2018年11月06日 10:12 弁護士ドットコム
「週刊少年サンデー」で1997~2006年に連載された藤田和日郎さんの人気漫画「からくりサーカス」が、10月からアニメ化されている。マリオネットを操る人形使いたちが、人を襲う自動人形(オートマータ)と戦うアクション作品だ。
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メーンキャラクターの1人・才賀勝は三男ながら、大企業の社長だった父の遺言で全財産を相続する。原作では、その額「180億円」。それゆえ、叔父からは誘拐されるし、4人の異母兄姉からは命を狙われることになる。
しかし、遺言に書いてあれば、全財産を特定の人物に譲れるのかと言えば、実際のところはかなり難しい。「遺留分」という仕組みがあるからだ。「からくりサーカス」を例に、相続の仕組みを見ていきたい。
遺留分とはなにか。相続問題に詳しい鈴木優大弁護士は次のように説明する。
「『遺留分』とは、兄弟姉妹以外の相続人のために、法律で保障されている最低限の持分のことです。
たとえば、特定の相続人にすべての財産を相続させる旨の遺言がある場合であっても、他の相続人は、当該相続人に対し、法律で保障されている最低限の持分である『遺留分』を請求することができます」
からくりサーカスの例だと、勝の父に配偶者はおらず、その両親(勝の祖父母)も死んだことになっている。遺留分が生じるのは、勝のきょうだいだけ。彼らにも180億円の一部を相続する権利がある。
実はこの辺り、原作でもちゃんとフォローされている。22巻では、遺言執行者が兄姉たちに向かって、「不服のある時は、遺留分の減殺請求などで申し立ててください」と話す場面が描かれている。
では、いったい兄姉たちには、いくら分の権利があるのだろうか。
「遺留分は、本来の相続分(法定相続分)の2分の1(直系尊属のみが相続人の場合には3分の1)とされています。
きょうだいが5人であれば、各人の法定相続分は5分の1ずつですので、遺留分は10分の1ずつになります。よって、1人あたりの具体的遺留分は、18億円です」(鈴木弁護士)
原作では、父の死後半年ほどたっても、勝の財産は180億円とされている。遺留分減殺の申し立ての権利は、1年たつと時効で消滅してしまうが、兄姉たちは大丈夫なのだろうか。あるいは、遺留分を除いた額が180億円ということなのかもしれない。
勝は結局、叔父の養子になることを決意する。では、もしも勝が死んでしまったら、兄姉たちは相続できるのだろうか。
鈴木弁護士の答えは「相続できません」。「このケースでは、養親のみが相続人になり、兄弟姉妹は相続人にはなりません」
勝の兄姉たちからすれば、チャンスを逃してしまった形のようだ。このあとも命を狙われるとすれば、怨恨の側面が強いと解釈できそうだ。
なお、今回は単純化のため、相続税を除いて計算している。6億円超の財産に対しては現在、税率が55%かかる。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
鈴木 優大(すずき・ゆうだい)弁護士
早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、東京大学大学院法学政治学研究科法曹養成専攻中退。大学院在学中に司法試験に合格。現在、東京都新宿区に事務所を設け、相続、不動産、企業法務を中心に取り扱う。
事務所名:弁護士法人おおたか総合法律事務所
事務所URL:http://www.otaka-law.com