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佐々木亮介&アオキテツが語る、a flood of circleの今「ロマンチストで居続けたい」

2018年11月06日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 a flood of circleが、11月7日にニューシングル『13分間の悪夢』をリリースする。同作には、「ミッドナイト・クローラー」でタッグを組んだUNISON SQUARE GARDEN 田淵智也がプロデュースを手がける全3曲とボーナストラックを収録。


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 リアルサウンドでは、先日2作目となるソロアルバム『大脱走E.P. / The Great Escape E.P.』をリリースした佐々木亮介(Vo/Gt)と今作が正式メンバーとなって初めてのレコーディングとなったアオキテツ(Gt)にインタビュー。アオキが加入したことによる変化や田淵との関係性、ロックバンドでしかできないことなどについてじっくりと語ってもらった。(編集部)


■アオキテツ「バンドって、ガキでも誰でも勘違いさせてくれる」
ーーなんだか不穏なタイトル(『13分間の悪夢』)が掲げられたシングルなんですが。


佐々木亮介(以下、佐々木):はははははは。確かに「悪夢」だもんね。


ーーなんだなんだと思って聴いたんですが、特に「夏の砂漠」を象徴に、ポップなメロディと青春感の強い楽曲が印象的な作品で。歌の内容と突き抜け感からも、正式に4人体制になってのキックオフソングとして明確な意志を感じたんですが、二人としては、どういう作品ができたという実感がありますか。


佐々木:テツ(アオキテツ)が正式加入するっていうことを前作(『a flood of circle』)が出るタイミングで発表したんですけど、前作を作っている段階では、テツ自身はメンバーだと知らされないまま録音させられていたんですよね。だから、テツが正式にメンバーになって初めてのツアーを経て1作目っていう位置付けで作っていったシングルでした。俺自身はソロ作品(『大脱走E.P. / The Great Escape E.P.』)も同時に作ったこともあって、全国ツアー『a flood of circle TOUR -Here Is My Freedom-』を経験したことで、改めてバンドにはバンドのよさがあるっていうことを実感しました。


ーー個人的な表現のチャンネルを持ったからこそ、バンドでしかできないサウンドをさらに面白がれるようになったということでしょうか?


佐々木:そうですね。だからこそ、ロックバンドじゃなくちゃできないことを入れようと思った作品が今回のシングルです。テツが正式加入したこともあって、今のバンドのグルーヴをちゃんと表現したいと思ったし、それを引き出してくれる人として、田淵(智也)さん(UNISON SQUARE GARDEN)を全曲のプロデュースに迎えて一緒に作りたいと思いました。


ーー前作『a flood of circle』を振り返ると、あのアルバムには二軸あったと思っていて。トラップ以降のビートと歌の在り方をロックバンドとして消化していった曲。それともうひとつは田淵さんがプロデュースされた「ミッドナイト・クローラー」のように、アニメソングにも通ずる日本的な音楽を追求していった曲。日本のロックバンドにしかできないことを追求する気持ち、メインストリームの音楽に打ち勝つためにどういうアップデートが必要なのかという模索。その両方は佐々木さんが初期から持っていたものだと思うし、ある種、そのバランスが前作で一旦極まったと思うんです。その上で改めてロックバンドならではのものを追求したいと思ったのは、自身にとってどういう変化があったのでしょうか。


佐々木:前回のツアーでロックバンドとしてのよさを改めて考えた時に、やっぱり生のグルーヴを入れていきたいと思って。でも海外のチャートの曲やトレンドの曲を日頃から聴いていると、もうグリッドに沿ったビートしかないじゃないですか。ロックバンドとは言ってもドラムを叩いてなかったり、海外ではもうすでに生のグルーヴではないビートになっていたりする。じゃあ日本のロックバンドはと考えるとーー今年『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』に出た時に、バンドがあれだけ多いのに、俺らが出演した日にバンドとしての生のグルーヴを感じられたのはthe band apartとlocofrankくらいしかいなかったんですよ。そういうことも含めて、やっぱりロックバンドのグルーヴが伝わりにくい時代なんだろうなってことも痛感して。それについては曽我部恵一さんが秀逸なたとえをしてたんですけど、「みんなはベーコンを食べるのを楽しみにしてるから、floodみたいなバンドが来ると生の豚が来ちゃったと思うんだよ」と(笑)。


