映画『氷上の王、ジョン・カリー』の字幕監修、学術協力に町田樹が参加。コメントが公開された。
同作は、「氷上のヌレエフ」と称され、バレエのメソッドを取り入れた演技で1976年にインスブルックオリンピックのフィギュアスケート男子シングルで金メダルを獲得したフィギュアスケート選手ジョン・カリーを捉えたドキュメンタリー。同性愛者であることを公表した初のメダリストとなったカリーの競技者としての姿や、バレエを「男らしくない」という理由で断念せざるをえなかった少年時代の父親との軋轢、プロ転向後の苦悩を、自身が立ち上げたカンパニーによる世界各地での公演、1984年に来日した際の模様を映した映像や、関係者へのインタビューと共に綴る。公開は2019年初夏。
先月に埼玉・さいたま新都心のさいたまスーパーアリーナで開催された『フィギュアスケートジャパンオープン』および『カーニバル・オン・アイス』をもって、フィギュアスケーターとしての25年間のキャリアに幕を下ろした町田樹。同作について、「ジョン・カリーは、ともすれば『男が華やかに踊るなんてみっともない』と揶揄されるような時代に、芸術としてのフィギュアスケートをその生涯をもって追求し続けた孤高のスケーターである」「私たちは、今もなお多くのスケーターがカリーと同じような困難を抱えて氷上に立っていることを、決して忘れてはいけない」とコメントを寄せている。
■町田樹のコメント
ジョン・カリーは、ともすれば「男が華やかに踊るなんてみっともない」と揶揄されるような時代に、芸術としてのフィギュアスケートをその生涯をもって追求し続けた孤高のスケーターである。
この映画では、貴重な映像資料や身近にいた者の生の証言によって、様々な困難に抗いながらもアーティストとして生き抜いたカリーの人生を、彼が紡いできた珠玉の作品群と共に色鮮やかに甦えらせていく。
だが一方で、私はその華やかな舞台の裏で彼が一人抱えていた葛藤を目の当たりにした時、このスポーツを取り巻く諸問題が、未だ根本的に解決されていないことに愕然とするのである。私たちは、今もなお多くのスケーターがカリーと同じような困難を抱えて氷上に立っていることを、決して忘れてはいけない。