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連載:空間演出ユニットhuez「3.5次元のライブ演出」 『CY8ER 4th ワンマンライブ』の仕掛けを解説

2018年11月10日 07:32  リアルサウンド

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 テクノロジーの進化に伴い、発展を遂げるライブ演出。「リアルサウンドテック」では、2018年3月に公開した「特集:ライブ演出はこう進化する」に引き続き、特集内でもインタビューを行った、空間演出ユニットhuezによる連載をスタート。同ユニットのとしくに (ステージディレクター・演出家)に、最新事例を通して、先端技術のその先にある、ライブ体験のより本質的なキー概念について、「3.5次元のライブ演出」と題して語ってもらう。第一回は、新木場STUDIO COASTで行われた「CY8ER 4th one-man live “SOUND OF ME”」を例に、企画の立ち上げから演出のポイントまでを追っていこう。(編集部)


(関連:tofubeats、水カンら手がける空間演出ユニット huezが語る、日本のライブ演出に必要なもの


ケース・スタディ「CY8ER 4th one-man live “SOUND OF ME”」


 CY8ERは、サウンド・プロデュースをトラックメーカーのYunomiさんが手掛けている。自分は、もともとYunomiさんの曲が好きで、キャッチーで引き込まれやすいメロディだが、曲の間のブレイクは、派手というか重くて、ハードコアな感じが出ているのがおもしろいなと思っていた。


 huezは原点がクラブだということもあるが、クラブミュージックから出てきている曲調だから、演出については、照明をクラブっぽく、本人が見えないぐらい光を出すとか、逆に暗くするとか、バキバキの映像をVJで入れるとか、そういうものが合いそうだなと。ライブを演出することになると、いちばん最初に、メンバーやスタッフの人と話をする。そこで、「自分たちが見えなくてもいい、画として全体がかっこいい方がいい」とメンバーからも言われて、直感は正しかった。


 そこから、こんなことがやってみたい、というアイデアを一つ一つ詰めて、演出を考える上でのゼロイチの欠片としてもらっていく。それで、今回はLEDディスプレイの映像と、ムービングの動きと量の噛み合わせ方がポイントだなと。実際、今回はムービングの量がすごく多くなった。これを前提として、どういう舞台美術がいいだろうと考えていく、というのが制作の出発点だ。


 今回の美術は、huezと、sid yuuriさんという、うちといつも一緒にやっているアートディレクターさんとで組んで、要望と条件のなかで、美術デザインを何コか出して、あとは会場でそもそも現実的に可能なのか、予算にはまるか、というところを、舞台監督さんや、スタッフさんとやりとりしていく。


未来のディストピアみたいなイメージ


 結果として今回、組んだ美術のテーマは、“未来感のあるディストピア” というイメージになった。これはCY8ERと話したときに、今回のライブ以外にも、これまでの活動と、これからの方向性をヒアリングしていて、そこで感じた、「未来感」と「非人間感」という、2つの要素を組み合わせて前面化してみたものだ。


 これを見栄え的に見せるには、どういう形にするのがおもしろいだろうか。自分は消去法で演出をつくっていくので、「マルマルではない」と絞り込んでいき、最後にいくつか出てきた選択肢のなかから、「この箱の条件でいちばん見栄えが良くなるのはどれか」と考える。そして最後に選択したものがコンセプトと噛み合っているかを確認する。


 そうして今回出てきたのは、「単管」ーー工事現場などで組まれている足場だ。その固まりが2コどんとステージの右左にあり、真ん中にLEDディスプレイがあって、単管にできる限りの照明を詰め込む、という構造になった。未来のディストピアで、派手なライブをしている、という見栄えは面白そうだなと。


演出はグラフィックだけではない


 今回やったのは、舞台美術の案を出して、セットリストを組んで、照明もレーザーも、映像も、という総合演出。そのため、演出のテーマもある。これもあくまでCY8ERから感じた要素で、一つはしつこさと、あと気絶するような瞬間をつくる。ただ、これは自分の感覚とも一致していて、作家性が強く出たと思う。