ーーすごいたとえ(笑)。加工食品ではない、ロック本来の生々しいサウンドとグルーヴがむしろ受け入れられないと。


佐々木:そう、加工されていないものをどう食べたらいいかわからないっていう。俺もまさにその通りだと思うんだけど。ただ、そういう時代だからこそ自分はソロの作品でグリッドに合わせたビートだったり、トラップ以降の音楽を消化してみたところもあって。


ーーバンドサウンドとは真逆の、トラップ以降のビートと歌を探求するような作品でしたよね。趣向の幅広い音楽探求家としての佐々木さん個人を表現したことでむしろ、バンドのグルーヴの面白さが浮き上がってきたということですか。


佐々木:実際に海外の音楽もずっと聴いているし、HIPHOPやR&Bっていう今のトレンドをどうバンドとして解釈するのかもずっと考えてきたけど、それよりも、バンド特有の生のグルーヴ自体をさらに面白く感じられるようになるんじゃないかっていう期待を込めてソロ作品を作ったところもあったんですよ。俺の音楽の趣味が散らかってるからこそバンドだけだと窮屈になっていくし、逆にソロで好き放題に作ってみると、バンドでしかできないことが見えてくる。たとえば面白いなあと思うのは、ロックバンドが手出しをできないくらいのところまでHIPHOPがポップカルチャーの真ん中に行ったにもかかわらず、XXXTentacionみたいにNirvanaを取り入れたり、バンドサウンドに対してラップでアプローチしていたり。むしろ彼らからしたら生のグルーヴが羨ましいのかな? って思うこともあるんですよ。それを見ていても、やっぱりバンドは何かをはみ出していくところがいいんだって思えて。その本質的なものを表現するにはもうクリックを聴きながら録音してちゃダメだなって。もっとグルーヴを大きく捉えて、ポストプロダクションをしっかりしていくことが必要だと思ったんですよ。来年の春にリリース予定のアルバムを今作ってるんですけど、そこではクリックも何も聴いていないのにカニエ・ウェストばりにコーラスを入れまくってるし(笑)。だけどそれは、現行のポップシーンとロックバンドのよさ、両方を知っている人でなければできないことだと思うんですね。


ーーまさに。


佐々木:そうなると、バンドとしてのグルーヴを面白くしていくためには、俺がメンバー個々のアイデアを活かすことがより一層大事になっていくと思ったんです。ナベちゃん(渡邊一丘/Dr)やテツもいろんな音楽を聴いているけど、やっぱり表現者としては生のグルーヴとサウンドを大事にして、バンドを信じている人たちだと改めて思って。特にギターで言えば、テツのキャラクター自体が自由にやることを求めている気がしたんですよ。


ーーテツさん自身は、正式にメンバーになってから初めての録音で心持ちが変わったとか、バンドに対するアプローチを考えたとか、そういうところはあったんですか。


アオキテツ(以下、アオキ):いや、自分としてはそこまでの変化はなかったと思います。自分は意識的に新しいことをやって表現するタイプではないと思うんですよ。それはa flood of circleに対しても同じ気持ちで。……たとえば自分は、パンクバンドやロックバンドで2番目にカッコいいヤツが好きなんです。


佐々木:戦隊ヒーローで言うアオレンジャー?


アオキ:そんな感じ(笑)。俺が一番になったんで! っていう気持ちはそこまでない。だから今までたくさんの人がa flood of circleのギタリストを務めてきた中で、俺だけが全然違うことをしてやるっていう気持ちでもなくて。ただただ自分はa flood of circleのギタリストとしてカッコいいものを目指したいんですよ。


佐々木:これまでにたくさんのギタリストがいたけど、テツはどの時期のギターもテツの色で弾けるんですよ。だから塗り替えるというよりも、その曲を自分としてカッコいい形で弾きたいっていうことだと俺は解釈したんだけど。テツが言ってくれた「a flood of circleを塗り替えるよりも、a flood of circleのギタリストとして爆発したい」っていう気持ちに俺もすごく勇気づけられるし、やっぱりこのバンドをロックバンドとして輝かせるバンドマンとしての精神性は、俺じゃなくてテツやナベちゃんが持ってると思うんです。バンドでしか生み出せないものに夢を見続けているっていうか。そういうテツがギターを弾いてくれたから、もう一度夢を見られたんですよね。


