F1ジャーナリストの今宮純氏が2018年シーズンのタイトル争いを総括。セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)がタイトルを逃す原因となった6つのレースと、着実に勝利を上げてきたルイス・ハミルトン(メルセデス)の『対決譜』を振り返る。
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F1ドライバーズタイトルを獲り逃したベッテル、2018年『五冠王レース』の最終コーナーでハミルトンに逃げ切られた。どうしてもゴール前の接戦にもちこめなかった。
六つの後悔すべきレースがあった。
(1)第4戦アゼルバイジャンGP=48周目、1コーナーでブレーキ・ロック、オーバーランの末に2位から4位に転落
(2)第8戦フランスGP=スタート直後、1コーナーでバルテリ・ボッタスに接触、17番手後退から5位
(3)第11戦ドイツGP=終盤52周目、ザックス・ヘアピンでクラッシュ、首位からリタイア
(4)第14戦イタリアGP=1周目、ロッジア・シケインでスピン、18番手後退から4位
(5)第17戦日本GP=8周目、スプーンでマックス・フェルスタッペンと接触、19番手後退から6位
(6)第18戦アメリカGP=1周目、13コーナーでダニエル・リカルドと接触、15番手後退から4位
接触の末にポジションを大きく失い、そこから追い込むパターンを自らが強いた。それを尻目にハミルトンはアゼルバイジャンGPで1勝目、フランスGPで3勝目、ドイツGPで4勝目、イタリアGPで6勝目、日本GPで7勝目と、つぎつぎ勝ち逃げを決めた。こういうハミルトンの勝ち方とベッテルの負け方は、心理戦において大きなギャップが得点差以上に広がる。
■後半戦に勢いを増したマックス・フェルスタッペン
メキシコGP決定後、ハミルトンは言った。
「敵地であるモンツァでの勝利が心理的に、ベッテルと彼らにダメージを与えたという意味ではとても大きかった」
一方ベッテルは言った。
「ドイツGPやイタリアGPのミスよりも、第15戦シンガポールGPでメルセデスに戦力面で及ばなくなっていったのが“ターニング・ポイント”だ」
勝者と敗者の総括コメントには納得がいく。ただベッテルには悔いなく戦えたかと言えばそうではなかったと……、そんな思いがくみとれる。2018年シーズンも再びメキシコのエルマノス・ロドリゲス・サーキットでエンドロール。1年前に見たことのある長編映画をもう一度見せられているみたいな気もすこしある。
ふたりが主役の18年『対決譜・後編』にもうひとり、最優秀助演賞に値するのがフェルスタッペンだ。シンガポールGPからベッテルはハミルトンではなく、このレッドブル・ボーイにやられつづけた。
・シンガポールGP:ベッテル3位/フェルスタッペン2位
・日本GP:ベッテル6位/3位
・アメリカGP:ベッテル4位/フェルスタッペン2位
・メキシコGP:ベッテル2位/フェルスタッペン1位
ハミルトンとのタイトルマッチ・レースに立ち向かうだけでなく、フェルスタッペンとも戦わなければならなかったベッテル。それを象徴するシーンが日本GP鈴鹿のスプーン・カーブだった。“オーバードライブ”と(後に)言われようとも、いまここしかない4冠王の挑戦心がフェルスタッペンとの接触ではじけ散った。
――ファン・マヌエル・ファンジオさんのレースは見ていない。1995年7月に84歳でお亡くなりになる前、グランプリ会場に見えたとき遠くから拝見したことがある。背筋を伸ばし、さっそうと現れるオーラはまさに『5冠王者』だった。アルゼンチンの自動車修理工から支援を得て渡欧し、1952年に大事故を経験しながら57年ドイツGPに勝って達成された。その“人生史”が、ご本人を見てだぶってしまった。
浅黒い肌の22歳ハミルトンが半世紀を経てここまで至るとは、正直申し上げて想像はできなかった。38歳ファンジオが50年5月最初のイギリスGPに勝ってから68年あまり、ハミルトンも何かを犠牲にして何かを乗り越えて新5冠王となった。
敗れたベッテル、制したハミルトン。メキシコGPでのあのハグはふたりが今年ここまでで、最も安らぎを共感できる瞬間ではなかったか。