2018年11月10日 14:22 リアルサウンド
新しい時代の落語を目指していた助六(山崎育三郎)は師匠である七代目有楽亭八雲(平田満)と衝突し、波紋となってしまう。そして落語のためにと菊比古(岡田将生)に別れを告げられたみよ吉(大政絢)と助六は、心に空いた穴を埋めるように一緒になった。
11月9日に放送されたNHKドラマ10『昭和元禄落語心中』では、八代目の後継を巡る問題もいよいよ佳境に近づいていた。八雲に特別な想いのある助六と、自分を拾い育ててくれた師匠に恩返しをしたい菊比古の想いがぶつかっていく。そんな2人を揺さぶり翻弄させるのが、大政演じるみよ吉だ。
落語の噺において男を惑わせるのは決まって吉原の遊女である。艶のある女性が男に貢がせ、金に困り果てるという噺は多く存在する。芸者であるみよ吉もまた、菊比古と助六の人生を大きく揺り動かす。
みよ吉は戦時中、満州で男に色を売って生き延びてきたという過去がある。捨てられることを極端に恐れるみよ吉は“自分の居場所を作るための方法”をこれしか知らない。菊比古もまた、出生から自分に居場所がないことを悩み続けてきた。しかし、みよ吉と出会ったことで、落語に居場所を作ることができた。互いに惹かれ合っていたが、菊比古は自分の落語を完成させるため、みよ吉と別れる決断をした。聴衆を惹きつける魅力的な落語で人気を得ていた助六だけが、破門によって自分の居場所を失ってしまったのだ。
相手に合わせて生きてきたみよ吉は、助六に対し「女なんて求められればいくらでも変われるんだよ」と冷たい声色で言う。これはみよ吉が辛い過去から見つけた居場所を作る方法だ。だが、みよ吉がこうした本心を伝えるということは、助六に心を開いている証拠だろう。2人の間にできた子供との将来を楽しげに語るみよ吉の姿は、幸せそのものだった。
みよ吉が田舎で出産をするため、助六も東京を離れることとなった。菊比古に別れを告げにきた助六だったが、助六に落語を続けて欲しいと思っている菊比古と衝突してしまう。迎えにきたみよ吉と一緒に家路につく助六と、かたや1人で稽古に入る菊比古が対照的に描かれている。
孤独な落語に自分の芸を見出していた菊比古はこれで完全に1人となった。そして落語にはどんどんと磨きがかかっていったが、大好きだった助六の落語を忘れられずにいた。みよ吉が、菊比古と助六を、そして助六と落語を引き裂いてしまったのだ。
先述の話に戻るが、落語で表現されている“女性像”が本作にも強く表れているのがみよ吉という女性だ。これから家庭を築き幸せな将来に向かっていくようにも思えるが、過去の経験から悲壮感が漂い、辛い結末が待っているのではないかと予感させる。次週、菊比古の過去編も佳境を迎え、助六とみよ吉の死についても明かされるはずだ。果たしてみよ吉は幸せな人生を送ることができたのだろうか。
(馬場翔大)