 自分の演出は、ライブにおいては、「笑い」と「ホラー」の構造を基盤にしていて、今回は、ホラーに寄ったつくり方になった。フラッシュバックするようなーーただ、それを怖がらせるんじゃなく、感動させたり、びっくりさせたり、かっこいいと思わせる、ということだけに特化させている。


 ライブを一本見たときに、一カ所でもいいから、忘れられない瞬間をつくる。自分の演出のなかで観客が見て聴いた曲は、これがいちばん記憶に残るようにと。ある種、演者と曲に競り勝つような。演者と曲を食うような光の演出をするし、曲と照明を食うような演者の演出もする。だから総じて、きわめて攻撃的だと言える。


 そのために、緩急はかなり意図的につくっている。メリハリというレベルではなく、もう違うライブが2コつづいている位の差だ。あんまりストロボ感やフラッシュ感が強いと、気持ち悪くなってしまう人は見れないかもしれない。でもそれでも「見れなくてもいい。ごめん」と思って、超攻撃的な光という演出をしている。各ブロックで、各曲で、一撃でもフラッシュバックが起きるような状態というか。


 1時間とか2時間という時間の軸と、その空間。自分はその両方を扱って演出をしているから、ライブに来ないと分からないようになっている。何故なら、演出はグラフィックだけではないから。「色がすごく強いグラフィック」というのは、取り扱ってる部分が根本的に違う。グラフィックだけが強い空間は、とても平面的だから、飽きてしまう。そこで終わってしまう。


 そうではなく、空間という3次元と、時間という4次元に、どれだけ色を持たせられるか。時間軸を入れ、お客さんの時間を飛ばすタイムストレッチをつくり、瞬間瞬間で空間をスケールフリーにする。強いグラフィックは、演出のなかに組み込めるから、ちゃんと演出のなかに組み込む。そういう意味でグラフィック部分は、アートディレクションする人たちをしっかり立てる。


空間ディレクターの見せどころ


 自分の演出は基本的に、ハードから最初につくる。何故かと言うと、ライブハウスやクラブは、形が決まっていて、つまり条件が限られているからだ。そうすると、この条件の箱のなかで、果たしてどんな舞台美術を入れてやったらおもしろいだろうかと。だからハード面のできることを先に限定して潰してしまう。


 箱の制約は、ストレートに言うと広さだ。それに応じて置けるものが限定されるし、使用できる機材も変わってくる。その上で、映像のあるなし、舞台を拡張するかどうか、などを判断していく。もちろん予算もあるから、それによって、入れられるもの、入れられないものが発生する。あとは会場の電気容量も大きい。


 今回、舞台美術は比較的シンプルで、左右に単管があり、上にトラスが入っている、というある種シンメトリーのステージ。そして、目の前にメンバーの数だけお立ち台がある。また、条件にYunomiさんにDJをやってもらう、というのがあり、後方にDJブースを組んでいる。


 機材は、LEDディスプレイと、ムービングと、レーザー。LEDディスプレイは、センターに1面、左右に長っ細い「短冊」という形のものが2面、DJブースに1面。ムービングは34台、レーザーは17台入れたが、この規模なら通常、ムービング20台、レーザー6台も入れたら充分に派手な演出ができる。この規模でこの物量は聞いたことがない。つまり今回は、かなり勝負したということだ。


 自分は空間演出家だから、どのように空間を使ったらおもしろいかを考える。当たり前だが、ライブハウスの数は限られている。きっとオーディエンスの方々は、STUDIO COASTには何回も来ている。そこをいかにSTUDIO COASTのように見えなくするか、というのが一つ、空間ディレクターの醍醐味というか、腕の見せどころだ。


強行的にスケールを大きくする


 そうすると、この箱の条件で、空間設計のなかで、果たしてどんなセットリストを入れてやったらおもしろいか、ということも見えてくる。セトリを組むとき、全体の曲の並べ方はhuezの得意な人間に振っているのだが、ただ今回は、自分が細部まで指示を出して、やるべきだと思っているギミックを全解像度のなかに突っ込んでいる。


