いよいよチャンピオン決定戦となる、2018年のスーパーGT最終戦、第8戦もてぎ。スーパーGT500クラスのドライバーズチャンピオン争いは、同点でランキングトップの100号車RAYBRIG NSX-GTと1号車KeePer TOM’S LC500の実質、一騎打ちで争われる。
2週前にスーパーフォーミュラで2度目のタイトルを獲得したばかりのRAYBRIG山本尚貴は、今年のスーパーGTでもタイトルを獲得すれば2004年以来のダブルタイトル獲得ドライバーとなるが、その山本に今週末の抱負を聞いた。
まずはスーパーフォーミュラでのタイトルを獲得後、この2週間、山本はどのような時間を過ごしてきたのか。
「家族と過ごしていました。タイトルを獲って嬉しい気持ちで過ごせたのでいい時間ではありましたけど、ただやっぱり、今週末のスーパーGTのことがあるので、どことなく気が抜けない感じでしたし、どうしても今週末のことを考えてしまいますよね」
「ただ、家族はそのことを気に掛けないように普段通りに接してくれようとしていたので、ありがたかったです」
もてぎ搬入日の金曜日にサーキットに入った山本は、早速、チームメイトのジェンソン・バトンや、バトンのマネージャー、友人たちからも盛大な祝福を受けた。
「ジェンソンとは、もともとメッセージでやりとりしていましたけど、直接会って『おめでとう』と言ってもらいました。いろいろな方が祝福してくれて、もちろん、気分はいいですよね」
リラックスした山本の表情からは、2週間前に緊張した面持ちだったスーパーフォーミュラの金曜日とは、かなり違った雰囲気を感じる。
「スーパーフォーミュラと変わりませんよ。スーパーフォーミュラは金曜日から走行が始まるので緊張感がなかったわけではなかった。スーパーGTの金曜は走ることがないので今は特にプレッシャーも感じていないですし、スーパーフォーミュラでサーキットに入った木曜日もこんな感じでした」と山本。
「もちろん、明日になればまた変わると思いますし、変わらないといけないと思います。そういうスイッチを最近はうまく持てるようになったのかなと思います」
それでは、2004年のリチャード・ライアン以来、そして、ホンダのドライバーとしては過去に達成したドライバーがいない、(スーパーフォーミュラとスーパーGTの)ダブルタイトル獲得についてはどう感じているのか。
「これまでホンダでは(ダブルタイトル獲得は)いないですし、日本のモータースポーツの長い歴史の中でもリチャード(ライアン)が獲ったきり。こういうチャンスは何年に1回あるか、そう何回も来るものでもないので、獲れるときに獲りたいというのが本音ですし、意識せずにはいられないです。みなさんの期待があることも分かっていますし自分でも、もちろん獲りたいと思っています」
今週末のレースを考えると、100号車としてはタイヤのピックアップ(タイヤかすがタイヤ表面から取れずに付着したままになり、タイヤのグリップ低下を招く)と同様に、レクサス陣営、2台体制で参戦しているトムスチームの『チームプレー』が大きなポイントとなりそうな気配だ。
■メーカー同士の戦いの意義、プレッシャーをコントロールする山本
オートポリスではトムスチームのチームオーダー騒動が起きたが、チーム側は否定。チームオーダー自体はスーパーGTの規定違反ではないものの、ペナルティ対象となる可能性があり、どのチーム、ドライバーもこの話題に関しては口が重くなる。
それでもGT500クラスはメーカー同士の戦いであることが、このカテゴリーの魅力のひとつであることは間違いない。ホンダはメーカーオーダーを出さないことを明言しているが、山本はメーカーとしてタイトルを獲りに行くというレクサスの姿勢にも共感する部分があるという。
「それがGTの戦い方というか、メーカーも勝負をしているわけですし、チャンピオンを獲るためにルールの範囲内でなりふり構わずチャンピオンを獲るという気持ちは、何よりも大事だと思っています」
「周りからどう言われようが、最後にチャンピオンを獲ったものが勝ち。その気持ちと考えがあるからこそ、近年、レクサスがタイトルをたくさん獲得してきた所以があるわけですし、これまでのホンダが足りない部分だと思っています」
「スーパーフォーミュラはドライバーの個人の要素が強い競技で、各チーム単位で頑張ればチャンピオンが獲れる。でも、スーパーGTとなると、ドライバー個々、チーム個々というよりもメーカーの争いが色濃く出るレースだと思うので、きれい事なんて言っていられない。チャンピオンを獲るためにすべての力を結集して、そのメーカーがチャンピオンを獲るという意識を前面に出していかないと獲れないと思います」
「ただ、あくまでもモータースポーツというスポーツなので、メーカー色とか変な駆け引きが出てしまうと見ているファンとしても気持ちのいいものではないと思う。そこは履き違えちゃいけないと思っていますし、僕は真っ向から勝負したいなと思っています」
搬入日の山本の話しぶりからは、自分のレースのことだけでなく、自分が参戦しているカテゴリーへの責任感、そして現在のモータースポーツのあり方を模索するホンダのエースドライバーとしての覚悟を感じる。いろいろ気負いすぎて悩む山本尚貴もまた、山本らしいとも言えるが、スーパーGT最終戦に向けて、どんな気持ちでレースに臨めそうか。
「今は楽しみな気持ちが強いですが、予選が終わって決勝が始まるまでは不安が強くなっていくでしょうね。僕はこれまでも緊張しないレースなんてひとつもなかった、かつてはその緊張とプレッシャーに押しつぶされてレースウイークをうまく過ごせなかったり、結果に結びつかなかったレースも多かった」
「でも、スーパーフォーミュラの最終戦もそうだったし、特に今年はプレッシャーとの付き合い方や、プレッシャーが掛かったからこそ生み出される集中力や、見えない力が存在することを感じ取れたシーズンでもあった。今季最後のレースも、うまくレース結果に結びつくように気持ちのコントロールをしたいなと思っています」
スーパーフォーミュラで2013年以来となる2度目のチャンピオンの称号は、ドライバーとして、人間として、山本にさらなる自信を植え付けたのかもしれない。
「それもやっぱり、フォーミュラでタイトルを獲らせてもらえたからこそ、得られたものだと思います。獲らないと分からないこともあったので、タイトルを獲ってからここに臨めたのは大きいと思っています」
スーパーフォーミュラのタイトルを獲得したばかりの山本の相手は、昨年のスーパーGTチャンピオン。2年連続チャンピオンを目指すKeePer TOM’S LC500とRAYBRIG NSX-GTのタイトル争いは、プレッシャーとの戦い、ドライバーの意地、そしてメーカーの威信と、さまざまな要素と感情が交錯する戦いとなる。