アオキ:ハードル高いなぁ……(笑)。でもバンドマンでいたいっていうのは、ほんまにそうで。バンドって、ガキでも誰でも勘違いさせてくれるじゃないですか。たとえば電車に乗ってる時に、サラリーマンのイヤホンからシャカシャカ音漏れしてて、見たら、手元で思わずギターを弾く真似しちゃってるんですよ。そうやって、俺でもできると思わせてくれるパワーがあるからロックバンドがいいんです。ロックバンドなら、「特に何もないです!」って言いながらコードを弾けば音楽になるじゃないですか。それがいいんですよ。


佐々木:俺は、とてもじゃないけどそんなこと言えない人間だから。バンドマンとしてのピュアさっていうのはずっと憧れに近いものだと思うんですよね。こういうテツがいないと出せない青春感、テツがいないと生まれない完全なバンド感っていうのがやっぱりあるんですよ。


■佐々木亮介「田淵さんが「春の嵐」が好きだと言ってくれた」
ーーやっぱりギタリストの脱退が幾度となく繰り返されてきたし、a flood of circleというバンドが、限りなく佐々木さんの個人的な制作の場である時期も長かったと思うんですよ。


佐々木:そうですね。やっぱり俺がなんとかしなくちゃっていう気持ちは強かったと思うし、それで必死に転がしてきたと思う。そのために批評的であることも大事だったし、本能的にやりたい自分との矛盾を感じた時期もあったし。だけどそれも受け入れられたのは、やっぱりテツが加入してくれたことによって、バンドとして何を鳴らすのかを楽しめるようになったからだと思うんですよね。


ーーそうですよね。たとえば「夏の砂漠」では照れ臭くなるほどヒロイックなフレーズと青春感が疾走していること、メジャーキーのポップさが新鮮なこと、シンガロングが多く取り入れられていることからも、バンド全体が束になっている感覚を覚えるんです。佐々木さんがバンドに対して寛容になったことで、メンバーのキャラクターを信頼して委ねる部分が増えたり、自身の表現の中に田淵さんを招き入れたりすることができるようになったりしたところもあるのでしょうか。


佐々木:そうだと思いますね。前作の『a flood of circle』までは自分たちの音楽を塗り替えたり新しくしたりっていうことをずっと考えてたんですよ。だけどこうして純粋にバンドマンとしての夢を持ってるギタリストと一緒にやっていく中で、いかに初期のfloodに戻らない形でバンドサウンドを突き抜けさせるかがテーマになってきたんです。そしたら「夏の砂漠」を作る前に、田淵さんが2009年のファースト(『BUFFALO SOUL』)に入ってる「春の嵐」が好きだと言ってくれて。


ーーメジャーキーで晴れやかなメロディを聴かせるポップチューンですよね。ここまでのfloodの歴史の中でも珍しいといえば珍しい曲で。


佐々木:そうなんですよ。でも田淵さんはあの曲のサラッとサビに行く構成やメロディがfloodの武器なんだって言ってくれたんですよね。なんなら、2009年から「floodは絶対にこの路線で行くべきだ」って言い続けてくれてたんですけど、俺は言うことを聞かずにやってきたわけです(笑)。だけど改めて「春の嵐」が好きなんだと言ってくれた時に、初期のテイストをもう一度見つめ直して、その続きを今の自分たちのサウンドで作るっていうアイデアが生まれていって。


ーーああ、だから「夏の砂漠」なんですね。


佐々木:そうそう。だから青春感があるんだと思います。俺ひとりでやってたら、昔の曲を参考にするなんて絶対あり得なかったから。


ーー過去の曲を参照することによって、今のa flood of circleと過去のa flood of circleはどういうふうに接続できたんだと思います?