 解像度について言うと、まずいちばん大枠から決める。全体の波だ。その次にブロックの中身を決めて、曲で何をするかを決めて、「この曲のこの音でこれをやってください」という4段階のフォーカスを組んでいく。全体、ブロック、曲、音という4段階の細かさ。それによって統一性をとる、という。


 4段階を逆走するが、ワンマンライブを1曲1曲で見ない。さらに言うならブロックで見ない。さらに大きくすると、このワンマンライブの全体構成だけで見ない。じゃあ次のワンマンライブを考えましょう、2コ目、3コ目、先のことを考えましょう。CY8ERという大きな流れがどういうものなのかを考えましょう、ということだ。


 実際のところ、タイムストレッチを扱える演出家は少ないと思う。だからそれは自分の強みだと思うが、その強みをいい形で出すには、ワンマンライブ1コで考えない。スケールフリーにすると。どんどんスケールは強行的に大きくできる。そしてhuezはそのすべてに役割分担をかけている。


同じ曲を3回連続でやる


 今回、アンコールで「はくちゅーむ」という曲を3回連続でやったのだが、この曲は、CY8ERのライブを見たことない人でも知っているような代表曲で、通常はアンコールで使うような曲じゃない。これを本編で1回もやらないで、アルンコール一発目にどんとやる。それも3回連続。


 「はくちゅーむ」は、すごくお客さんが身体を動かす曲で、「もしかしたら3回もたないんじゃないか」とも思ったが、もうやってみてやろうと。1回目、やはりファンは、めっちゃ盛り上がる。それを、もう1回とやると、「もう1回だ」と喜ぶが、頑張らないとついてこれない。そういう意味では、ファンの人たちに「お前らついて来れる?」という、ちょっとした、いたずら心のようなものがあった。ただ、もちろん、そのしつこさの演出だけでは飽きられてしまうから、見せ方の演出ははっきりと分けて、全部を違うものにしている。


 1回目、これはストレートに、「まさにアンコール一発目っていう照明をつくってください」と。お客さんの席が明るくなって、ハッピー感が出て、みんなで一緒にどんちゃん盛り上ろうという演出。映像もレーザーも何も出ていない。照明と演者がいるだけという、いちばんシンプルなライブの見せ方。


 次の2回目は、この上にレーザーを重ねるのだが、「レーザーを立たせる照明に全部切り替えてください」と言って、照明の色味がなくなり、白のみ。レーザーと白の照明のみ。レーザーには、「音をはめられるだけはめて、出せる数全部使ってください」と。


 3回目はそこからさらに映像がのる。そのとき映像とレーザーと照明に言ったのは、「フルマックスで」と。「ほかのレーザー、照明、映像を立てなくていいから、全部自分たちでパンパンに出してください」という演出をとった。「でも、ここと、ここと、ここでは、レーザー立てる、照明立てる、映像立てる、というのは守ってね」と。


 もともとこのCY8ERというグループは、前回のワンマンのときにも「ごーしゅー!」という曲を3回連続でやったり、そもそも対バンライブで、同じ曲しかやらない40分間とかを平気でやる人たち。そういう意味で、その「しつこさ」の魅力をとったと言える。しつこさが効果的に使える人たちだと。


 そのしつこさと、いたずら心で、アンコールで同じ曲を連続でやってみたと。これはもう単純に、「はくちゅーむ」の演出のリミックスを3回連続でかけた、ということだ。その理想値までいけたかはわからないが、記録の角度が違ったら、違う箱でやった、違うワンマンライブに見えるぐらいの変化をつけた。


 音楽のDTMで使われている、リミックスやサンプリング、違う曲を上から重ね合せるマッシュアップという、そういった手法は、演出のギミックとして類推的に使うことができる。自分は、もともとは小劇場演劇をやっていて、それを拡張する形で、huezで演出を手がけているから、演劇だと同じ戯曲を違う演出で、というのは基本で。たぶんそういった意味で、演出家としてかなり攻撃的ではあるが、正統派でもあるんだと思う。


(渋都市)