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petit miladyの音楽は“新たな一面”を手に入れた 初のオーケストラコンサートを見て

2018年11月10日 10:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 petit miladyが10月27日、東京芸術劇場コンサートホールにて『petit milady オーケストラコンサート~Happy Halloween!観に来てくれたらイタズラするぞ~』を開催した。


(関連:petit miladyの新たな大冒険はここから始まるーーふたりが踏み出した5周年への第一歩


 petit miladyは、悠木碧と竹達彩奈による声優ユニットで、結成6年目に突入。この日は、活動史上で初のオーケストラコンサートとなり、約60名で編成された東京ニューシティ管弦楽団と、楽曲のオーケストラアレンジ及び当日のピアノパートに大嵜慶子を演奏に迎えた。本稿では、昼夜二部構成となった同公演より、第2部の模様を振り返りたい。


 コンサートは、会場のシンボルであるパイプオルガンの演奏から幕を開けた。荘厳さを帯びた旋律は、ハロウィンの夕暮れ時にふさわしく、どこか不穏さすら感じられる。そして演奏後には、petit miladyがハロウィンコスチュームに身を包んで登場。怪しい雰囲気のまま「Black Snow White」を勢い込めて歌いはじめる。なかでも、弦楽器隊による臨場感に満ちたトレモロは、その怪しさを引き立てており、すでにこの日のコンサートに対する期待感が跳ね上げられた。


 4曲目「azurite」以降は、「箱庭のヒーロー」「YAYAKOSHI GIRL」を披露。ここからは、各楽曲で使用された楽器について詳しく綴りたい。「azurite」では、1番AメロからBメロまでをピアノが伴奏。主人公の沈んだ心が徐々に揺れ動く様子を静かに歌う。そしてサビ以降は、コンサートマスターも演奏に参加。いずれ訪れる愛する人との“別れ”を知らず、ただ広い青空を目指す儚い歌詞に、バイオリンの音色が色を添えていた。


 また「箱庭のヒーロー」は、一曲を通してピアノのみの演奏となり、二人の澄んだ歌声に心を預ける時間となった。1番Aメロでは、悠木が心の奥底から言葉を吐き出すように、気怠く声を発する一方、竹達は一言一言を細々と呟くように紡ぐ。そしてBメロ以降は、歌声に力強さを込めていく。ここでは、メロディの切り替わりごとに、歌声のトーンにメリハリをもたせることで、歌詞に描かれる強さや正義への疑問も、よりリアルに届いてくる。さらに、ポップテイストの「YAYAKOSHI GIRL」では、ギター、ベース、ドラム、ピアノと、ポップスにおけるフォーリズムが演奏の主軸に。終盤には、管弦楽団全体を交え、“YAYAKOSHIダンス”を披露したことも付け加えておきたい。


 本編も中盤に差し掛かり、このコンサートの目指したところが、段々と鮮明になってきた。そのひとつには、これまで発表してきた楽曲に、新たな楽しみ方を創出する意図があったのかもしれない。だからこそ、この日はオーケストラを招いたのだろう。通常のカラオケ音源やバンド演奏では、どうしてもカバーしうるサウンドの範囲は限られる。しかし、弦楽器や金管楽器をはじめ、使用できる楽器の選択肢を広げることで、様々な楽曲に備わる意外な一面に気づくことができた。


 あわせて、この日は全楽曲とも、原曲とは異なる穏やかなアレンジを施されたほか、そこで表現された各楽曲の世界観は、むしろ普段より明確にさえ感じられた。実際に、ピアノとバイオリンによる「azurite」から、バンド編成での「YAYAKOSHI GIRL」まで、多種多様な楽器を最適に使い分けられたことで、歌詞に込められたメッセージも掴みやすかったように感じる。多くのファンが終演後に「普段よりも歌のメッセージがすんなり伝わってきた」と口にしていたのも、おそらくはそのためだろう。また、今回はダンスを披露しないことで、良い意味で視覚的な制約があったことも、その一助になったと思われる。


 そして何より、そのようなステージを実現できた背景には、悠木と竹達が声優/シンガーとして卓越した技量を持っているからだろう。全楽曲がリアレンジされることで、新たな進行パターンを覚えるのはもちろん、曲調の穏やかさによって、二人の歌声にも注目が集まらざるを得ない。しかし、彼女たちは声優アーティストとして様々な歌声を使い分けることで、この難しい課題を乗り越えた。


 なかでも「箱庭のヒーロー」では、二人の歌声を通じて、それぞれの演技における特徴も確認できた。同楽曲において、悠木は激しい身振りを交えるなど、主人公になりきる“憑依型”、一方の竹達は悠木をサポートしつつ、自身の聴かせどころは外さない“俯瞰型”の声優/シンガーという印象を抱いた。互いに異なるアプローチを見せつつも、それがハーモニーのようにマッチすることで、結果としてこれまでの楽曲に新たな楽しみ方が与えられたのだ。これには、披露された楽曲たちも大いに喜んだに違いない。


 それぞれのソロ楽曲も歌い終えたところで、本編も終盤に。ラストナンバーは、2018年の声優楽曲界に誕生したマスターピース「360°星のオーケストラ」。プロデュースをhisakuni(SUPALOVE)が担当した同楽曲では、Bメロからサビへのブリッジで鳴る鉄琴の音色が、星の光瞬く様子を鮮やかに再現しているようだった。


 アンコールの1曲目は「SNOW // SLASH」。ここでは、ピアノ、第一、第二バイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスの各パートより、それぞれ1名ずつが登場。小編成で音の輪郭を細めることで、歌詞に描かれる雪降る静かな世界を表現した。そこから通常編成に戻り、最後には「アップデートの坂道」と「Fantastique♥Phantom」を披露。一日を通して、客席から初のコール&レスポンスが巻き起こったところで、ステージに幕が降りた。


 初のオーケストラコンサートを通じて、声優/シンガーとしての確かな技量を発揮するのみならず、楽曲の新たな楽しみ方を見出したpetit milady。来たる12月19日には、“バンド”をコンセプトにしたロックアルバム『Howling!!』をリリース。来年3月3日には、東京・豊洲PITにて同作を携えたワンマンライブを控えている。来たる春の訪れと同じく、petit miladyがあっと驚くパフォーマンスをしてくれる日が、今からとても待ち遠しい。(青木皓太)