佐々木:「春の嵐」を聴いたり、それにともなって昔の作品を聴いたりした時に思ったのはーー最初のギターの岡ちゃん(岡庭匡志)の頃からテツが加入してくれるまで、本当に悠久の時を感じてしまって(笑)。時間が経ったなって思えた時に初めて、自分の中でこれまでを全部消化できた気がして。岡ちゃんはLed Zeppelinが大好きで、ブルースとかブルースロックをよく聴いてたんですよね。岡ちゃんがいなくなってしまった後も自分は必死にバンドを転がして、一番最初のブルースロックを意地で守ってた部分がきっとあったんですよ。だけど、初めてのソロアルバム(『LEO』)のレコーディングでメンフィスに行った時に、ブルースに憧れてきた自分のことだったり、ブルースロックに引っ張ってくれた岡ちゃんのことだったりがようやく清算できた気がしたんです。やっぱり岡ちゃんが抜けた後は、なんとなく宙ぶらりんのままブルースの部分が転がっていたところもあったから。だけどメンフィスのアーティストたちが、古い音楽を新しい形にしていくところを目の当たりにした時に扉が開いたというか、もう俺は自由でいいなって思えたんですよ。ブルースに憧れるだけじゃなくて、それをどうアップデートしていくのかを自由にやるべきなんだと思った。日本のシーンがどうとかロックバンドがどうっていうのを言い訳にするんじゃなくて、バンドが闘うためには何を消化すべきなのかっていうことをもっと自由に考えられるようになったんですよね。そういう変化を経ていた真っ只中にテツがバンドに入ってきてくれたから、さらにバンドが自由にやっていくための勇気をもらったんです。その時に、現行のヒップホップも好きでやってみたい自分と、ブルースロックも好きな自分の矛盾を引き受けようと思ったんですよ。


ーー音楽家としての自分と「バンドマンでありたい」っていう自分を両方持っていることが矛盾じゃないと思ったことで、a flood of circleというバンドは自分の中でどういう位置付けになったと思います?


佐々木:日本の音楽シーンにしか興味がない人にもわかって、海外のシーンが好きな人にもわかる。そういう音楽を目指したっていいじゃんと思いました。知性的に音楽を捉えていく自分と、衝動的な自分のどちらも大事だって思えば思うほど、やっぱりラップに勝てないのが悔しいんですよ。たとえば今のラップミュージックのライブって、ロックバンドのライブよりもモッシュがすごいことになってるわけで。じゃあロックバンドは何だったら今のラップに勝てるんだよ? って思っちゃう。そこで勝つためのグルーヴを掴むために、今ステップを踏んでるんだと思えるので、色々と欲張って行けばいいかなと。田淵さんとバンドメンバーの個性とアイデアが、そういう自由なところに連れて来てくれたんだなって思います。


ーー「夏の砂漠」は、まさにバンドとして改めてのキックオフソングであるとともに、元々佐々木さんが持っていたポップなメロディを増強させている曲だという見方もできると思うんです。これも、バンドと田淵さんから引き出されたものなんでしょうか。


佐々木:俺自身も改めて思ったのは、結局歌モノなんだよなってことで。やっぱりメロディやポップさの部分では、俺は根底にスピッツがずっとありますから。スピッツがイベントの対バンに呼んでくれた時に打ち上げで、「スピッツが好きでも、それとはまったく違う音楽になっているのが不思議だね」って言ってたんだけど、スピッツだってTHE BLUE HEARTSみたいになりたかったけど、そうはなれなくて今の形になってるんだって考えたら、俺たちももっと好きにチャレンジしていけばいいと思いました。そうやって自由になっていけばいくほど、俺から出てくる歌がスピッツに近いものになっていくような、面白い感覚があるんですよね。それと、ギターをテツに任せられる部分が増えたことで、今まではギターのことを考えていた時間で酒を飲んだり飯を食ったり映画を観たりできるのはデカいかも(笑)。


ーーギターを弾く自分よりも、生活の中から出てくる歌にフォーカスを当てられたということでしょうか?


