2018年11月10日 10:42 弁護士ドットコム
鉄道会社の経営はどうなっていて、どんな戦略をとっているのか。普段使っている皆さん、考えたことはありますか。「乗り鉄」や「撮り鉄」など鉄道ファンの皆さんとはまた違った視点で、鉄道会社の実像に迫りたいと思います。(平木太生弁護士・公認会計士)
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今回、分析するのはJR東日本、東京地下鉄(メトロ)、小田急電鉄の大手3社です。各社が公表しているセグメントは、それぞれ若干異なるものの、概ね、運輸業(いわゆる鉄道業)、流通業(いわゆる百貨店等)、不動産業(いわゆるマンションやホテル事業)、その他の4つに区分されています。
セグメントとは「その会社が扱っている事業の分類」くらいに考えるとわかりやすいです。有価証券報告書(有報)にはセグメント別の売上や利益の開示が義務付けられており、有報を見ることでその会社がどのような事業を行い、どこに注力しているのかがわかります。
それでは各社のセグメント別の売上比率、営業利益の比率を見てみましょう。割合で見ていくのは、あまりにもJR東日本の規模が大きく、金額での比較だとわかりにくいためです。なお営業利益とは、売上高から売上原価と販管費を引いたもので、「本業のもうけ」だと捉えてください。
各社の経営戦略が如実に現れています。まず注目すべきは、各社の売上に占める運輸の割合で、鉄道会社なのだから運輸業が中心かと思いきやそうでもありません。
運輸の売上割合は、メトロは87%、JR東日本は64%、小田急は31%。メトロは鉄道会社のイメージ通りほとんど鉄道で売上をあげていますが、JR東日本はおよそ3分の2、小田急にいたっては3分の1しか鉄道で売上をあげていないのです。
このことから言えるのは、まずメトロは鉄道に集中して投資する戦略であることです。小田急については鉄道に限らず流通や不動産に幅広く展開する戦略であることがわかります。JR東日本は両者の中間をいく戦略だといえます。
次に注目すべきは、営業利益に占める運輸の割合です。売上については各社の戦略がわかれましたが、営業利益ベースで見るとどこも運輸が最も大きな割合となっています。
このことから、運輸は収益力が高いということが言えます。商品を仕入れて売る形態とは違って在庫を抱えるということはないですし、人々の移動に欠かせないため価格(運賃)が多少高いと感じても利用者離れは簡単に起きにくいのです。
以上の分析を元に総合的に各社の戦略を考えてみます。メトロは一言で言うと「都会の足」。都市鉄道特化型の経営戦略です。場所は都心が中心で、地方まで伸びていないためレジャー施設なども作る必要が基本的にはありません。人々の都心の「足」として、その立ち位置を確立しています。
小田急は一言で言うと「地域の生活」。鉄道を主眼におきながらも様々な価値を提供する経営戦略です。都心から箱根方面へ路線を敷き、そこに観光スポットやレジャー施設、商業施設を配置することで、住む人、旅行する人に価値を提供しています。地域を丸ごと支えている存在だと考えられます。
JR東日本は一言で言うと「国民の礎」。総合的にバランス良く売上を上げる経営戦略です。関東から東北まで線路を有し、駅ビルも豊富で、利益率が高い地域も低い地域も手掛けることで広大なエリアを支えています。
今回は鉄道業界をセグメント情報から分析してみました。鉄道には様々な魅力がありますが、上場会社なら各社のホームページを見れば売上や営業利益などの数値を簡単に見ることができます。数値をもとに、経営戦略についてあれこれ想像する楽しさを是非多くの人に知ってもらいたいです。
【プロフィール】
平木 太生(ひらき・たいき)弁護士・公認会計士
在学中(大学3年)に会計士試験に合格し、卒業後の2009年4月、有限責任あずさ監査法人に入社。退社後に予備試験経由で、司法試験に合格。2017年12月に弁護士登録。財務会計に関する知識を生かしつつ、企業法務から一般民事まで幅広く手がけている。
事務所名 : 湊総合法律事務所
事務所URL:http://www.minatolaw.com/
(弁護士ドットコムニュース)