひとつかふたつしか変わらなかった」と話すのはMOTUL GT-Rの鈴木豊監督。今回の予選では、CRAFTSPORTS MOTUL GT-Rのタイムが今年のクルマの限界のタイムだという見方を肯定した。
「他車のクルマに比べてダウンフォースが少なめのロードラッグ傾向のクルマなので富士などL/Dが求められるサーキットでは分がありますが、そうではないサーキット、SUGOとかオートポリスでは厳しくなる」と今年のGT-Rの特性を話す鈴木監督。
その車両特性とあわせて、エンジン面の開発とパフォーマンス差がホンダ、レクサスに比べて厳しい状況となってしまったようだ。エンジン開発については「ウチも開発をしていますけど、ライバルの比ではなかった」と、鈴木監督は開発面での遅れを認める。
その中でも、今回のノーウエイトのもてぎ戦では、今季からGT500にステップアップしたCRAFTSPORTSがGT-R陣営トップの8番手となった。Q2を担当した本山哲が振り返る。
「チームとしてここ数戦、原因不明の不調になっていたけど、チームがいろいろクルマを直そうとしてくれて、今回トライしてくれた部分がいい方向にいった。これまではアンダーステアからオーバーステアへ、全体的にステアバランスの変化が大きかったのが改善した。ドライバーとしてはニュートラルなステア特性の、きちんと攻めやすいクルマになった。現状のベストだと思う」と本山。
GT-Rの今シーズンについても「ミシュランがのタイヤがマッチしなかった影響がニッサン&ミシュラン勢としてはあるけど、他メーカーのパフォーマンスアップがある。ライバルメーカーのパフォーマンスアップ、エンジンパワーとダウンフォースアップの部分の差が大きくなっている。特に予選では、QFモードでのパワー差は感じるところがある」と本山。
予選のホンダの速さに関しては、レクサス、そしてニッサンの両メーカーはともに素直にその速さを認める一方、レースに関してはまだまだホンダと互角に戦える手応えをもっている。
「明日も『実際には厳しいのかな』と思うけど、今日の予選のウォームアップの周回数をみても、ミシュランはライバルよりもレースで強いと思う」と話すのは本山。
スーパーフォーミュラをみても、ホンダエンジン勢の今季の予選の速さは特徴的だ。現時点ではエンジン面でホンダ陣営が一歩先に進んでいるとライバル陣営は見ており、その一方で、レースでのタイヤと路面のマッチング、セットアップや戦略面でレクサス、ニッサン陣営にアドバンテージがあるようで、予選と決勝で、メーカーごとにマシン特性、戦い方の方向性が広がっているのが今年の3メーカーのマシンの特徴でもあった。
最終戦の決勝は、マシンの速さで優位に立つNSXのタイヤマネジメントがポイントになりそうだ。前戦のオートポリスではホンダのブリヂストン勢は予選でソフト目のタイヤを選択。レクサス陣営はミディアム傾向だったため、NSX+ブリヂストン陣営は決勝の第1スティントではピックアップの問題とタレが大きくてペースダウン。タイヤマネジメントに苦労してレクサス陣営の逆襲を招いた。今回のもてぎの予選ではNSX+ブリヂストン陣営はミディアム傾向を選択し、レクサス+ブリヂストン陣営と同等のコンパウンド傾向とのことから、オートポリスほどの勢力転換はなさなそうな見込みだ。
また、シーズン終盤に不振に喘いだニッサンGT-R陣営だが、今回のもてぎではいくつかトラブルもあったようだが、その中でもMOTUL AUTECH GT-R、CRAFTSPORTS MOTUL GT-Rのミシュラン陣営の雰囲気はオートポリスよりも良さそうだ。予選よりも決勝に向けたタイヤ選択をしているとのことで、今回は路面ともマッチングに手応えを感じており、レースでの巻き返しに期待が高まる。
RAYBRIG NSX-GTとKeePer TOM'S LC500の実質一騎打ちのタイトル争いも、現在の状況ではRAYBRIGが優勢と言わざるを得ない。天候も安定していることから、あとはトラブルやアクシデント、そして周回遅れのGT300とのトラフィックやピットストップ作業、そして、同メーカー内でのコース上の協力体制がレースの鍵を握ることになりそうだ。