佐々木:そう。俺はそれが大事だと思っていて。俺の思うメロディっていうのは「いいメロディを聴いたから、それに刺激を受けていいメロディを書く」っていう作業から生まれるものじゃないんですよ。何か面白いことがあった時に、それがいいメロディになるっていう順序であるべきなんです。もちろんテツのフレーズが面白いからそれに引き出されてる部分もあるんだろうけど、音楽的なこと以上に、人の生き方としていいバランスが生まれてるのが、今のfloodなんだと思いますね。助け合いって言ったら当たり前なんだけどね。


アオキ:あ、そう言えば、レコーディング中に佐々木くんから「ギター弾かなくていいって楽だなあ」って声漏れてました。


佐々木:ははははははははは! でも、それも信頼だからね。で、その信頼のために必要なのは「どれだけの時間を共有できるのか」っていう部分だと思うんですよ。過去もすべて引き受けて、長い時間a flood of circleに居続けるって言い切ってくれるヤツは、テツ以外にいなかったですから。長い時間を過ごしていけると思ったほうが、同じ目標や未来を一緒に描けるじゃないですか。しかも俺たちみたいに、死ぬまでバンドをやり続けたいっていう目標があるバンドは、長いスパンで未来を描けたほうが絶対にいい。……でもまあ、これはテツらしいんですけど、バンドのためとか言いながらも、結局はワガママで主張が強いんです(笑)。そういうはみ出したパワーがいいし、「メインストリームにない価値観だとしても、別にいいじゃん」っていうことをより一層シンプルに伝えたいと思ったんですよね。


ーーたとえば「美しい悪夢」は極端なほどの高速ロカビリーで、〈正義のストーリー/とか出番はねえ/だって今夜はビューティフル・ナイトメア〉、〈まるで逆転満塁ホームランレベルの無敵な一発〉と歌っていますよね。悪夢が正義をひっくり返す、その瞬間を求めているんだと。


佐々木:そうそう。まさに「逆転」っていう言葉をそのまま歌ってるけど、それが正義ではなかったとしても、違う価値観があってもいいんじゃないかっていうのは、自分の中で変わらず伝えたいことなんですよね。やっぱりバンドとしての曲だと思った時に、自分がこのバンドで見せたい部分、変わらない部分は、より一層ストレートに出てきたと思う。その辺は3曲の中でちゃんと揃ってるかな。


■佐々木亮介「針の穴を通すことしか狙ってないバンド」
ーー〈まるで0-2からのハット・トリック〉という一節もありますが、ずっと定型のまま更新されないという見方が強かったロカビリーやブルースロックをアップデートしていく意識も強いバンドじゃないですか。ある種の様式美と、だけどそれを変えていく勇気の部分。それをすごく難しいバランスでやってきたのがa flood of circleなんだということがわかりやすい曲だと思って。


佐々木:ほんとにそうで(笑)。針の穴を通すことしか狙ってないバンドなんだなって俺も改めて思ったんですよ。音楽的にも文化的にも今までの世界にはない価値観を見せることが一番楽しいと思ってるし、2点ビハインドからのハットトリックが一番気持ちいい。きっと誰でも、「今までの価値観だけじゃつまらないじゃん」ってわかってるはずなんですよ。たとえば今、The BeatlesやNirvanaを聴いて、歴史が覆った瞬間を疑似体験することで、安心したり気持ちよくなったりしてるだけなんだったら、それは本質的にズレてるんです。何かが覆る瞬間に感動したのなら、やっぱり何か新しいことを求めてやるべきなんじゃないかって思うから。


ーーここ1、2年のロックバンドの流れって、今のロックの形が一旦完成したと言われる90年代に回帰していくか、あるいはHIPHOPやR&Bがメインストリームになった今をどう消化して闘っていくかのふたつに大きく分かれていると思っていて。その流れもちゃんと理解して消化した上で、a flood of circleはさらに日本語のロックができることを模索し続けている。本当に貴重なバンドだと思います。


佐々木:単に昔に回帰してリスタートを演じることはできちゃう気はするけど、それは本当につまらないことだなって自分ですぐにわかるんですよ。常に変わり続けているくせに、変わらないことを演じるのはすごく気持ち悪い。やっぱり平和な場所に俺たちは生きてるし、何にせよ目を瞑って生きていたらOKにはなってしまう。たとえば日本に飛ばされてるミサイルだって、そのパーツは日本のどこかの商社が作ってるわけですよ。ミサイルを飛ばす国を批判するには、自分たちがその一端を担ってることを詰めなくちゃいけないと俺は思うから。そういう違和感があるなら全部変えていく、その気持ちよさを感じられるのが俺にとってのロックバンドだから。たとえ「頭の中がお花畑だね」って言われたとしても、ロマンチストで居続けたいですね。


(取材・文=矢島大地)