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相葉雅紀、2人の女性に見せた異なる優しさ 『僕とシッポと神楽坂』が描いた“親と子”

2018年11月10日 16:42  リアルサウンド

リアルサウンド

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 東京・神楽坂を舞台に、若き獣医師・高円寺達也(相葉雅紀)と動物、そして飼い主たちの心温まる交流を描いたドラマ『僕とシッポと神楽坂』(テレビ朝日系)。第5話では、トキワ(広末涼子)と息子・大地(矢村央希)、すず芽(趣里)と母親・咲江(池谷のぶえ)を通じて「家族」の物語が描かれた。第5話は彼女たち家族の物語が中心で、動物と飼い主たちとの交流は少なめだ。しかし達也を演じる相葉の自然な立ち振る舞いが印象的な温かい回となった。


 特に今回、達也のトキワ、すず芽に対する心情の違いが感じられる相葉の演技が印象的だった。ドラマ開始早々から、徳丸(イッセー尾形)にトキワとすず芽との関係についてからかわれ続けていた達也。第5話で相葉が見せた表情には、トキワに対する好意を感じさせるものがあった。夫・佑(眞島秀和)の帰りを待ち続けるトキワを優しく支える達也だが、彼のトキワに対する想いが、信頼から純粋な好意になりつつあるのが伝わってくる。


 第5話は、「セキセイインコを預かってほしい」と、すず芽が「坂の上動物病院」へやってくるところから始まる。すず芽の母・咲江の入院に伴い、彼女が大切にしているペットをすず芽が急遽預かることになったのだ。芸者の道を歩んだことで咲江との不和が生じたすず芽は、母の大切なペットの世話をすることと、母のお見舞いに難色を示す。


 一方トキワも、夫・佑の両親から「大地を返してほしい」と言われたことに悩んでいた。大地も佑の両親の家に泊まった日に、2人から「トキワのもとから離れて、自分たちと暮らさないか」と持ちかけられる。


 トキワは夫の両親から言われた言葉が胸に引っかかるようで、どこか上の空な表情を浮かべている。そんなトキワの微妙な変化に気づいたのか、心配そうな顔でトキワを見つめる達也の顔が印象強く眼に映った。


 劇中、難産に陥ったペットの犬が「坂の上動物病院」に駆け込んでくるのだが、その出産補助の処置を行っている最中にも、トキワは「大地を返してほしい」という彼らのことで頭がいっぱいになってしまう。彼女の普段と違う様子に気付きながらも、獣医師として冷静にトキワと向き合う達也。相葉は達也を演じる中で、獣医師としての職務に全うしながらも、トキワのことを心配している彼の姿を体現していた。


 動物看護師として処置に向き合えなかったことを反省するトキワに、達也は自分の生い立ちについて話し、彼女の心を解きほぐそうとする。達也の口から出た「母さんはいるだけで、それだけでいいのに」という言葉は、自分の母親に対する思いだけでなく、トキワの心を励ます思いもあったのではないだろうか。


 劇中、大地が「夫・佑の連れ子」だということが判明する。「大地から父親を奪ったのはわたしの方なんです」と話し、涙を堪えるかのように俯くトキワ。優しく声をかけながらも、彼女をどう励ましたらいいかわからず戸惑う達也の様子から、彼女に対することだととても慎重になる彼の純朴さが伝わってくる。酔いつぶれたトキワをおぶって帰る達也の、彼女に声をかけるでもなく、安心して眠っている彼女を起こさないように歩く姿が印象的だった。


 一方ですず芽に対する達也の姿は、まるでお兄ちゃんのようだ。母親から預かったインコの様子がおかしいと慌てふためくすず芽に対し、冷静な処置を行う達也。インコを助けてほしいと頼むすず芽の手を握り、「すず芽ちゃんの思いは受け取りました」と言う彼の目はすず芽のことをしっかり見つめている。そこには、トキワに対して見せる表情はない。


 卵詰まりを起こしていたインコの処置が終わった後、達也はすず芽の横に座る。母親との関係に悩むすず芽に「お母さんにはすず芽ちゃんがいるでしょ」と優しく語りかける達也。昔から達也の家を出入りしていたすず芽は、達也にとって妹に近しい存在なのかもしれない。彼女の心に寄り添い、彼女と母親の関係がよくなってほしいと願う達也の姿は、お兄ちゃんそのものだった。


 第5話はトキワと大地、すず芽と咲江の関係が重点的に描かれた。その中で相葉は、彼女たちを見守る立場を自然に演じ、主役としての存在感がおざなりにすることはなかった。相葉の自然な存在感は物語をバランスよく発展させている。


 また毎話挿入される手術シーンでの相葉の目つきは見事だ。達也を取り巻く物語がどんなに大きく動こうとも、相葉は彼の獣医師としての姿勢を決して崩さない。トキワが手術中上の空だったとき、彼は1人の獣医師としてトキワに指示していた。手術中の彼女の行為を一切責めないのは優しく穏やかな達也らしいが、相葉の動物たちと向き合うときの演技にブレがないことが、物語にメリハリを出している。(片山香帆)